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「諦めない心」が世界初を生み出す
イノベーションあるところにチャレンジの歴史あり

2018年6月14日

株式会社 島津製作所
代表取締役会長 中本 晃 氏
「科学技術で社会に貢献する」――島津製作所はこの社是のもと、142年にわたりイノベーションに取り組み続けてきた。「企業は長く存続して人々に働きがいの場を提供するとともに、人そして社会に役立つものを提供し続けなければならない」とする中本晃氏(代表取締役会長)の言葉には、事業継続と新価値創造への熱い想いが込められている。イノベーションの創出に求められるものは何か。事例を交えながら、企業におけるイノベーションの重要性、そして人材育成と組織運営のあり方についてお話しいただいた。

※2018年3月6日のJMACトップセミナー「科学技術で社会に貢献する」より

イノベーションと企業経営は「車の両輪」 新価値創造でビジネスを永続させる

 私は、企業の第一の目的は「人そして社会に役立つものを提供して、豊かな社会づくりに貢献すること」であると考えています。島津製作所はこの目的を実現するために、「科学技術で社会に貢献する」という社是のもと、今日までイノベーションへの取組みをやり続けてきました。本日は、当社のイノベーションへの取組みの歴史を踏まえ、イノベーションの創出についてお話ししたいと思います。

 イノベーションは、「社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)で新たな価値(製品・サービス)を創造すること」であり、豊かな社会づくりの「エンジン」と言えます。一方で、企業は事業を永続させるために"稼ぐ力"をしっかり身につけて、短期ではなく長期にわたって継続的に利益を上げていかねばなりません。そのためには新たな価値を生み出すイノベーションへの取組みが不可欠です。つまり、イノベーションと企業経営は「車の両輪」であるとも言えます。そして、イノベーションを起こす原動力は、なんと言っても「チャレンジ精神」です。ベンチャー企業として始まった当社は、創業当初よりチャレンジ精神でイノベーションへの取組みをやり続けてきました。

 創業者の初代島津源蔵は、理化学器械の製造販売で科学技術の普及に貢献しました。日本で初めて有人軽気球の飛揚に成功するなど、島津製作所発展の基礎を築いたと言われています。日本初となる理化学器械の目録(カタログ)には、最終ページに「此外様々御好次第、何品ニテモ製造仕候」と記載し、早くから顧客第一の精神を貫きました。この精神は今にも受け継がれ、「Best for Our Customers=すべてはお客様のために」というスローガンとして、社員の行動原則になっています。 

 息子の2代目源蔵は、レントゲン博士がX線を発見してからわずか11ヵ月後の1896年10月にX線の写真撮影に成功し、1909年には日本で初めて医療用X線装置を開発しました。また、産業の発展には電力の安定供給が不可欠と考え、鉛蓄電池(商標:GSバッテリー)の開発・製造に全力をあげています。

 この創業者2人のパイオニア精神を受け継ぎ、当社は142年間事業を継続してきました。それができたのは節目、節目で危機を回避すべくイノベーションで変化できたからだと言えます。次は、事業を長く続け、社会に貢献し続けるために取り組んだイノベーションについてお話ししたいと思います 。

「選択と集中」でイノベーションを加速 強みを活かした"重点投資"がカギ

 当社は、1990年ごろまでは事業の多角化を進めてきましたが、それ以降から現在にかけては、「事業のポートフォリオの見直し」と「選択と集中」を行い、事業の集約を図りました。そして、2002年からは戦略機種への重点投資でイノベーションを一気に加速させました。ここでは、当社事業の中で最も長い歴史を持つ「医用機器」と、当社事業の最大の柱である「分析機器」についてお話しします。

 2000年、医用機器事業は赤字に転落しました。企業規模に見合わない機種拡大が、開発技術者の不足を招いたことなどが原因です。そこで2002年、歴史があって技術の上でも強みが発揮でき、かつ今後新興国でも大きな需要が見込めるX線事業へ集中することを決断し、MRIなどからは完全撤退しました。ほぼすべての技術者をX線事業に投入し、画質・品質・独自性で「世界一のX線」を目指すことにしたのです。

 その結果、2003年には世界で初めて直接変換方式X線平面検出器(FPD)の開発に成功し、2005年には可搬型FPDを搭載した院内回診用X線装置を世界で初めて製品化しました。これは北米で当社最大のヒット商品に育っていきました。こうした特徴あるX線装置を市場に投入し続けることで、現在の売上高は約650億円となり、赤字転落前の最高売上高を上回るまでに成長しています。

 分析機器は、各種産業の発展に大きく貢献することで共に成長発展してきました。そして、分析機器の市場は、1990年代後半から医薬・食品・ヘルスケアといったライフサイエンス分野を中心に大きく拡大してきましたが、当社はこの分野で必要とされる質量分析装置について大きく出遅れていました。そこで2002年頃、当社が強みを持つ"タンパク質の構造解析"に威力を発揮する質量分析装置開発への重点投資を決断し、開発技術者の増強や外部研究機関との連携強化などを行いました。

 その結果、2004年には3モデルだった質量分析装置は、現在では9モデルになり、クロマト分析装置全体の売上高も490臆円から1100億円と2倍以上に拡大することができました。この重点投資の中で開発したイメージング質量顕微鏡と超臨界SFE/SFCシステムは、世界初かつオンリーワンの製品であり、産学官連携の大きな成果と言えるでしょう。

 このような2002年の決断が大きな変化を生み出し、2つの事業の成長につながりました。それでは、こうしたイノベーションの創出には何が必要なのでしょうか。次は、2代目島津源蔵とノーベル化学賞を受賞した田中耕一シニアフェローを例にとって、革新的な技術を生み出す研究開発についてお話しします。

革新的技術を生み出す"原動力"は何か 2代目源蔵と田中耕一氏の共通点

 2代目源蔵は、鉛蓄電池用鉛粉の大量製造法の発明により、1930年に第1回「日本の十大発明家」の一人に選ばれました。それから72年後の2002年、当社の田中耕一シニアフェローが、世界で初めてタンパク質を分解させずにイオン化することに成功したとして、ノーベル化学賞を受賞しました。2人の過ごした時代は大きく異なりますが、研究開発に取り組む姿勢には、いくつかの共通点があると私自身は感じています。まず、2人とも好奇心が人並み外れて強いということが挙げられますが、ほかにも3つの共通点があります。

 1つ目は、「明確な目標の設定」です。源蔵はエネルギー需要を支え産業を発展させるために、田中さんはライフサイエンス研究を発展させるためにと、明らかに社会貢献につながる明確な目標を持っていました。そしてこの高い目標に向けてチャレンジしていったのです。

 2つ目は、「諦めない」ということです。2人とも最初からうまくいったわけではありません。何度失敗してもくじけることなく、集中力を切らすことなく、工夫の限りを尽くしました。これが成功を生み出したと言えます。

 3つ目は、「優れた観察眼」です。源蔵は鉛粉をつくるために鉛の玉の粉砕機を制作していたところ、たまたま鉛の玉の投入口に塵のように積もっているパウダーを発見し、蓄電池用鉛粉の製造法に至りました。田中さんは、タンパク質をイオン化するために混ぜる材質を間違えましたが、いつもと違う分析データが出てきたことを決して見逃さなかった。このことは2人とも優れた観察眼の持ち主であったことを示しています。このような優れた観察眼は、やはり、この仕事が好きで常に集中力を高めて仕事に取り組んでいってこそ生み出されるものと私は考えています。

 このような姿勢を大切にする風土が会社にあったから、時代が大きく異なる2人が社会に役立つ革新的な研究開発に成功したのだろうと思います。次は、このような人材が出る社内風土について考察します。

イノベーション創出に必要なのは 「再挑戦を後押しする文化」

 イノベーションの創出には、社員のモチベーションを高める社内風土が必要です。当社では毎年、社員を対象にアンケートを実施しています。その中の「自分の仕事は社会に貢献している」「島津製作所の社員であることに誇りを持っている」という質問に、90%以上の社員が「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答しています。これは、アンケートを始めた10年前から変わりません。

 この結果は、当社社員の仕事へのモチベーションが全体的にかなり高いことを示していると言えます。これは当社の主な事業領域が医療や医薬、食品、環境、エネルギーといった社会や人の生活に密接に関わるものであること、そしてその発展を「科学技術で社会に貢献する」という社是のもと目指していることが関係していて、それが一種の社内風土のようになっているのではないかと考えています。

 イノベーションの創出には、こうした社内風土とともに、次のようなことができる人材育成が必要だと考えています。まずは何をやるにしても、それが「社会の役に立つか」を繰り返し自問すること。常にこれを頭に染み込ませて仕事をすることが大事です。次に、「他の人と同じことはやらない」ということ。同じことをやっていては社会の役に立つことにはなりません。「他の人と同じことはやらない」を、しっかり実践することが大事です。そして、「常に新しいことにチャレンジする」こと。これは必須です。常に高い目標を設定し、どんなことにも関心を持って、広い視野でよく勉強することが大切です。今、 IoT や AI がよく言われる時代ですが、真にいろいろな分野の勉強をすることがこれまで以上に必要になってきています。

 これらの実行がイノベーションを創出できる人材育成につながると思いますが、個人、個人に押し付けてもうまく進みません。これができるような社内文化の醸成も必要です。私がとくに大切だと思うのは「失敗を許容し、挑戦を後押しする文化」です。失敗を許容するところまでだとまだ半分で、そこからもっと大事なのは、「再挑戦する人をどうやって後押しするか」です。失敗したときこそ、マネジャーや上司が論理的で納得感あるサジェスチョンができることが重要です。失敗にくじけずチャレンジを続けるには、本人の強い意志はもちろんのこと、周りのサポートも大切なのです。

オープンイノベーションと 社内資源の活用で生き残れ

 そして、これからの時代にイノベーションを創出していくためには、オープンイノベーションの推進も重要です。オープンイノベーションと言うと社外ばかり考えますが、よく考えると社内には多様な人材がいますから、まずは社内でオープンイノベーションを推進することが大切です。

 また、社外に目を向けると、産学官連携の共同研究・開発も重要で、当社もかなりの件数を行っています。成功するかどうか見極め難いものが多々ある中でやっていきますから、一本足打法的ではなく、常に複数のテーマを走らせるようにしています。その中から1つずつでも製品につながったらいいのです。ですから、社内外からいろんな提案があったときに、これは価値がありそうだと感じたものに関しては「まずは共同して新しいものをやっていこう」と言える仕組みや雰囲気は大切です。

 社外との連携という意味では、取引企業との切磋琢磨も重要です。これからはお互いが企業として本当に生き残っていけるのかということを考えたら、ものをつくって納めるというこれまでの形態に留まらず、お互いが、それぞれ独自の強い技術を育て上げ、それらを持ち寄って、まだない独創的なものをつくり上げていくような仕組みが大事なのではないかと思います。 

革新的な製品・サービスの提供で 社会に貢献し続ける

 現在当社は創業142年になります。2075年には創業200年を迎えることになりますが、そのときのあるべき姿をこう考えています。現在は分析機器でも医用機器でも研究室や実験室、あるいは検査室といった「特定の場所」で「特定の人」が使用することが当たり前になっています。しかし、50~60年後には大幅な技術革新で、各種装置が小型化やロボット化され、さらには高感度化、ネットワーク化が進み、「もっと身近な場所」で「誰でも」使えるようになっていることが望ましいと考えています。たとえば診察室に行くと自然に分析装置があるような、そういう形態で人の健康を常に見守ることができるようになりたいと思い描いています。

 そのためには、これからも人の健康のために医用と分析の技術を融合し、幅広い領域において当社にしかできない革新的な製品やサービスの提供を行えるよう、徹底して努力していきたいと考えています。

講演後の質疑応答・意見交換より


Q:社内の「オープンイノベーション」で、メンバーの知識や経験を集める方法は?

中本:社内でも事業分野や部が違うと、何かを共同でやろうとしてもうまくできないことが多いのです。まずは会社内で社内オープンイノベーションをやろうとする雰囲気づくりが必要だと思います。そのうえで、やろうとするプロジェクトのテーマを明確にし、自部門で不足している知識や経験を開示し、手を挙げた人が所属する部門、またそれを保有していると推測される部門などに粘り強く参加を働きかけます。そして決まったら、全メンバーを計画書に役割と合わせて明記し、メンバー全員がプロジェクトに責任を持つことを明示することが大事だと思います。

Q:優れたアイデアを事業につなげる方法は?
中本:大切なのは、マネジャーの「よし、この新しいことに絶対にチャレンジしよう」という強い意志です。そして明確なビジネスモデルを立案し、実現に向けてのストーリーを立て、その中でアイデアを事業にするために乗り越えなければならないと思われる壁を明確にして、それに充てるリソースも考えるなど、周到な計画を立てて、経営層に提案することが必要だと思います。

【講演を聴いて】鈴木亨のひとこと

中本会長のお話を伺い、経営は思想であることを痛感しました。「科学技術で社会に貢献する」という社是のもとに社員が一丸となって活動をしている、経営はその後押しを心掛ける、これが島津製作所を長い間事業発展させてきた所以だと思います。これからも好奇心を持ち諦めない社風がイノベーションを起こし、革新的な製品とサービスで社会に貢献し続けていくと確信しました。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.66からの転載です。

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