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意志あるところに道あり
~変革を断行しトータルベストを見出すために~

JXホールディングス株式会社
代表取締役社長 高萩光紀

JXホールディングスは、2010年4月1日、新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合によって誕生した。燃料油(ガソリン、灯油、軽油、C重油など)では国内販売シェア35%の断トツのトップであるとともに、原油・天然ガスの生産は国内第2位、銅の生産能力もグループとして国内最大(世界第2位)という「総合エネルギー・資源・素材企業グループ」の誕生でもあった。その背景には、特に石油産業の長年にわたる構造的な過剰設備問題に対する共通した強い危機感があった。まずは、経営統合に至った背景からお話したい。

石油産業存亡の危機感の中で

戦後、石油産業は日本の高度成長と歩調を合わせるように急成長を遂げてきた。エネルギーの主役であった石炭にとってかわり、石油の需要は急こう配の右肩上がりを続けた。1964年東京オリンピックが開催された年に私は入社したが、当時は、「石油の時代の到来」と言われていた。第1次・第2次オイルショックによって脱石油の動きが広がり始めても、石油の需要は増え続けた。
しかし日本経済が成熟期を迎え、少子高齢化、省エネ、環境対応などの影響により伸びが鈍化、1999年には国内の燃料油需要が2億46百万キロリットルでピークを迎え、それを境に減少に転じた。今回の統合の話を始めた2008年秋には2億キロリットルを割ることが確実視され、その後も毎年3~4%ずつ減り続ける見通しとなった。一方、製油所の過剰精製能力の削減がなかなか進まなかったため、慢性的な供給過剰により石油産業全体が疲弊していった。
言うまでもなく、石油産業に身を置く我々自身が「このままでは石油産業がもたない」「共倒れだ」という大きな危機感を抱いていた。当時の新日本石油の西尾進路社長(現JXホールディングス会長)と新日鉱ホールディングスの社長を務めていた私との間で、経営統合に向けての話し合いが始まったのは、そうした中であった。

経営統合を劇的な事業変革の引き金に

新日本石油と、新日鉱グループのジャパンエナジーとは、すでに2006年から幅広い範囲で業務提携を進めており、近しい関係にあった。両社の水島製油所(岡山県)で海底トンネルのパイプラインを通じて原料や製品の相互融通を行うなど、効果を出していたが、企業が異なるため、それ以上先にはなかなか進めなかった。
「両社が一緒になれば、単独ではできないような設備の削減も大胆にやっていける。筋肉質な体質にするため、統合シナジーを徹底的に追求する。圧倒的なコスト競争力と35%という燃料油の国内シェアにより、業界で強力なリーダーシップを発揮できる」――それが、西尾と私との間で一致した考え方であった。さらに、統合するなら、「断トツのトップにならなければならない」という認識も同じくしていた。当時の燃料油の販売シェアは、概ね新日石25%、ジャパンエナジー10%であった。2社が統合すれば35%となり、他社を凌駕する断トツのナンバー1となる。加えて統合会社は石油開発、金属という収益性と成長性のある事業も擁するポートフォリオになる。
キーワードは、「ベストプラクティス」。縄張り意識や過去のしがらみを断ち、最も優れたものを選択する。そうしなければ、劇的な事業変革はできない。
両社とも100年を超える歴史を有する会社である。よくも悪しくも、歴史と伝統を背負っている。「過去の歴史をすべて捨て去る覚悟で行わなければならない」我々はそう決意した。幸いにも、社内やOBから経営統合についての反対論は両社ともほとんど出なかった。経営層はもちろんのこと、それだけ多くの人々が危機感を共有していた証であろうと思う。

基本方針を統合前に決定する

経営統合をめぐる両社間の協議は、2008年12月に基本的合意に達し、翌2009年10月に統合契約を締結するに至った。そこまでにも株式交換比率などを巡り、両社間で侃々諤々の議論があったが、その後も統合前に、統合シナジーなど大きな経営課題について両社で徹底的に検討し合い、基本的方針を固めていった。
最大の課題は、前述した「過剰精製能力の削減」である。3年間で、統合シナジー等で約1100億円の利益向上を達成する。それが中期経営計画の根幹の一つに据えた数字であった。競争力を強化し、財務体質の改善を進めながら、同時に成長戦略も必要となる。合理化・効率化だけでは、縮小均衡に陥り、成長は不可能だ。幸いにも、有望な成長投資案件が山ほどある。世界各地での石油・天然ガスの開発、チリの銅鉱山開発、石油化学、潤滑油、環境リサイクル、燃料電池、車載用リチウムイオン電池の正極材・負極材など。筋肉質の会社にしていくと同時に、成長戦略を推進する。具体的には、3年間で9600億円の投資をする。そのうちの約70%、6900億円は成長戦略投資に充てる考えだ。
この中期経営計画は、統合直後の2010年5月に発表したが、基本的な部分は統合前に決めた。困難な課題を統合してから決めようとすると、結局何も決まらないままに2~3年が過ぎてしまうという話もよく聞く。だから、我々は、例えば精製能力削減について「2010年度末までに日量40万バーレル削減する。2014年度末までにはさらに日量20万バーレル追加削減する」と、統合前に公表し、退路を断った。実際には、公約期限を前倒しして、40万バーレル削減を2010年10月末までに実現し、追加20万バーレル削減についても2013年度末までとした。具体的な削減対象設備の選択は、新日石の製油所、ジャパンエナジーの製油所という区別は一切せず、まさに「ゼロベース」で考えた。
結局、仕事は人間が行うものだ。その結果は数字になってあらわれた。初年度の2010年度だけで、3年間の統合シナジー目標約1100億円のうち、約500億円を達成した。

グループのトータルベストを求めて

JXホールディングスは純粋持株会社である。実際に事業を行っているのは、中核事業会社のJX日鉱日石エネルギーであり、JX日鉱日石開発であり、JX日鉱日石金属である。各事業会社は、事業特性に応じて迅速に意思決定をし、責任と権限を持って事業を展開する。
一方、グループのトータルベストを考えて、グループ全体を運営していくのが持株会社の最大の役割だ。各事業会社が投資したいと考えたとき、一歩退いたところから経済・社会の行方を考慮しつつ、グループの全体最適に向けて最終判断を下す。そうした羅針盤的な役割が持株会社には課せられている。逆に言えば、それがなければ持株会社をつくる意味はない。

グループの「規模」と「総合力」の強みを発揮する

東日本大震災によりJXグループの製油所・工場などが被災し、結果的に、消費者・需要家の皆様に多大なご迷惑・ご不便をおかけした。引き続き供給安定化に向け復興・復旧を最優先に取り組んでいる。2010年度決算では1260億円もの特別損失を計上した。ただし、この分は、定常投資の圧縮、復興支出の実行ベースでの削減、遊休資産の売却など自助努力で吸収し、前述の成長戦略投資と財務体質改善は予定通り進めることとしている。
震災の大きな影響を受けながらも計画通り、成長戦略と財務体質改善を推進できるのは、統合によって売上高10兆円規模に拡大し、大きなキャッシュ創出力を持つようになったということもある。まさに「規模は力なり」と実感した。
もう一つ強みとして認識したのが「総合力」。グループの石油精製販売、石油開発、金属の3つの中核事業がそれぞれ業界1位あるいは2位の事業として位置づけられており、今回の大震災のような危機に際しても、また今後の成長に向けても、グループ全体の総合力として、同業他社に例を見ない強力な基盤を有しているというメリットだ。
以前は、短絡的に「総合力」がコングロマリット・ディスカウントとして懸念されることもあった。しかし、10年先が見えない時代にあって、我々の石油精製販売、石油開発、金属にわたる競争力を伴った「総合力」は、収益性、成長性の両面から大きな強みである。実際、典型的なコングロマリット企業であるGEにコングロマリット・ディスカウントをもって評価するアナリストはいない。かつてジャック・ウェルチ氏は、世界でナンバー1とナンバー2以外の事業は切り捨てるという「選択と集中」を行った。我々の事業も、世界でとはいかないが、各中核事業とも日本でナンバー1とナンバー2の事業ばかりである。

「X(みらい)」を切り拓く

会社も人生もいいときばかりではない。「意志あるところに道あり」を、私は若いころから座右の銘としてきた。人間、意志を持って行動すれば自ずと道は開けていく。逆に、自分からやろうと思わないと何も生まれない。経営トップ自らが強い意志を持って、実行し、変革していけば、道は必ず見えてくる。そして、「どんなひどい嵐の中でも時は過ぎていく」(シェイクスピアの戯曲『マクベス』の台詞)。一生、晴ればかりのことなどなく、嵐も必ず通り過ぎる。周りの環境に惑わされることなく、次の変化を見据えて、今やるべきことを一人ひとりが一生懸命やりなさいと社員に話している。
「JX」の「J」はJAPAN、「X」は未知への挑戦、未来への成長・発展、創造性、革新性などの意味を込めている。引き続き変革に向けた手綱を緩めず、グループ全社員の「創造性と革新性」を結集して、JXグループの「X(みらい)」を切り拓いていきたい。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.43 からの転載です。

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