第2回 「あいさつ」ができる職場、できない職場~職場の相互理解と尊重の第一歩をどう踏み出すか~
人事制度・組織活性化

前回は、「全社方針が社員に浸透していない」という問題意識に対して、まずは「組織と個人の目標の連動」が重要との話を書きました。今回は、「健全な危機感」の重要性について書きます。
「健全な危機感」とは、「うちは今のままではまずい。自分がなんとかしなければ」と、自分事として改革に取り組める問題意識を指します。
「健全な危機感」がない状態とは、従業員意識調査などに見られる、「会社がなんとかしてくれるだろう」「今までどおり、うちの会社は大丈夫だろう」などの、悪く言えば「ぶら下がり」志向のことです。たとえば、以下のような「声」が調査データに表れます。
①「自部門は、競合企業より優位」や「自部門の事業は成長の可能性が高い」認識が低いのに、「当社は安定して成長」認識が高い
→自部門がダメでも、どこか他部門が、がんばるだろう
② 「自分の仕事への誇り」や「当社で働くことへの誇り」認識が低いのに、「当社でずっと働きたい」認識が高い
→仕事はつまらなくても、このまま働き続ければ、普通の生活はできる
③ 「自分の目標は意識している」認識は高いが、「職場の計画や会社の方針・目標が的確で環境変化に対応している」認識は低い
→職場や会社の計画・目標は納得いかないが、自分は自分の担当分はやっているから、それでいい
......など
図1 事業部門別の「健全な危機感」確認
図1は、ある製造業での従業員意識調査結果を、事業部門別に簡易化してプロットしたものです。事業実態と合わせて考えると、持ってほしい「健全な危機感」があるかどうかが見えてきます。
【読み取り例】
製造業B社では、既存事業領域は中長期的に成長が頭打ちであることが予測され、新規事業領域に積極的に取り組む中期経営計画を打ち出していました。ところが、笛吹けど踊らず、改革は思うように進みません。そこで従業員の問題意識を測る意識調査を実施したところ、上述のような「健全な危機感」がない状態であることがわかりました。
また、以下のようなことも、意識調査結果から見えてきました。
① 現状維持のマネジメントはできているものの、改革のためのマネジメントが弱い
② 仕事のやりがいが感じられていない
B社は、某優良企業の子会社で、もともとは製造機能中心(親会社からの仕事がメイン) だったことが、「ぶら下がり」志向の危機感の低さ、現状維持マネジメントは強いが改革のマネジメントが弱いことに影響しているようです。しかし、今後は、新規事業領域へのチャレンジ=改革のマネジメントが求められており、改革が必要です。
B社では上記の結果を受け、以下の取組みを実施しました。
① 中期経営計画の背景・内容の理解とディスカッション(中計の腹落ち施策)
前回「組織と個人の目標の連鎖」でも紹介したように、中期経営計画(中計)の質問会議を社内で何度も行い、マネジメント層・一般職層に腹落ちするようを進めました。
その後、部門別に、中計と職場や各自の目標がどのように連鎖しているかを整理・ディスカッションする場も設け、シートにまとめました(図2)。このように整理すれば、中計が職場のどの課題につながっているか、個人の目標が職場のどの課題につながっているかがわかりやすくなります。
図2 組織と個人の目標連鎖シート
② 外部からの情報取得(外部情報のシャワー施策)
改革の必要性、自身の仕事にやりがいを感じるためには、外部の情報をもっと「浴びる」ことが重要との認識から社内他部門・親会社・顧客含めた取引先など、外部との直接接点、外部からの情報取得の機会を増やすことに取組みました。外から有益な情報を得たり、他との比較で「健全な危機感」が醸成されたりすることが期待できるからです。
たとえば以下のようなことです。
これにより、腹落ちはもちろん、抜け漏れ発見、個人間・部署間・部門間での協業アイデアにも発展しました。
B社では今、製品納入先などに若手が赴き、直接B社との取引に対する評価・期待(品質・価格・納期についてはもちろん、開発提案・新製品立ち上げ・量産といった提供プロセスについて)などをヒアリングするという企画をしています。「うちは今のままではまずい。自分がなんとかしなければ」という「健全な危機感」が育つこと、これが全社改革の前向きな一歩となり、成長への自信へとつながります。
チーフ・コンサルタント
1988年JMAC入社。人材・組織マネジメント領域におけるコンサルティング活動に従事。人材マネジメント領域では、小売業・サービス業を中心に、人事制度改革、人材育成体系づくり、現場・非正規社員の活躍化などを支援。また、JMAC組織文化診断(OPECS)を活用し、多くの製造業・サービス業に対して、組織風土診断・風土改革・マネジャー教育などを支援。
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