お問い合わせ

日本とインドの架け橋として
~インドから見た日本的経営~

エイチシーエル・ジャパン
代表取締役社長 ハリクリシュナ・バート氏

株式会社エイチシーエル・ジャパン(以下HCLジャパン)は1996年、HCLテクノロジィーズの100%出資によって設立された。HCLは"ブラックブック・オブ・アウトソーシング"から世界No1のインフラアウトソーシングベンダーとして選出され、フォーチュン誌ではインドで最も近代的な経営をしている会社として評価された。 私は1981年1月に日本の文部省(当時)からの奨学金によって日本の大学に留学し、大学院を卒業。その後16年間日本企業に勤め、さらにインドのIT企業で10年間マネジメントにあたり、日本での滞在期間は30年間近くになる。社会人としての一歩を日本企業で踏みだした後、インド企業に勤め、2008年弊社の社長に就任した。そうした経験から、インドから見た日本の企業経営について日頃感ずることを述べてみたい。

コンセンサス重視が"スピード"阻む

私が大学院修了後、日本企業に魅力を感じたポイントの一つに、パンクチュアリティ(時間厳守)がある。さらに、職場は整理整頓がいきとどき、社員が真面目で誠実であることも日本企業の素晴らしさだと感じた。そうした良さを感じる一方で、入社3年目で一定の責任を任された時、日本企業のコンセンサス重視の強さを実感した。

多くの場合、マネジャーであってもボスであっても、一人で決めることはしない。ミーティングを繰り返した後も、稟議書を回して何人もの"ハンコ"が必要で意思決定に時間がかかった。日本的経営の良さである一方、これが経営のスピードを鈍らせているようにも思われた。さらに当時の日本の会社組織のヒエラルキーの強さは、異文化の壁と思えるほど強烈だったとも記憶している。
 
インド企業に移ったとき、この点は全くやり方が異なっており、経営判断の速さには驚いた。インド企業では権限と責任の範囲が明確であり、極端に言えばメール一つですべてが決まる。そうした意思決定の速い経営は、日本よりもはるかに欧米に近い。イギリスがインドに残したプラスの遺産に英語があるが、その英語と技術力の高さを生かしてインドのITは世界を変えつつある。インド内においてもIT企業は女性の職場進出でも大きな役割を果たした。日本の方からよく質問されるカースト制度に関しても、ITの職場では全く影響がない。

また、最近はインドの工場に行くと、日本の企業文化ともいえる"5S"即ち、整理・整頓・清掃・清潔・躾の標語が掲げられているのを目にすることが多くなった。他国の長所は、柔軟に迅速に取り入れて伸びていく姿勢が、最近のインド発展の原動力となっている。

2015年がインド進出のデッドライン

日・欧・米の市場が飽和停滞状態にある今、日本だけでなくあらゆる国の企業が、新興国市場を視野に入れている。インドの人口は約12億人、平均年齢は24歳、20歳以下が約7億人を占めている。つまり、民生品市場が非常に大きい。しかし、携帯電話は約5億台と急激な伸びを示しているものの、自動車所有世帯は約7%、テレビや洗濯機、掃除機も20%にも達していない。この様な巨大市場は、日本企業にとってビッグ・チャンスではないか。

また、インフラ面でインドが最も力を入れているのは、豊富な日照時間を利用したソーラー発電だが、こういった分野も日本は世界をリードしており可能性が高いであろう。
 
インド政府は2020年ビジョンを打ち出したが、2020年を待つまでもなく、インドの購買力は爆発的に拡大すると思われる。これに乗り遅れないためには、今から2~3年、遅くとも2015年までにインドに進出しておかなければ、その後の熾烈な競争に勝つことは困難になるだろう。
 
現在、電気製品では韓国製が圧勝しているが、その要因は、単に価格の問題だけではなく、マーケティング面での差が大きい。インドで売れる製品をつくるには、インド人の性格を知り、それに合わせた製品をつくらなければならないからだ。さらに重要なのはマネジメントの問題である。インドで成功しようとすれば、日本をよく知るインド人の社長を置き、同時にナンバー2には必ず日本人を置いてマネジメントしていくことを、私はいつもお勧めしている。スズキ自動車はそうした点で最も成功しているといえるであろう。
 
インドでの製造業は、まだまだこれから伸びていく大きな可能性を秘めている。日本企業が世界水準のスピード感ある経営を行うには、アウトソーシングを早めに、且つ有効に活用していく必要がある。そこでも、インド企業の仕事の質やスピードが役立つはずだ。今後、日印経済はますます広く、深く、強力な連携を深めていくことは間違いないが、この大きなうねりの中、その架け橋の一部になることができれば、これほど嬉しいことはない。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.39 からの転載です。

経営のヒントトップ