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いまこそ、真のグローバル人材育成が求められるとき

独立行政法人国際協力機構
副理事長 大島賢三氏

グローバル化が進展し国際競争が激化する中、世界における日本の相対的地位の低下が進んでいる。日本は高い技術力と人材力で戦後の復興をなし、世界に伍する国となってきた。しかし近年、日本はグローバル人材力の育成で遅れをとっている。遅すぎる感さえあるが、何か行動を起こさなければならない。そこで、明石康氏と山本正氏と私の3名が発起人となり、有志懇談会を立ち上げた。「グローバル人材育成に関する提言」の取りまとめを行い、昨年末から今年初めにかけ、政府(内閣官房副長官、国家戦略担当副大臣)にお届けした。 グローバル人材の育成は多岐にわたるため、政府部内(国家戦略室)を司令塔として、そこに産官民の叡智を集める。オール・ジャパンの見地から対応策を練り、各界の協力を得つつ果断に実施に移すべきだ―というのが「提言」の趣旨である。その実行を期待していたさなか今回の大震災に直面した。これから先数年、国内は東日本大震災からの立ち直りに手一杯で内向き志向がさらに強まり、日本の国際的地位・影響力の低下がもっと加速するのではないかということが懸念される。

対外発信力の必要性

グローバル人材の育成は、政府が進める「新成長戦略」推進の一側面でもある。最近実施した調査によれば、75%の国内企業がグローバル人材の必要性を挙げている。これは日本の対外発信力の強化にも共通する問題である。今回の原発事故対応は、日本の対外発信力の弱点を露わにしたのではないだろうか。

また、日本の将来を担う若者の内向き志向も気になるところだ。従来、日本の主たる競争相手は欧米諸国であった。しかし近年、アジアでは中国、韓国、インドなど、目覚ましい台頭を見せる国々も手強い存在になっている。そうした中で、中国、韓国等の欧米への大量留学と対照的な日本の留学生の顕著な減少傾向、海外志向の弱まりを大人社会が憂え嘆くだけでは済まされない。企業や大学、また政府を含め社会全体の問題として対応を考える必要がある。

国際協力機構(JICA)の下で運営されている青年海外協力隊の制度は、開発途上国への技術協力に貢献すると同時に青年教育にも役立っている。この制度にならい、企業派遣の若い人材を1年未満の短期で受け入れ海外体験をさせることで、ビジネス人材の育成に役立ててもらえるような制度(企業ボランティア派遣制度)を検討中である。さらに、「国際協力士」「国際業務士」といった新たな認定資格制度を導入し、(1)専門的な知識・経験、(2)言葉・コミュニケーション力、(3)人間力を総合的に判断して、志ある人が国際キャリアを積めるような仕組みも検討に値するであろう。

英語によるコミュニケーション力

そして、グローバル人材育成の上で、国際共通語たる英語によるコミュニケーション力の向上も大きな課題である。国際ビジネスや国際会議への出席など必要目的に応じたトレーニングの場(中核センター)があればいいのではないかと思う。懇談会メンバーに入っていただいた楽天の方は、同社がなぜ英語を会社の公用語としたか、最大の鍵は「情報収集にある」と言われていた。できるだけ多くの社員が直接、英語で情報にアクセスすることが会社にとって非常に大事である、と。

東日本大震災後、被災者の方々に対して極めて多くの国々から支援提供の申し出があったのは、日本がこれまで積み重ねてきた交流や研修等、草の根レベルの国際協力に対する感謝のあらわれでもある。JICAにも「こういうときにお返ししたい」というメッセージが多く寄せられた。

"We will build back better"―ハリケーン・カトリーナの大災害からの立ち直りに際して米国で繰り返された言葉である。インドネシア・アチェの大地震・大津波でも、"building back better"は合言葉であった。東日本大地震後の復興が日本に活力を取り戻す形で実現し、ひいては危機感,閉塞感を打ち破り、新しい国の在り方への動きにつながる事を期待したい。日本にはそのための力と知恵はある。災害先進国・防災先進国として、経験・教訓を国際社会と共有すると共に、伝えるべきものは伝えていく。それが、グローバル社会における日本人としての責務であろう。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.42 からの転載です。

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