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第33回 生産財企業のマーケティング戦略パターンその2

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

前回は、生産財企業のマーケティング戦略を、顧客特性に違いにより4つのパターンに分けて考えることを提案しました。
今回は、案件管理型生産財の検証です。

案件管理型生産財企業のマーケティングの特徴とは

案件管理型生産財は、ユーザーの操業時間帯において使用されるため、操業時間内にスムーズな稼動が保証される機械・サービス対応が要求されます。従って、ユーザーは個々の製品品質だけでなくビフォア、アフターサービスを含め信頼できる企業を選択する傾向が強く、企業の総合力が業績に大きく寄与するのです。

市場ターゲットと受注プロセス両面から商品開発、生産、販売各部門連携強化が企業の業績を大きく左右します。各部門の情報連携を密にする仕組み確立と体質づくりが重要です。
しかし、多くの企業では、販売と技術・生産の反目が大きく、受注プロセス段階でのスムーズな対応を妨げています。

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個別ユーザーの受注プロセス管理の仕組み確立が重要

①拡販余地分析

市場管理型生産財同様、細分化による攻略ターゲットの選定と拡販余地分析による戦略立案が重要ですが、市場管理型に比べ、ユーザー個々の受注規模が大きいので、個別ユーザー毎の受注プロセスを十分踏まえた顧客への戦略対応力が求められます。

このような点から拡販余地分析を行うと以下のようになります。 「拡販余地」とは長期的にみた自社の売上拡大余地をいいます。案件管理型生産財の拡販余地は、以下3つ3つにわけて考えます。それぞれの余地により、対応の仕方が変わるからです。

●既存取引ユーザーに、耐用年数を基準として確実に自社製品に買い替えてもらう可能性(自社買い替え余地)

●自社製品の良さを実感してもらうことを通じ他社製品を切り替える可能性(ブランドスイッチ自社買い替え余地)

●ユーザー自体の需要拡大の可能性(買い増し余地)い替え余地を獲得するためには、製品導入前後のユーザーニーズへの素早く、きめ細かな対応が大きく影響します。購入するまでは、盛んにユーザー対応しながら、購入後は、時間経過とともに、おざなりなフォローになることが多いです。ユーザーは、そのような体験を通じ買い替え時に他社品を購入する心理基盤ができるのです。

ブランドスイッチ余地を獲得するためには、相対的な製品品質が競合品より優れていることが前提になりますが、ユーザーから見た参入企業間の製品品質差が見えにくくなっている現状では、製品導入後の徹底したユーザーフォローがポイントになります。機械使用を通じ、ユーザーの多様な要望に対応することを通じ、ユーザーの抱く不安感を取り去る努力を企業全体で実践することです。それにより、ユーザーに競合製品との違いを体感させ、ブランドスイッチにつなげるのです。

買い増し余地獲得は、上記2つの拡販余地獲得ポイントを実施することは同様ですが、さらに、ユーザーの事業計画情報から自社対象製品の買い増し可能性を検証することです。計画にラインの増強や、エリアの拡大などがみられると買い増し可能性は高まります。関係者との接触を通じ、このような情報が公表される前に先行把握することが重要です。市場の冷え込みにより、先行きの不透明感により既存需要が減少する可能性があります。 このような状況への対応においてもユーザーの需要情報把握は不可欠です。(下図参照)

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②拡販プロセス管理

多くの企業は、ユーザーからの引き合い情報に頼った「待ち」の受注活動に依存しています。また、営業担当者個々人任せの拡販活動になっています。拡販展開では、受注の先細りは否めません。ブランドスイッチ余地や 買い増し余地を獲得するためには、計画的な受注プロセス管理が重要です。案件管理型の生産財では、個別ユーザーの拡販プロセス管理の仕組み確立が重要です。 (下図参照)

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拡販対象となるユーザーを拡販プロセス段階により区分するのです。

●種まきユーザー(自社価値の認知訴求を通じ将来の受注候補先の可能性を探るユーザー)
・ユーザー自身に対象製品使用の可能性があるかどうか見えない段階であるため、業界やエリアを絞って アプローチをかけ今後のフォローの要否を判断することに焦点を当てた活動を行います。

●ターゲットユーザー(自社製品を購入する可能性があるユーザー)
・製品導入後○○年経過しているので舞い買い替え時期に来ているユーザー、過去半年以内に展示会に来てくれたユーザーなど一定の条件を設定し、その条件をクリアした先に対し、積極的なアプローチをかけます。

●引合ユーザー(ターゲットユーザーの中で、受注の可能性が示されたユーザー)
・ユーザー個々の具体的な要望に応えるための組織連携活動を行います。

●受注/失注/中止・延期ユーザー
・拡販結果を確認し、その要因を整理することで今後の施策に活かすことが重要です。

多くの企業では受注結果の確認は行いますが、要因となる受注プロセス分析ができていません。種まき活動が少ないのか、ターゲットユーザーへの働きかけに問題があるのか、引合ユーザーへの組織連携活動ができていないのかなど課題プロセスを明確にし、受注確率向上の重点検討対象を決めることが必要です。

対象ユーザーの規模や要望内容により初期アプローチ段階から受注結果までの時間はばらつきますが、プロセス管理を行うことにより時間短縮を行うことができるプロセスを明確にすることも大事です。

●既存発想を変革する製品・生産面からの改革

多くのユーザーは、単なる経済的メリットだけでなく、+αの価値要求が強まっています。メーカーとしてこの要求に乗り遅れると業績回復は困難であり、自然淘汰される可能性が高くなります。参入企業は、生き残りをかけた絶え間ない技術開発を要求されます。

また、ユーザーの要求品質は、固定的なものでなく常に移り変わっていきます。これに対応するには、ユーザー業界の動きや個々の企業の動きをキャッチし、各動向と要求品質との関連を体系づけていくことが必要となります。
重要なことは、常に既存発想を変革し、新たなマーケティング戦略を組み立て実践することです。

しかし、これらの対応を推し進めることは、コストアップにつながる要素が多く、闇雲な展開は経営悪化につながる可能性が高く、ここにおいても戦略ターゲット設定のが重要となります。
製品企画をする際は、どのような機種構成にすべきかを考えることから始めるべきです。
すでに、機種間競合し、個々の製品が需要を食いあっているケースをよく見かけます。このような状況を打破するため以下のステップで検討を進めることを提案します。

Step1.市場の細分化

・細分化視点としては、出力/精度/柔軟性/システム特性などが上げられます。
・ユーザーの求めるニーズの大半は経済性です。その経済性をどのような方向で追及していくのかを見極めることです。
機械の品質に対する要求度合いを明確にします。同一の要求度合いであれば該当セグメントは 統合してもかまいません。

Step2.製品の売れ筋分析

・セグメント毎にどのような製品が売れているか?自社製品はなぜ買われないのか?を分析します。
このステップで単純に『価格が高いから』と理由づけると何も見えなくなります。各セグメントは、 コストパフォーマンスの考えが異なるため価格以外の要素をどこまで掘り下げられるかが重要です。

Step3.製品のポジショニング

・自社および他社製品が、ユーザーの要求品質に対しどのように位置づけられるかを明確にします。
ここでは他社の戦略を読み取ることを意味しています。

Step4.市場細分化の確定

・Step1-4の検討により仮設定したセグメントを統合、再分割することにより確定します。
これにより、事業戦略で意図した内容が、どのような製品構成をもって対応する必要があるかを明らかにすることができます。

ここまでの一連のプロセスを市場構造分析といいます。この市場構造分析を経て、初めて新製品開発必要性を検討するステージに入ります。それは、新領域への製品投入、シリーズの統廃合、技術導入などの企業提携などです。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)分析などを活用し検討をすすめます。

次回は、「顧客管理型生産財企業のマーケティング戦略」についてお話します。

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