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実行する力、根幹を見定める力
~「当たり前」のことを「当たり前」に行うこと~

株式会社日清製粉グループ本社
取締役技術本部長 山田 幸良氏

日清製粉グループは、食品業界にあって独特なスタンスを持つ会社である。多くの食品会社が技術の中心をケミカル系・バイオ系におく中で、日清製粉は工学系にも力を入れている。工学系の生産技術研究所を持ち、生産プロセス・機械の開発から製作まで手がけており、製造過程のコア技術の多くは、自社で開発したものなのだ。先達から受け継ぎ開発してきた門外不出の技術の中には、「そろそろ世の中のお役に立てるなら外に出そう」というトップの決断で、市場で販売しているものもある。

実行することの大切さ

そうした会社にあって、私は研究者として20年務め、営業、工場を経験し、現在、技術本部を預っている。先輩諸氏からいろいろなことを学ばせていただく中で、私がポリシーの基本においていることがある。それは、"To know is one thing. To practice is another"(知ることと行うことは別である)ということだ。

受験勉強に明け暮れていた学生のころ、英語の参考書に並んでいた格言のひとつで、私はなぜかこの言葉がとても気に入っていた。だが、この言葉のもつ本当の意味を知ることは、長い間できなかった。学生のころはもちろんのこと、社会人になってからも研究開発部門という立場にあっては、つねに実行に集中することが求められ、知ること(知識)とは、そのためのツールであったからだ。
しかし、戦略を立案し、なんらかの施策を打とうとするときは、実行性の裏づけが最重要となる。あらゆる案件について、実行性を理解し、実現を描いたものでなければならない。実行できない計画を掲げて推進したとすれば、その結果は明らかであるし、我々製造業者にとっては、実行の結果であるものづくりにつながらなければ意味がない。

つねに根幹を見定める

施策を立案するときも、推進・実行するときも、大事なことは、ものごとの根幹を見定めることである。

日清製粉グループは、「健康と信頼をお届けする」というコーポレートスローガンを掲げている。そこには、つねに「健康」を念頭においた商品やサービスの提供に努め、「信頼」を築きあげる決意が込められている。であれば、「信頼」を損なうようなことは会社も社員も決してできない。今の言葉で言えば「コンプライアンス」ということになるのだろうが、これを単に「法令遵守」という言葉で表すのは適切ではない。法律を守ることはもちろん大切だが、そもそもそうした法律がつくられた根幹となるもの、つまり「なぜ、この法律がつくられたか?」を考える。

たとえば、CO2の規制は、このままでは我々が生きていられなくなるから、CO2の排出に歯止めをかけようということだ。それには、量の多少ではなく、一人ひとりがCO2削減を実行していかなければならない。考えてみれば、ごく「当たり前」のことである。
「安全・安心」も同じである。自分たちが食べたくないものを、世の中に出してはいけない。そうした当たり前のことを当たり前に実行していけば、安全・安心は守られる。自分たちが本当に納得できることをやっていく。「食べることで喜びの瞬間を提供できる」企業としてのミッションに、大きな喜びを感じることができる。それを経営陣も現場も信じ、実行する文化が組織にあれば、安全・安心を脅かすような企業不祥事の発生は防げるのではないか。

根幹を見定めることは、攻めの部分でも重要である。会社の根幹をどこに求めるか。それが、わかったとき会社の進むべき道が見えてくる。やってはいけないこと、やらなければならないことを見定めながら、納得できるところにとるべき成長戦略がある。そして、決断したなら、実行する。先端性を示して飛び出していく。
実行と根幹を見定めることの重要性を肝に据えながら、これからも社会のお役に立っていきたいと願っている。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.24 からの転載です。

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