第11回 プロジェクト推進時のよくある課題「Phase5 開発」
業務改革・システム化


前回(第10回)のコラムでは、基幹システム再構築プロジェクトの『Phase4 要件定義』推進時のよくある課題を紹介した。今回は、『Phase5 開発』推進時のよくある課題を紹介する。
『Phase5 開発』とは、カスタム・アドオン対象機能に対する開発作業やテスト作業を行うPhaseである。また、システム初期設定や標準機能・画面の操作指導といった初期教育も並行して行うこととなる。
このPhaseでは、システムベンダー側の実施タスクが中心であるが、システムユーザである自社の実施タスクを適切に遂行できないと、導入・稼働の遅れや稼働開始後のトラブルにつながってしまう。本稿では、システムユーザの代表的な実施タスクとして、受入テスト(User Acceptance Testing:UAT)と、キーマン教育(Super User Training:SUT)に焦点を当てて、よくある問題と課題・対策を解説する。
受入テストとは、システムユーザーが、自社の業務フロー(テストシナリオ)に即して開発されたシステムを試験的に操作して、自社の業務が問題なく遂行できるか、定義した要件通りにシステムが動作しているかを検証する工程である。この工程は、ユーザー自身がその業務シナリオに則って検証を行うことで、本稼働開始のバグやトラブル発生を未然に防ぐ目的があり、ユーザー企業が積極的に関与し、システムの品質を担保することが求められる。
しかし、ユーザー企業自身が受入テストを適切に推進せず、導入活動の遅れや稼働開始直後のトラブルに見舞われるケースは散見される。ここでは、いくつかの代表的な問題と対策を取り上げる。
まず、受入テストのシナリオが適切に整備されず、不十分な検証が行われるケースがある。先述の通り、受入テストでは自社の業務シナリオで検証することが必要となる。そのため、要件定義結果に即して、新しいシステムを使った新業務フローを事前に調整・チューニングすることが求められる。加えて、調整済の新業務フローに基づき、テストシナリオ一覧を整理することが重要となる。ここでは、自社業務シナリオ(≒システムの操作)/要件から期待されるシステム処理結果/実際に操作したシステム処理結果(≒テスト結果)を比較できるようにし、要件との不整合等を明らかにすることで、システムベンダーへの修正要求が明確化され、検証の漏れや稼働後のトラブルを未然に防ぐことができる。
テストシナリオ一覧の作成イメージ
次に、受入テスト作業に対するリソースの確保が追い付かず、進捗遅れやテスト未完が発生してしまうことがある。これを防ぐためには、先述のテストシナリオを早期に整備し、必要なリソース・テスト期間を見積り、テスト作業者を選定することで実行計画化を進めることが必要である。設計工程が完了し開発工程に移行したタイミングで、上記のテストシナリオ整備やテスト実行計画整備に着手できると、スムーズに推進することができ、推奨される。
キーマン教育とは、当該システムをよく操作する業務担当者やその部門長、ITシステム部門担当者等をキーマンとして選定し、システムの初期設定や操作方法の教育を先行で行う工程である。
選定されたキーマンは、教育受講後に、他の全社員に向けた稼働前教育の講師役になることが求められる。ここで、例えば、ITシステム部門担当者のみにキーマンを限定してしまう企業が散見される。すると、少ない人数のキーマンが、残りの多くの担当者へ稼働前教育を展開する必要がある。教育に際して担当者からの問合せ対応も発生することから、教育にかかる負荷が少数のキーマンに過度に集中してしまい、稼働前教育の遂行が難しくなることがある。
これを防ぐためには、ITシステム部門だけでなく、実際のシステム利用部門からそれぞれ1~2名程度はキーマンを選定し、事前教育を受講させることが推奨される。キーマンを増やし稼働前教育や問合せ対応負荷を分散させ、新システム稼働前の社内理解度を高めることができる。
次回は、『Phase6 導入』におけるプロジェクト推進時のよくある課題についての発信を予定している。
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経営コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
2016年JMAC入社。以来、業務プロセス改革を専門領域として、販売管理や生産管理、新商品開発業務など、機能・組織横断的な業務プロセスと情報システムの改革を支援している。近年は、DX化・データ利活用の促進に関する支援テーマも手がけている。
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