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パッションをアクションに変える!
2 度のV 字回復を支えた改革への挑戦

2017年12月 1日

TOTO 株式会社
代表取締役 会長 兼 取締役会議長 張本 邦雄 氏
トイレや洗面器などの衛生陶器で国内トップシェアを誇り、2016 年度は過去最高益を更新したTOTO であるが、近年は2 度の赤字転落を経験している(1998 年度経常赤字、2008 年度は純利益が赤字)。そのいずれをも大胆な改革でV字回復に導いたのが、代表取締役会長の張本邦雄氏だ。しかし張本氏は言う。「私はかなりの慎重派で、気合で動いたことは一度もない。私にとって定量化とロジックは、避けて通れない意思決定のプロセスだ」。圧倒的な定量化と緻密なロジックに裏打ちされた改革は、科学的でありながら人の心に働きかけ、行動を変えていく。「改革や革新は、最後は周りの人がどれだけ納得感を持つかが重要である」とする張本氏に、事例を交えながら改革への想いとその軌跡をお話しいただいた。

※2017年7月25日のJMACトップセミナー「TOTOの変革と挑戦」より

バブル崩壊で赤字転落 「営業魂」で改革を仕掛ける!

 私は東京の生まれで、親父は従業員5 人の鉄工所を営んでいました。職人だった親父は「お前には跡を継がせたくない。学問を身につけてサラリーマンになれ」と非常に教 育熱心で、小学生の私に家庭教師を2 人もつけてくれました。零細企業のため景気に左右されやすく、大学生のときには鉄工所が倒産しかけたこともあったので、「財務基盤 がしっかりしたものづくりの会社に入りたい」と考えて選んだのがTOTO でした。
 1973 年の入社以来ずっと営業畑を歩み、2009 年に15代目の社長に就任しましたが、本社(北九州市小倉北区)での勤務経験がない社長は歴代初めてで、営業しか知らない 社長も初めてでした。これが1 つの大きなキーポイントで、今日は国内を中心とした営業スタイルの変革についてお話ししたいと思います。
 私が営業企画部の部長だった1998 年、TOTO は赤字に転落しました。バブル経済の崩壊で新築住宅件数が激減したのが原因です。新築が本当に盛り返すのかわからず、目の 前でとんでもないことが起こって営業利益率がどんどん落ちていった時代でしたから、「このままではまずい。何かしなくてはいけない」と感じていました。状況が大きく変 わった以上、それまでの販売スタイルを転換すべきだと考えた私は、「流通改革」「販売革新」「リモデル戦略」という3 つの軸で改革を進めていきました。


「流通改革」で特約店の自立を促し、新たな関係性を築く

 「流通改革」では、流通網を整備するために特約店制度を抜本的に見直しました。新築住宅件数が右肩上がりだったバブル崩壊前は、多くの特約店からなる「網の目のような販売網」がTOTO の大きな強みで、特約店の経営も安定していました。
 しかし、バブル崩壊後は全体のパイが小さくなったことから競争が激化し、特約店の経営は厳しくなる一方でした。これを打開すべく行ったのが、商材の総合化です。それ までは、トイレや水栓金具を専門に取り扱う特約店、お風呂を専門に取り扱う特約店などというように、商品ごとの特約店制度を敷いていましたが、「トイレだけではなく、 洗面化粧台もお風呂も、他社製品もどんどん売ってください」と取り扱ってもらう商材の幅を広げたのです。
 これに伴い従来の「商品別特約店制度」を廃止して、「総合特約店制度」に改定しました。手形取引をすべて原則現金取引に変更したことに加え、リベートや保証料の問題 もありましたので、特約店が受ける影響を試算しながら、1年かけて一つひとつの特約店に説明を尽くしていきました。実は、これが実現できたのには、ある大きなきっかけがありました。大手特約店の倒産です。それまでは経営危機に陥った特約店があるとTOTO が人や資金を投入して救済していましたが、当時はもうそんな時代ではなくなっていたのです。ロイヤリティが高く販売力もある特約店で、経営者の顔も目に浮かびましたが、改革のために涙を呑んで静観の姿勢を貫きました。
 これを目の当たりにした他の特約店は強い自立心を持つようになり、動きがガラッと変わりました。従来の直接取引先は設備系の専業特約店が大半でしたが、それからはあらゆる流通の方とTOTO の意思を明確にして付き合う姿勢に変えていき、現在では驚くほど多様な流通の方と仕事をするようになってきています。


「本来の営業」とは何か 「営業センター」が改革のキーだった

 こうして流通網の整備は少しずつ進んできたのですが、もう一方で大切なのは、TOTO セールスの動き方です。従来は、特約店に行って在庫を確認し、注文書を受け取ってくる「流通営業・御用聞き営業・属人営業」でも回っていましたが、パイが減ったのですからそれではやっていけません。そこで、営業力を強化するために行ったのが、「販売革新」という活動です。「接点営業・ソリューション営業・組織営業」の3 本柱で販売の体制を変えていきまし た。
 「接点営業」とは、お客様により近いところで営業をするという意味です。たとえば、特約店ではなく水道工事店に行って来月の工事状況を聞き、特約店にフィードバック ・共有化します。また、「ソリューション営業」は「来月はどこの工事がとれそうですか。その物件をとるための課題は何ですか? 一緒に解決しましょう」と積極的に提案 しようということです。
 ここで一番大事なのは、セールスが「本来の営業とは何か」を理解しているかどうかです。営業の本来の仕事は、商品の説明をすることでも、在庫の問い合わせを受けることでもありません。価値提案です。そこで、本来業務以外の問い合わせをすべて受ける「営業センター」を全支社に設置し、「組織営業」の体制を構築しました。
 すると、セールスは積極的に接点営業に行き、価値提案をするようになっていったのです。営業センターが機能しだしたことで、彼らは自分がすべき仕事を自然と理解して いったのです。よく企業革新はトップダウンでやれという話を聞きますが、なかなか変わらないものです。結局は個人の価値観がどう変わるかですから、そういう環境を用意 してあげて、自然と変わるのを待つこともときには必要だと考えています。
 「営業センター」は、セールスだけでなく特約店の意識改革も進めました。センターには特約店からの電話やメール、FAX などあらゆる情報が集まるため、そのデータをもとに電話量や質問内容などを分析し、フィードバックしています。それは特約店そのものを強くし、顧客満足の向上にもつながっていきました。まさにねらいどおりの展開で、現在はさらなる効率化を目指し、営業センターを「受注」「見積もり」「問い合わせ」の機能ごとに集約し、運営しています。

「定量化」と「ショールーム」でリモデル 戦略を加速する

 私が当時の社長から「リモデルをやれ」と言われたのは、流通改革と販売革新を推し進めている最中でした。TOTOは1990 年代前半からリモデルにシフトしていましたが、私 はそれに関心がなく、本当はやりたくなかったのです。しかし社長命令ですから、「やる前に3 ヵ月数字を集めさせてください」と言って、若い社員を4、5 人集めて統計局に 毎日のように通い、あらゆるデータを収集・分析しました。その結果、リモデル市場の成長性を確信した私は、2003 年にコンタクト営業推進室長に就任しました。そのときの 戦略のポイントは、「リモデル実績の定量化」と「ショールームのプロフィットセンター化」です。

 まず、「リモデルがどこでどれだけ売れているのか」を把握するため、販売実績のコード化を進めました。2 年位経って把握の精度が上がってきた段階で、セールスの成果指標を全部変えていくというプロセスを踏んでいます。
 コストセンターであるショールームの成果指標はさまざまなメーカーが一番困っているところだと思いますが、われわれはショールームの来館者数や見積もり内容、見積もり金額や受注金額などをすべてデータ化しています。これによりショールームをプロフィットセンター化できますし、ショールームの目標を明確に定量化できるのです。さらに営業セールスがショールームの重要性を理解できるようにもなるため、このような紐づけはとても大事です。
 また、リモデルでショールームを活用する最大のメリットは、商品単価の高さにあります。新築では予算の関係で後回しにされがちな水回りですが、リフォームとなると真剣に考えて、ほしいものをお買い求めいただけるので単価が高くなるのです。そのため、リフォームの営業利益は新築より高く、リフォームのウェートを増やせば増やすほど売上の伸び以上に利益率が上がっていくという構図があります。これをわかっているかどうかも非常に重要です。
 こうして流通改革と販売革新、リモデル戦略を進めてきましたが、これらは決して最初からセットで行ったわけではありません。一つひとつ目の前の課題を解決していった ら、最終的にリモデル戦略に結びついたというのが実態です。ただ、改革の一番大きなきっかけはやはりマーケットの激変です。私が社長になった2009 年はリーマンショックの直後でしたので、次はそのお話をしたいと思います。

腹落ちした真のグループ経営で企業価値の最大化を目指す

 2009 年、バブル崩壊時以来10 年ぶりの赤字転落が、私の社長就任のスタートでした。このときに考えたのが、「全社最適」と「全社一丸」の2 つです。
 「全社最適」を具現化するために策定したのが、長期経営計画「TOTO V プラン2017」です。事業戦略に全社最適活動を組み込み、改革の柱としました。商品別だった事業を「国内住設事業」「海外事業」「新領域事業」の3事業に再編し、これを縦軸に、5 つのタスクを横軸にして全社横断的な全社最適活動を推進しています。5 つのタスク「マーケティング革新」「サプライチェーン革新」「ものづくり革新」「マネジメントリソース革新」「経営情報イノベーション」のヘッドには副社長2 名、専務2 名、常 務を据え、「横が最適解を出すのだから、縦よりも横の方が偉い」と宣言しました。横軸の組織をつくると縦横どちらが偉いかという議論になるので、あえて会議体のままに しています。この活動の目的は業績の改善ではありますが、何より重要なのは、横軸に入って活動した部長クラスの人たちが「全社最適とは何か」を学ぶことだと考えていま す。彼らは今ちょうど部門長クラスになりましたが、全社最適の視点で議論ができるようになっています。人づくりとはそういうことだと思いますし、これがこれから先5 年 10年のTOTO を支える大きな基盤になったのではないかと考えています。
 もうひとつの「全社一丸」では、真のグループ経営を目指しました。その実現のためには、グループ会社を本当に大切に思う心を持ち、同時にきちんと制度整備もしていくことが求められると考えています。社内では「子会社」とは呼ばず、「グループ会社」という呼び方をします。また、グループ会社を含めた業績連動型賞与の導入や、TOTOグループ会社のユニオン設立、契約社員の組合員化は制度整備の一例ですが、皆の意識改革は着実に進みました。
 グループ全体で行う人材教育も非常に重要で、リーダー候補を育成する「経営塾」は、コースによっては参加者の半分がグループ会社の社員です。グループ会社の社員をき ちんと教育して経営にコミットしてもらえるようにすることはとても大切ですし、ここのメンバーは何年かに一度会っていると思いますが、もうすっかり「同期」になってい るわけです。グループ会社とかTOTO 本体とか関係ない。こういうことが実は" 腹落ち" した真のグループ経営だと思っています。

「日本を世界のショールームに」日本のトイレ文化・技術を世界に発信

 私は2013 年3 月期で社長を終え、2014 年度に会長に就任しました。現在は、社長の喜多村が「TOTO V プラン2017」に基づき、「真のグルーバル企業」を目指してさらな るグローバル化を進めています。
 今、TOTO が注力しているのは「日本を世界のショールームに」という活動です。海外から日本に来た方々にウォシュレットを使っていただいて、母国に帰ってぜひウォシュ レットを広げてほしいというものです。
 われわれは、その地域その国でトップブランドになることが真のグローバル化だと考えています。今、全世界でナンバーワンのところも、セカンドのところも、まだまだ無名のところもありますが、誰もがTOTO を知っている、そして使ってみたいと思っていただけるようなブランドを目指し、さらなるグローバル化を進めてまいります。

講演後の質疑応答・意見交換より

Q:営業センターに集まるデータを効果的に活用する仕掛けは?

 張本:大きな4支社に営業センター企画の課をつくり、データをいかに有用なものに変えていくかというミッションを与えました。また、全国の営業センターの成果指標をつく り、コンテストで表彰して競争意識が芽生えるようにしています。「リードする仕組み」と「評価される場の設定」、この2 つをセットで行いました。

Q:「ソリューション営業」を促進するための施策は?

 張本:私が塾長になって「ソリューション塾」を立ち上げ、ソリューション営業できる人間を100 人つくりました。全国100 ヵ所の営業部門から係長クラスを1人ずつ選出し、研修テーマを持ち場で実践して1ヵ月後に報告・議論する、ということを繰り返すのです。研修には私も全部出席し、夜は酒を酌み交わしながら「君たちは選ばれて来たのです 。これから君たちが動いていくことが会社を変えていく大きなキーになる。だから真剣に取り組んでもらいたい」と言い続けました。こうした一連の研修や議論が具体的に何 をするのかという解になったと思います。

【講演を聴いて】鈴木亨のひとこと

 張本会長は一見豪放磊落な方なのかという印象を持ちましたが、非常に緻密で定量的に物事を進められる方であることがわかりました。改革を推し進めるためには強い牽引力 は言うまでもなく、ロジカルに周囲を説得かつ納得させて進めていくことの重要性を改めて認識させられました。逆の見方をすると単に緻密なだけでは持ち得ない「人を牽引 する魅力」があるお人柄でした。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.64からの転載です。

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