「インパクトビジネス」を成功に導く ~共感と収益の両立戦略~
R&D・技術戦略


社会課題の解決と事業の収益性を両立し、地域社会に好循環をもたらす「インパクトビジネス」が注目されている。しかし、社会的意義を優先するあまり、コスト高に陥り、事業が継続できないケースは多い。消費者の共感を得て、社会と企業の持続可能な成長を実現するには何が必要か。最新の消費トレンドを紐解きながら、社会的インパクトに繋がる新事業・新商品開発のヒントを解説する。
現代の消費者は、AIによるパーソナライズされた提案に慣れ、所有よりも体験を重視する傾向(コト消費・トキ消費)にある。こういった現況で日本では、長引く物価高と賃金上昇のせめぎ合いを背景に、消費行動の極端な二面性が見られる。日用品には徹底したタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを求める一方で、自身の支持する対象(趣味・ブランド・アイドル)には惜しみなく投資する、といったメリハリのある消費傾向が加速している。
このような消費行動を踏まえると、社会的インパクトを掲げるビジネスには大きな壁が立ち塞がる。社会課題の解決やサステナビリティは、社会全体にとって正しいとされる理念である。しかし顧客の視点に立つと、それは”理屈が先行して、どこか堅苦しいもの”として認識される傾向がある。社会に良いからといって、個人の欲求を満たし購買行動に結びつくとは限らないのである。社会的インパクトの創出と持続可能な成長においては、その論理的な正しさと個人の直感的な欲求という大きなジレンマが存在している。
前提として社会的インパクトを狙うには、社会課題の解決に寄与する製品・サービスが収益性と課題解決を両立し続けることが重要である。これらを両立するには、顧客の購買動機の転換が必要となる。具体的には、その製品・サービスの性質を必需品・嗜好品から、純粋な楽しみや自己実現に寄せていくアプローチが求められる。論理的な正しさだけでなく、認知から購買に至るプロセスにおいて、顧客の感情にも訴えかける体験の設計が重要である。
具体的には、製品の背景にあるストーリーや世界観に深く共感してもらうことが鍵となる。自社が持つ特許や意匠、商標などの知的財産やエビデンスを基盤とし、独自の顧客体験を構築していく必要がある。単に環境配慮を訴えるのではなく、自社の技術や歴史から生まれる企業らしさを製品の世界観へと昇華させる。それが顧客の深い共感と自己実現へとつながるのである。
製品・サービスによる顧客体験を通じて、社会的インパクトと自己実現を両立する。その顧客体験は、AIDMAなど顧客プロセスに沿って筋道立てて設計する。
新事業・新商品を持続的な成長へ導くには、適切な評価が不可欠である。社会的インパクトの評価においては、ビジネス上の成果と中長期的な結果をつなぐロジックモデルを構築する方法がある。経済価値と社会価値の両立に向けては、製品・サービスにおけるそれらの可視化が第一歩となる。
例えば森林保全を目的とした農法を導入する場合、初期のコスト増という課題がある。これについては「加工技術の指導を通じて安定生産という成果を生み出し、品質向上による売上増加につなげていく」というような道筋を描くことで、短期的な収益確保と長期的な社会課題解決の両立を明確にできる。このサイクルが中長期的な社会的インパクトの創出をもたらすのである。
また、顧客への価値提供を収益につなげるためには、製品・サービスへの適正な価格設定が重要となる。一例として製品・サービスのコンセプトや世界観に基づき、アンケートを通じて価格受容性を測る PSM分析 の手法が有効である。顧客にとって納得感のある価格を設定することで、収益性を確保すると同時に社会的インパクトを実現する。
社会的インパクト評価とは、事業価値だけでなく事業価値がもたらす社会的な影響を明らかにし、その最大化のために事業運営を再認識する手法であり、経済価値と社会価値の両立に向けてはその可視化が第一歩となる。
社会的インパクトは、論理だけでは決して生まれない。人々の深い共感を呼ぶために、自社の財産を最大限に活用し、心を揺さぶるような顧客体験を設計することが重要である。企業と顧客、そして社会のすべてが豊かになる新しいビジネスの形を描いてみてはいかがだろうか。

R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
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R&Dコンサルティング事業本部
コンサルタント
化粧品メーカーの製品開発職・基礎研究職を経て、2019年に日本能率協会コンサルティングに入社。
入社以来、企業が築いてきた技術のビジネス化のための新事業企画支援、将来を見据えた研究テーマ企画のための将来動向予測支援に携わってきた。現在は、研究開発者一人一人が個性や本来の力を発揮して未来の製品・技術を作り上げていくための組織風土活性化支援に取り組んでいる。
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