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第76回 業績評価のための管理会計改革

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

業績評価のための管理会計改革の事例をご紹介します。 組織の役割に応じた管理会計情報の提供、組織階層と利益概念の関連づけが、ポイントになります。

T社の経営改革

T社は、全国に事業展開する米穀製造卸売業の企業です。 SM(スーパーマーケット)、DS(ディスカウントストア)、CVS(コンビニエンスストア)、外食チェーン、一般米穀店など、多様な顧客に販売しています。 基幹部門は、仕入、生産(工場)、営業の3つですが、その他に生産や営業の関連会社が数十社あります。

同社は、中期経営計画において、次の3つの経営改革に取り組んでいました。

「テーマ1:営業力強化による拡販」 ・・・ 顧客政策・商品政策にもとづく企画提案力改革
「テーマ2:顧客起点のSCM改革による競争力向上」
「テーマ3:経営管理力の向上」 ・・・ 管理会計システムの再構築による経営の見える化

いずれも、ITの戦略的活用を含めた、業務改革が必須となるものです。 今回は、「テーマ3:経営管理力の向上」に関して、業績評価のための管理会計改革をご紹介しましょう。

「利は元にあり」から「顧客にあり」へ

米穀製造卸売業は、全国の産地から玄米を購買する仕入部門が、社内的には権限を持っています。 玄米の仕入価格は相場で動くこと、また、産地との人間関係が重要なことから、「利は元にあり」の思想が流れています。 T社も例外ではありませんでした。

しかし、チェーン小売業の成長と共に、販売先である顧客の力が強くなり、顧客の店頭起点からの商品政策(品揃え政策・価格政策)を重視する流れになりました。 「利は顧客にあり」の思想に変わったのです。 このことから、業績評価のための管理会計も、考え方を変革することを決めました。

従来の業績評価は、仕入部門は利益中心(利益プール)、生産部門はコスト中心、営業部門は売上中心の考え方でした。 組織間の内部取引ルールである「仕切価格制度」への認識が薄く、生産と営業の仕切価格の設定方法についても、不透明な面がありました。

新しい業績評価は、仕入部門はコスト・センター、生産部門はコストだけでなくプロフィット・センター、営業部門は売上だけでなくプロフィット・センターの役割を果たす、という考え方に変えました。 具体的には、標準原価計算の導入と仕切価格制度の構築を行いました。

標準原価計算とは、製品の製造原価「原材料費+労務費+経費」を実際原価でなく、科学的・統計的な方法で設定する、標準原価によって計算する方法です。 T社の場合、標準原価は、「原料費+包材費+加工費」で構成されますが、原料費の標準原価設定において苦労をしました。 原料の歩留を考慮した標準使用量を決めること、原料の消費単価を仕入相場に対応して決めることの2点です。 標準原価は財務会計目的にも活用されますが、T社では、業績評価のための管理会計目的を中心に、次の点から活用をスタートさせました。

・生産部門の原価管理(コストキーピング) ・・・ 実際原価と標準原価との差異を管理する
・米穀事業全体の生販一体損益管理 ・・・ 米穀事業全体の粗利益を見える化する

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同時に、生産と営業の内部取引は、社内売上および社内仕入の発生としてとらえる、分かりやすい仕切価格制度を構築しました。 この仕切価格の設定には、「標準原価×(1+内部利益率α)」とする考え方を採用しました。 「内部利益率α」は製品によって幅をもたせ、価格政策の反映を可能にしました。 また、生産と営業の両部門は、仕切価格による粗利益の日常管理ができるようになりました。

次の点が今後の課題としてあがりましたが、その後、これらの課題解決も実行に移しています。

・標準原価の財務会計目的への活用 ・・・ 棚卸資産および売上原価の算定
・関係会社とのグループ取引への仕切価格制度の拡大
・先を見通した先行損益管理情報システムの導入
・事業評価のための管理会計システム構築

営業部門の業績評価

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T社では、営業本部制を導入していますが、営業本部は、販売先である顧客業態別に組織が分かれています。 各営業部門は売上中心の業績評価でしたが、利益意識を向上するために、上の表に示すように、組織階層別に責任を負う利益概念を明らかにしました。

なお、業績評価のための管理会計は、予算管理制度として運用されますが、人事評価との関連に注意してください。 組織や個人が役割(責任を負う利益概念)を変えて、管理会計制度を再構築した時には、人事評価も変えていく必要があります。 経営管理部門と人事部門との調整が大切なのです。

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