第5回 次世代を担う営業部門のサクセッションプラン — マネージャー育成と定着の勘所から実践ステップまで解説—
マーケティング・営業


企業が持続的な成長を遂げる上で次世代リーダーの育成は欠かせない。特に営業部門では、プレイヤーとしての実績とマネジャー適性が必ずしも一致せず、この適性のミスマッチが次世代リーダーの育成・抜擢における大きなハードルとなっている。
本コラムは、個人のプレイヤー属性に依存した抜擢から脱却し、再現性のある次世代リーダー育成の仕組みをどう構築するかについて、本質的な意味合いや設計の基本プロセス、定着のポイントまでを網羅した、営業組織の強化を目指す方への実践的なガイドである。
近年、コーポレートガバナンスの強化や意思決定の透明性確保を背景に、サクセッションプランを策定する企業が増加している。日本語では「後継者計画」と訳される。一般的には経営層や役員クラスの登用や評価、教育の仕組みとして受け止められることが多い。
しかし、本来のサクセッションプランは経営層のためだけの限定的なものではないと捉える。従業員のキャリアパスや成長の道筋を明確にすることは、働きがいやエンゲージメントの向上に直結することも含めて、一般社員が課長や部長へと成長していくための計画も重要な範疇であると考える。
そのためには、企業が従業員に対し、幅広く長期的な目線で育成のビジョンを示し、多様な経験を設計して提供することが求められる。昇格していくためにはどのような経験が必要なのかを透明性のある基準で示すことが重要だ。これを長期的なサイクルで回し、企業の総合力を高めていくのが本来の狙いである。
サクセッションプランとは単なる後任選びの計画にとどまらず、人的資本経営的な観点に基づく、組織の持続的成長のための重要な人材戦略である。何らかの事情で突然リーダーが交代する事態が生じても、組織がスムーズにリーダーシップを引き継げる状態を作るための準備なのだ。
これを営業部門に当てはめるとどうなるか。営業部門のミッションは売上や利益といった成果指標に直結している。マネージャーにはそれらの成果を牽引する能力が求められる。自社の営業特性や個別事情を踏まえた上で、次世代のリーダー候補をどう選定し育成していくかを考えることが重要になる。
では、営業マネジャーを育成し登用する際、現場ではどのような問題が起きているのだろうか。名選手が名監督になるとは限らないとよく言われるが、トップセールスとして素晴らしい成績を残した人が、必ずしも良いマネジャーになれるわけではないし、ケースとしてはその逆も存在する。
さらに言えば、そのマネージャーの経験に依存したマネジメントによって、営業組織の総合力が最適化されないということも起こりうる。
その根本的な原因は、多くの企業において、営業マネージャーに求められる要件やスキルが言語化されていないことにある。マネジメントの定義が曖昧なまま登用されるため、大きく3つの問題が発生しやすくなる。
マネージャーはチームの目標達成に向けて部下を指導する立場にある。しかし、部下との適切なコミュニケーション手法や頻度が分からず、部下の困りごとや壁を把握できないケースが散見される。
マネージャー自身がどのようなリーダーシップを発揮すべきか理解していないと、戦略や指示にブレが生じる。昨日と今日で言うことが変わればチームは混乱する。部下はどう動けばよいか分からなくなり、目標達成への協力体制が崩れてしまう。
営業マネージャー自身に自己成長の機会が与えられていないことが多い。マネジメントスキルを学ぶ場がないまま役職に就くため、結果として過去の成果基準や自身の経験に頼らざるを得なくなる。いかに売上を上げたかなどの単一的価値観のみで指導してしまうのである。
こうした課題を解決し実効性のあるサクセッションプランを設計するには、大きく3つのプロセスを踏むことが基本となる。
会社として営業マネージャーに求める人材要件を定義し徹底的に言語化する。例えば、「コミュニケーション力」という言葉一つとっても、自社においてそれは具体的にどのような行動を指すのかを明確にするのである。行動様式や成果だけでなく、その裏にある「資質やマインド」「知識やスキル」そして「経験」という3つの観点から要件を定義することが本質である。
定義した人材要件に基づき一定の評価軸で現在の従業員を評価する。これは優劣をつけることが目的ではなく、対象者にどのような能力が不足しており、今後どのような経験をさせるべきかを可視化することにある。透明性のある基準で育成の方向性を決めるための重要なプロセスである。
アセスメントの結果に応じ、個人別の育成計画を設計し実行に移す。人は経験を通じて変化するため、定期的にモニタリングを行い、成長度合いに応じて計画を柔軟に見直し、次の育成サイクルへとつなげていく仕組みを構築する。事業部長など次期経営層に近い層を対象とする場合は、各委員会での選定など実際の運用手続きの設計も並行して必要となる。
あるBtoB製造業でのサクセッションプラン策定事例を紹介しよう。その企業ではIPOを見据え、役員選出基準の透明化を目指していた。従来は営業部門の力が強く、実績ベースで営業部門長がそのまま役員に登用される傾向があった。外部のマネージャー研修などを活用してはいたものの、持続的な効果は実感できておらず他部門のモチベーション低下も課題となっていた。
そこで役員層だけでなく、主要部門のマネージャー層に求められる要件も併せて再定義した。これにより選出基準が明確になっただけでなく、それぞれの層に必要な研修やジョブローテーションの絞り込みが可能になった。優先度の低い育成方法が見直され、研修参加者の意欲も高まった。
さらに部門間の役割が再整理されたことで、部門間連携のハードルが下がるという副次的な効果も得られたのである。この事例の成功要因は、役員層だけでなく事業部門の人材要件まで行い、企業としてのトータルのあるべき人材像を言語化したことにある。そして、その姿を実現するための体験設計を行ったことが大きな成果につながったのだ。
サクセッションプランを通じた育成は、従来のマネージャー育成と何が違うのだろうか。最も大きな違いは中長期的かつ戦略的な視点を持つことである。
従来の育成そのものが悪いわけではない。しかし多くは近視眼的な業績向上や、短期的な営業スキルの習得に主眼が置かれていた。一方、サクセッションプランでは将来のリーダーを計画的に育成することを目指す。営業スキルだけでなく、戦略的思考や全社最適のビジョンを実行する能力を育むことが求められる。
そのためには数年単位の長期的な視点で、段階的に知識や経験を深めていくアプローチが必要になる。単に1日の研修を受けさせるのではなく、実務を通じた経験を意図的に絡めていくのだ。
リーダー候補者に対しては、定期的なフィードバックを実施し社内でのキャリアビジョンを示す。目の前の業績や勤続年数だけで昇進を決めるのではなく、候補者を明確に選定しその成長を会社として継続的に支援する。このような人材育成こそがサクセッションプランの真骨頂である。
最後に、営業部門におけるサクセッションプランを策定し組織に定着させるための3つのポイントをまとめる。
1つ目は、サクセッションプランを全社縦断的な人的資本戦略として捉えることだ。役員の後継者探しという枠組みにとらわれず、次世代の営業マネージャーや現場のリーダーを育てるための包括的な仕組みとして位置づける。
2つ目は、自社や部門が求める人材要件を徹底的に言語化することだ。企業によって営業戦略も文化も人員状況も異なる。課長と部長では役割も異なる。近年では生成AIを日常業務で活用することを前提とした役割要件の見直しなども求められ始めている。自社のDNAを反映した自社ならではのマネージャー像を明確に定義することが競争力につながる。
3つ目は、単なる研修などの対策ありきではなく、個別最適と全体最適のバランスを見た体験の設計を行うことだ。会社の長期的なビジョンと候補者個人の課題を照らし合わせる。その人材が成長するために最も寄与する経験は何かを真剣に考え、意図的に付与していく。
サクセッションプランは一朝一夕で完成するものではない。自社の実態に即した要件定義と地道な育成サイクルの実践を通じて、はじめて次世代の強固な営業マネジメント体制が築かれるのである。
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経営コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント
企業の営業・マーケティング機能を中心とした組織能力向上をテーマに据え、営業戦略策定・営業力強化・人材開発などのコンサルティングの経験を有する。その他にも業務改革、サクセッションプラン策定などの全社的課題に対する支援も行う。
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