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第1回 人事制度改革に臨む基本スタンス

人事は「ひとごと」でもなく「ひとまね」でもなく

 「人事制度って文字どおり『ひとごと(他人事)』だよね」----これは私が人事制度改革のコンサルティングを進める中でよく耳にした言葉である。人事管理という領域は日常の中で頻繁に話題になるものでもなく、それほど意識されないのは当然のことかもしれない。私は新任人事担当者向けの「人事管理基本セミナー」※の講師を担当しているが、他部門から見た人事部門のイメージとして「ブラックボックス」と表現する参加者も多くいる。そのたびに「社員に伝えたい、いろいろなことを盛り込んで制度を構築しているんだけどなぁ」と心の中でつぶやきながら、人事制度という「形」だけでなく、そこに込められた「思い」を伝えるようにしている。
 また、「世の中で話題になっている○○の仕組みをわが社でも取り入れたい」「同業他社のやり方を知りたい」といった声を聞くこともある。おそらく現行制度についての何らかの問題意識がそのような言葉に表れたのだと思うが、人事管理の考え方・仕組みは、各社のそれまでの考え方・仕組みに少なからず影響を受けるものである。たとえば評価の仕方にしても、制度を変えたからといって急に切り替わるものではなく、それまでのやり方の慣性が働き、その影響を受ける。つまり、同じ業界であったとしても、人事制度は各社で個性があり、他の会社と同じようにすればよい、というわけにはいかないのである。
 本コラムではこのような体験を背景に、私の中で大事にしている人事制度改革に臨むスタンスについて綴ってみたい。

※日本能率協会(JMA)が主催するセミナー。人事部門に異動して間もない方や新人で人事に配属になった方など人事の分野になじみのない方が対象。

人事制度改革に取り組むきっかけ

 人事制度改革に取り組む主なきっかけは、下図のとおりである。実際にはいくつかのニーズが組み合わされた内容でコンサルティングの依頼を受けるが、基本的には会社の事業・組織・業績の構造変化や「年功的な人事管理から脱却したい」といった現状の人事管理の実態に対する問題意識がきっかけになっており、「これから何をすればよいか」ということから検討することになる。
 一方で、「役割等級制度を入れたい」「コンピテンシーを導入したい」という完成図を描いたうえで依頼してくる会社もある。この場合は、「何をすればよいか」ではなく「(何をするかはわかっているので)どのようにすればよいか」を支援してほしい、という依頼になる。その際は現状の問題意識を踏まえたうえで完成図を描いていることもあるが、「世の中の最近の傾向」という理由で導入を図ろうとしていることも見受けられることもある。このような場合でも、まずは人事管理の現状を把握・診断するようにしている。その結果、当初想定していたものとは異なる制度内容になることもある。

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さまざまな矛盾の落とし所を探す

 上記のようなきっかけで人事制度改革を支援しているが、もっとも頭を悩ますのが、法令などの社会的な与件とのさまざまな矛盾である。この矛盾に対する落とし所を探していかなければならないのだ(下図参照)。検討が進み、ある程度制度内容が見えたとしても「なぜそうしたのか。本当にこれでよいのか」と自問自答することに時間を費やすことが多い。

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 落とし所の強弱は、改革の必要性、緊急性、現状などを総合的に判断して決まっていく。いずれにしても、このような矛盾を突破するには、改革の目的を軸に検討を進めていくしかない。前述したようにヒトに関わる部分は急激な変化に対応できない側面も持っており、そこに気を配りつつ会社をより良くするための方策の1つとして人事制度を改革するのである。
 「こうした制度にすればよいのでは」と制度内容をすぐに検討したいというクライアントの気持ちを感じることはあるが、制度内容という形は制度改革の目的によって変わるものである。ここでいう目的とは、会社として「ウチの人事管理はこういう考え方・やり方にする」という「思い」を表したものである。社員に何を期待するのか、社員の何に報いたいのか、社員をどのように育てたいのか、などの議論を積み重ねるうちに見いだされる「思い」である。この「思い」を判断の拠り所にしながら、さまざまな矛盾に立ち向かい、人事制度改革を進めていくのである。

「思い」に基づく個性ある人事制度の構築と継続的な浸透策

 これまで述べたように、人事制度を検討する前提として、人事管理の考え方・方法に対する「思い」を整理することが不可欠である。そのうえで、次のような基本スタンスで人事制度改革に臨むことが重要である。

1.「思い」を具現化した個性ある人事制度の構築
 ウチの会社の「思い」を制度内容に組み込み、制度内容を通じて社員に「思い」を伝えるようにする。

2.制度改革の源である「思い」を社員に浸透させるための継続的な取組み
 新たな組織慣性をつくり上げる取組みを、地道に継続的に行う(私のクライアントには、数年間にわたり継続的な評価者研修を実施しつつ、職場のマネジメントの課題解決に取り組んでいる会社もある)。

 人事管理は、独特な言葉が使用されることをはじめとして人事担当者以外の方にはなじみにくい領域である。また、年度の区切りなどで現実的な検討期間が限られ、制度内容の検討を急ぐこともある。このような制約があるとしても、常に上記の基本スタンスで改革の推進を支援したいと考えている。

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