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【最終回】第10回 働き方改革におけるマネジメント・イノベーション(後編)

2019年4月24日

 前回は、成熟市場における営業外勤活動量および資源配分について解説しました。今回は量に対する「質」、なかでも人材育成について解説してきます。

営業活動の質を高めるOJTの再評価

 成熟市場では、より質の高い営業活動を志向しなければいけません。多くの企業はそのための戦略として、提案営業研修、コーチング研修、ロジカルシンキング研修など、Off-JTメニューといった方法を体系化し充実させています。
 こうした本社主導の教育が充実する一方で、OJTといわれる現場での教育・育成が一気に弱くなっています。
 リストラといった事情で、課長がプレイングマネジャーとなり部下の指導・育成に割ける時間がなくなったことは大きな要因のひとつでしょう。

 また従来型の「背中をみせて教える」という育成手法は、今の若手社員には馴染まなくなったようです。今の若手社員は情報のあふれる時代に育っているので、彼らは事前に仕事の全体像や本質、ポイント・留意点を知識として整理し、シナリオやあるべき姿を描いたうえで経験していく演繹的学習スタイルをとるからです。先輩から言われるままに、一つひとつこなしていき、だんだんゴールが見えてくる帰納的学習スタイル(「背中を見せて教える」)とは、抜本的に異なります。

 このOJTを見直して再び機能させようという取組みが、多くの企業で始まっています。さまざまな研修体系を整えている大手企業もこの動きは顕著です。Off-JTが充実しても、実際の活動に落とし込めているかを確認し、状況にあわせて指導していく流れにつながらなければ意味がないというわけです。

能力アップするOJT/ Off-JTの位置づけを理解する

 従来型のOJTではなく、時代に合わせたOJTをOff-JTと絡めて準備しなければなりません。つまり、Off-JTとOJTとを有機的に連動させていくのです。
 図は、アメリカでよく使われている「能力をアップする4段階のステージ」をチャート化したものです。

図 能力をアップする4段階のステージ

 左下の「①無自覚無能状態」は自分にスキルが不足していることすら自覚していない状態を表します。それが仕事の全体像やあるべき姿、そして推進上のポイントを理解するようになると、「②自覚無能状態」に進みます。あるべき姿と今の自分とを比較し、ギャップを自覚する状態です。ここではOff-JTが有効になります。上司が部下にあるべき営業活動の姿を提示し、現在の部下のレベルとのギャップを意識させます。たとえば、上司は営業プロセス毎のチェックシートを設計し、部下にセルフチェックをさせ、「自分はこのレベルまで求められている」「自分はここが特に弱い」ということを本人に認識させるのです。事例があれば現場での営業活動のイメージがより具体的に形成されます。このようなシナリオを思い描き、その後、経験に臨んで修正を施していく演繹的学習スタイルは、若い営業担当者には特に有効に機能するはずです。

 具体的にあるべき姿の水準に達成できるよう指導を受けながら取り組むことがまさにOJTに当たります。このように問題が克服されたときに、②から「③自覚有能状態」に進むのです。そして繰り返しOJTに取り組むことによって、意識しなくてもあるべき姿の水準の行動がとれるようになり、「④無自覚有能状態」へ移行するわけです。言い換えると、OJTのゴールとは「③自覚有能状態」までもっていくことです。

 ちなみに、上司が部下に対して指導した内容が分かったかどうかをたずね、部下から「分かりました」との回答が返ってきても、これはまだ「②自覚無能状態」にあると理解すべきです。分かったことを実践して意識や行動が「変わった」ときにはじめて「③自覚有能状態」に進むのです。「分かったと言ったくせに、まったくできてないじゃないか」と上司がいらだって部下を叱責するシーンを時々見かけますが、「分かる」と「変わる」は別物です。本人は分かっているつもりでも、まだ変わりきれていないので、できないのは当然なのです。「分かる」と「変わる」の違いを上司が理解できていないため、両者の間でコンフリクトが起きるのです。

部下のタイプ応じたOJTや育成を心がける 

 さて、最近はOJT手法として「コーチング」が注目されています。ティーチングが部下に不足しているものを提供するのに対して、コーチングは部下から答えを引き出すという手法で、「すべての答えは部下の中にある」という考え方です。

 とはいえ、コーチングにとらわれすぎて不具合が出るケースもあります。たとえばコーチング型の同行だと、上司は商談時は脇で部下のやり方を黙って見ていて、商談後にコーチングを行います。今回出来たことと、出来なかったことを本人に振り返らせ、整理させます。しかし、部下からすると「上司の顧客への関与がみられないのでメリットを感じない」といった不満が噴出します。

 ですから、ミドルマネジャーはコーチング一辺倒ではなく、ティーチングとコーチングのメリット・デメリットを理解したうえで、両者を使い分けしていくことが重要なのです。
 図は部下のタイプに応じた育成スタイルを整理したものです。

図 部下のタイプに応じた育成の関わり方スタイル

 まず、若手社員は経験や知識が少ないためティーチング中心の育成になります。彼らに少しスキルがついてきたら、コーチングも織り込みながら指示待ちにならないよう育てていきます。つぎに中堅社員に対しては、本人の気づきから動機や実行につながるようなコーチングを中心とした育成になります。

 最後にベテラン社員に対しての育成は、以前であればミドルマネジャーより年上の部下は少数派であったため特に話題にならなかったのですが、現在はその数もぐんと増えました。「扱いにくいから」ということで放っておくと、協力どころか、組織運営の足を引っ張る人さえでてきます。ベテラン社員には会議の中でも積極的に発言してもらい、組織を引っ張っていってもらわなければなりません。ミドルマネージャーはベテラン社員を意識してうまく活用していかなければなりません。

 ミドルマネジャーのベテラン社員に対する指導のあり方は、コーチングでもなければ、ましてやティーチングでもありません。彼らとの育成の関わり方は「コラボレーション(協働)」です。よくあるのは同行を申し出ても「私のところは問題ないので......」とやんわり断られてしまうケースです。ベテランはプライドが高く基本的に上司同行を歓迎しません。大事なのはこちらが「この案件に本気で関わってくれているのだ」と彼らが思うような態度で接することです。OJTであれば、「一緒に攻略しましょう」という姿勢で望み、信頼関係を地道につくっていくことです。価値観や成功体験を押しつけるのではなく、譲歩したり問題認識を共有しながら自分の考えを少しずつ伝えていくのです。

まずはミドルマネジャーが変わること

 このように営業組織の活性化の要は、ミドルマネジャーにあります。ところが部下に同行もしたことがないミドルマネジャーも結構いるのです。部下を掌握するために、同行は絶対に必要なのですが、「そんなに時間はない」と反論されることもしばしばです。

 たしかに今のミドルマネジャーはプレイングマネジャーであったり、以前よりも多くの部下をもっていたりと、もっとも多忙で時間のない方々です。

 それでもまずはやってみることです。次第に1回の終日同行で部下の強み・弱みがわかるようになるはずです。つまり部下が10人いれば、毎年10日間だけ同行に割いてもらえればそれで足りるようになるのです。あとは日々の日報で部下の進捗を確認し、その都度アドバイスや気づきを促す投げかけを発信していきます。1日の同行で見えた部下自身の強み・弱みをベースに、日報でしっかりフォローしていくのです。

 繰り返しますがマネジメント・イノベーションはミドルマネジャーの変革がカギになります。

最後に

 今までと同じことをしていたら、成熟市場ですから当然売上げは伸びていきません。それどころか激しい変化に飲み込まれ、新たな競合も増え、売上げは落ちていくことになります。
このコラムの中でお伝えしてきたアプローチが一つでも参考になり、新たな取組みのきっかけになれば幸いです。

コンサルタントプロフィール

寺川 正浩

寺川 正浩

ビジネスプロセスデザインセンター チーフ・コンサルタント

1997年 JMAC入社。専門はマーケティング・営業領域。戦略策定から、戦略を実現するための業務プロセスの設計、KPIを活用したマネジメントの仕組みづくりを経て、実施・定着化までの一貫したコンサルティングを行う。小売・サービス業、食品メーカー、アパレルメーカー、医薬品メーカーなど幅広い範囲を支援。共著に『実務入門 「仮説」の作り方・活かし方』『実務入門 営業計画の立て方・つくり方』(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)、「サービスプロセス改善事例集2010」(日経BP寄稿)、「流通業の顧客戦略とCRM」(日経MJ新聞寄稿)ほか多数。
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