第1回 生成AI活用で高める営業生産性 —実践的な活用事例とプロンプト設計のノウハウ—
マーケティング・営業


近年、労働力不足や競争激化を背景に、営業部門の生産性向上が急務となっている。その解決策として生成AIが注目を集めている。しかし、導入した成果を実感できない企業も少なくない。
本コラムでは、生成AIの基本と営業・マーケティング領域での活用場面を解説する。さらに実務で使える具体的事例、精度を高めるプロンプト設計のコツを紹介する。生成AIの活用を組織的な成果につなげるための実践的なガイドである。
生成AIとは、文章や画像、音声などのコンテンツを自動でつくり出すAI技術の総称である。人間が指示を与えると、それに対して文章などで回答してくれる仕組みだ。この技術は大規模言語モデルや深層学習などの手法を用いて、膨大なデータを学習している。AIが人間のように自意識を持って思考しているわけではない。単語の出現確率を計算し、もっとも適切な言葉をつなぎ合わせて回答しているのである。この特性を正しく理解することが、活用の第一歩となる。
現在、営業やマーケティング部門を取り巻く環境は大きく変化している。少子高齢化による働き手の減少や、営業職を希望する人材の不足が深刻化している。さらに、異業種からのディスラプターの登場や事業の多角化など、競争環境も激しさを増している。これまでの売上至上主義や、マンパワーに頼った営業手法だけでは限界を迎えつつある。SFAやCRMといったデジタルツールを活用し、一人当たりの売り上げや利益を追求する「営業生産性」の向上が、企業にとって不可避の課題となっているのだ。
この生産性向上において、生成AIはきわめて有効なツールとなる。その効果は大きく以下の3つに分けられる。
具体的に、営業やマーケティング部門ではどのような場面で生成AIを活用できるのだろうか。業務の特性に合わせて、大きく5つの活用シーンに分類される。
企業の財務情報や直近のトピックスを調べる競合調査に活用できる。さらに、顧客のアンケートデータを表計算ソフトの形式で読み込ませて分析することも可能だ。
提案書や販促物のアイデア出しを行う。展示会やセミナー企画のたたき台を作る作業も得意分野である。ツールによっては、そのままプレゼン資料やチラシを出力できるものもある。
AIを顧客に見立てたロールプレイングや、商談後のアクションプラン作成に活用できる。新人研修などにAIを取り入れる企業も増加している。
Webサイトのチャットボットや、顧客からの問い合わせに対する回答の自動生成などがこれに該当する。
会議のメモからの議事録作成や、文章のチェックと修正を行う。さらに、表計算ソフトの作業を効率化するマクロコードを生成するといった高度な使い方もできる。
ここからは、実務ですぐに使える具体的な活用事例を3つ紹介する。
AIに対して自社と顧客の情報を入力し、提案内容を考えさせる。たとえば、建材メーカーがハウスメーカーへ屋根材を提案する場面を想定する。AIに顧客の人手不足という課題と、自社製品の「他社より30パーセント軽量」「翌日納品可能」といった特徴を伝える。すると、製品のメリットだけでなく、現場施工の簡略化や実績までを網羅した提案のたたき台が生成される。これをベースに担当者が肉付けすれば、短時間で質の高い提案書が完成する。
AIに顧客のペルソナを与え、自身は新人営業担当者として対話を行う設定にする。ハウスメーカーの現場監督という役柄を設定すれば、「軽量性と施工性が気になる」「耐久性や台風への対応はどうなのか」といったリアルな商談に近い質問を投げかけてくる。設定次第で、意図的に拒否反応を示したり、会話の回数を指定して難易度を調整したりすることも可能だ。階層別のトレーニングツールとして非常に有効である。
既存顧客向けの案内メールを作成する際、セミナー内容が記載されたWebサイトのURLをAIに読み込ませる。さらに、宛名や申し込みフォームのURLなどの条件を指定する。AIはWebサイトからおすすめポイントや見どころを自動で抽出し、わかりやすい案内文を瞬時に生成してくれる。
このように便利な生成AIだが、導入してもうまく活用できない企業も多い。そこには陥りがちな「2つの失敗パターン」が存在する。
AIが何でも完璧にこなしてくれると誤解してしまうケースだ。たとえば、紙の注文書を読み取らせて基幹システムに自動登録させようとしたり、アンケート結果から完璧なペルソナをつくり上げてユーザーインタビューをさせようとしたりする。これらはAIの得意分野を逸脱した使い方であり、結果として徒労に終わり、活用を諦めてしまうパターンである。
とりあえずAI推進担当者を決めたものの、自社の課題と結びついていないケースだ。手当たり次第に業務に適用しようとするため、本来の目的を見失う。結果として、組織的な成果が出ているのか、わからない状態に陥ってしまう。
こうした事態を防ぐためには、「技術発想」と「問題解決思考」の掛け合わせが必要である。まずは生成AIに何ができて何が苦手なのかを正しく理解する。そのうえで、提案力を高めたいのか、内勤業務を減らしたいのかといった自組織の課題とマッチングさせる。この視点を持つことが、組織的な成果を生み出す第一歩となる。
生成AIから求める回答を引き出すためには、「プロンプト」と呼ばれる指示文の書き方にコツがある。AIは空気を読んで忖度してくれないため、明確な指示を与えなければならない。プロンプト設計の4つのポイントを紹介する。
冒頭に「何をすべきか」を書き、その後に「#」などの記号を使って条件や情報を整理する。AIが混乱するのを防ぐため、「〜しないで」という否定表現は避け、肯定表現で指示することが重要だ。
文字数や出力する個数などを具体的に提示する。「多く」「長く」といった、あいまいな表現は避けるべきである。
対象となる顧客の属性や課題、自社商材の特徴などを具体的に記述するほど、回答の精度は劇的に高まる。
最初から完璧なプロンプトをつくるのは難しい。一度回答を出力させ、足りない視点を徐々に加えていくアプローチが有効である。また、生成AIにプロンプトを書かせることも有効である。まずは自分が出力したい内容を記述し、生成AIに「この内容を出力するにはどのようなプロンプトを書けばよいか」を聞く。そこで出力されたプロンプトをそのまま指示し、出力結果を見て、微調整を繰り返すことで、短時間で回答精度を高めることができる。
※
最後に、利用上の注意点にも触れておく。自社の機密情報や顧客の個人情報は絶対に入力してはならない。学習データとして漏洩するリスクがあるため、社内ルールに従うことが大前提である。また、AIの回答は常に正しいとは限らず、最新情報ではないなどの可能性もある。出力された情報をそのまま利用せず、必ず別の情報源で裏付けを取るプロセスが不可欠である。そのままコピーして利用すると著作権侵害に当たる恐れもあるため注意が必要だ。
生成AIはいつでも完璧な答えをくれる魔法の箱ではない。思考の壁打ち相手として活用し、試行錯誤のサイクルを早めるツールである。スマートフォンのように、日常の献立作成など公私問わず積極的に使い倒し、チーム全体でノウハウを共有していくことが、営業生産性を飛躍的に高める鍵となるのである。
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経営コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
営業・マーケティング領域を専門としており、営業の生産性向上に向けた業務改革や営業力強化、営業支援システムやオフィスDXツールの導入・定着化支援などのテーマを中心に取り組んでいる。近年では、AI等を活用した営業力の向上や、業務効率化に関するコンサルティングや研修を積極的に取り組んでいる。
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