技能を伝え、夢を叶える
~デジタルエンジニアリングの先描く製造業の新たなる姿~
山形カシオ株式会社
代表取締役社長 磯崎 雅樹氏
山形カシオは、1979年、電卓・時計の組み立て工場としてスタートした。電子機器や食品加工の工場が、多数東北地域に工場を建設に乗り出した時期だった。90年代、円高が進む中で、海外シフトの煽りを最も受けたのも東北だった。そうした危機感の中で、われわれは、自分たちのなすべきことを考え続け、愚直にノウハウを数値化してきた。徹底したIT化によって、8年前には2カ月かかっていた携帯電話用の金型製作期間を20日間に短縮させ、2005年には「日経ものづくり大賞」をいただくこともできた。
データを完全に使い切る
多くの会社が海外へ生産工場をシフトさせ、金型工場を移転させていく中で、われわれは徹底的な効率化を求め、ノウハウのデータ化と技能の伝承を進めてきた。技能とは匠の技であり、熟練工の技術と言われるものづくりの肝に当たる部分である。こうした匠の技をデータ化して、ものづくりを徹底的にデジタル化していく。それが、われわれの掲げる"デジタルエンジニアリング"である。
それは一朝一夕になるものではない。踏ん張り続け、金型と成形の両方を持ち続けたからこそ可能となった。技術の蓄積であった思う。そうした日々の地道な努力の積み重ねと、工作機メーカーやソフトウェアメーカー、そして学会の方々といった周囲の絶大な支援があってこそ、今の私たちがある。研究者の夢や理論を実現する現場が、われわれの工場でもあったのだ。
その成果の一つに、不具合の予測システムがある。人間の身体が不調になると熱が出るように、ものづくりの中でも変化が出てくれば、それを事前に予知しようというものである。部品が一つひとつ出来上がるたびに、金型が発する超音波をデジタルデータ化して分析し、不具合の発生を予測する。あらゆるデータを蓄積し、データを情報に加工し、膨大なソフトでシミュレートし、蓄積したデータを"使い切る"それが、われわれのコンセプトであり、経験の蓄積から得たノウハウであろうと思う。
夢は必ず叶う
匠の技術をデジタル化するには、ものづくりを知る人材が不可欠である。機械に頼らず、匠の技術に着目したからこそ、ここまで来ることができたのだ。伝統的なものづくりを知らなければ、おそらく途中で頓挫する。人を育てるポイントは、そこにあると思う。そうした狙いから、新入社員には設計から金型・成形までを一貫して体験できる研修プログラムを開発し実践している。
ものづくりを知る人がいるから、夢を追いかける人が育つ。夢を追い続ける人がいるから、夢を受け継ぐ人が育つ。その夢を叶えるために、どうサポートしていくか。それが、経営者としての私の役割であろうと思う。
今、理工系を目指す若者が減っている。ここ山形の地において、製造業として若者にどんな夢を与えられるかも、経営者として考え続けなければならないことである。
では、その先に何があるか。それは、24時間稼動する完全自動化工場である。実現すれば、わざわざ中国に工場をつくらなくてもいいかもしれない。そして人はさらに価値を生み出す仕事を行い、バリューアップを目指すことができる。それは夢のものづくり、完全無人化工場である。そうした将来を見据えて、さらに現場の夢を開かせる方向に進んでいきたいと思う。
世界は大きく変化している。変化をコントロールすることは不可能だが、変化の先頭に立つことはできる。その努力をする中で、機会を自ら得ていくことができるのではないかと思う。
「夢を諦めない」「夢は必ず叶う」 ― その思いをシェアし続けることが、明日の可能性を開くのではないだろうか。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.21 からの転載です。
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