"見える化"宣言でトップマネジメントの本気を示す
~学習し続ける組織であるために~
株式会社NTTデータ
代表取締役副社長 山下 徹氏
"ソフト"というものは、目に見えないものと言われてきた。確かにソフトそのものは見ることはできないが、ソフトをつくりあげる"プロセス"は、見えるはずだ――我々の"見える化"宣言は、そうした考え方のもとで始まった。 我々の仕事は、お客様との共同作業である。だから、我々が行っていることをお客様に共有していただかなければ、よりよい仕事は達せられない。大事なのは、お客様とのコミュニケーションなのだ。それは、家を建てるときと似ている。注文住宅であれば、お客さまは、工事のプロセスを見ながら進捗状況や品質を確認していくことができる。同様にソフト開発のプロセスも、お客様に"見やすく"お示ししていくことが重要なのだ。
ワークスタイルを変革する
そもそも、ソフトやシステム開発という仕事は、つくっている人間でなければ把握しづらく見えにくい。非常に労働集約的な要素の強い、個人的な負担を強いてきた仕事である。職人的な要素が強く、ノウハウは個人に蓄積していく。"見える化"は、そうしたワークスタイルを改革していくために欠かすことができないものだ。
プロセスの "見える化"に取り組むことで、仕事の中身がオープンとなり、皆で共有化することによって個人的な過度の負担を取り除くことができる。プロセスを細かく分解することによって、はじめて合理化も可能になる。中身のわからない粘土のような塊のような仕事は切り分けようもないが、仕事が見えることによってモジュール化が可能になり、分担が可能になり、量産も可能になり、共通化も可能になるのである。
"見える化"は、まさに改善活動そのものなのだ。我々は、NEXT活動という職場改善活動を進めているが、自らITを使ってイノベーションしていこうとするとき、プロセスが見える化される中ではじめてITの使いどころが見えてくる。ITはあくまで手段であり、まずは自分の仕事の足元手元をしっかりと見て、見える化するプロセスの中でITが活用できる。急速な変化が起こるのは、そこからなのだ。
ワークスタイル・イノベーションと改善の2つをベースにすることで、社内の生産性を上げ、社員がより人間らしく仕事をしていくための環境を整えていくことが、日本のソフトウェア産業の近代化への第一歩となると思う。
お客様との共通言語をつくる
ソフトウェア業界ならではの暗黙知の"見える化"は、お客様との共通言語の創造へのチャレンジでもある。
ソフトは見えづらいだけでなく、専門用語が多くお客様にはわかりづらいという難点がある。極端に言えば、お客様が何を望んでいるのか、頼むほうも頼まれるほうもよくわかっていない、というような状況が生まれがちなのだ。
さらに言えば、もう一つ新しい課題もある。暗黙知は既存の仕事の中で生じるものだが、全く新しい仕事のフローをつくり出していくときは、そもそも社内の暗黙知すら存在しない。そうした仕事が増えていくとき、よりよいコミュニケーションをはかり、お客様に喜ばれる仕事を進めるには、どうしても共通の言語が必要になってくる。
それは、簡単なことではないだろう。これから先、試行錯誤の連続かもしれない。「これではわからない」「この方法ではレンズが曇っている」「焦点がズレていて的確に見えていない」「メガネをかけたほうがよいのではないか...」、そうした指摘がたくさん出てくると思う。これは、我々にとって大きなチャレンジなのだ。
"見える化"の大先輩に自動車産業がある。我々の産業は日本の製造業に比べると20年は遅れている。が、ありがたいことに、日本の製造業は組織的学習をする上で我々のよいお手本となってくれる。大事なことは、組織が学習するということを、会社も職場も忘れないことだ。それが会社の中に染み渡れば、20年の遅れを10年あるいはそれより短い時間で取り戻すことができるのではないか。
これまで社内で続けてきた、プロセス「透明化」の活動を、我々はグレードアップしてお客様に向けて"見える化"宣言した。これは、逃げ道をなくして、自らを追い込むことでもある。たとえ経営陣が変わっても、お客様に宣言したことは変えられない。トップマネジメントが覚悟を決め、本気を示してこそ、現場にその思いが伝わるのではないだろうか。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.16からの転載です。
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