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経営層が見ている品質 「社員が気づく品質文化の伝え方、そして経営のスタンス」

JQMQvol.18_201501.pdf

 品質の良い会社は品質文化が醸成できていることが、実態調査で明らかになったが、品質文化が醸成できている会社とはどのような会社であろうか? 小職のクライアントで品質レベルが高く、品質文化の醸成レベルも高い会社があるが、そのエピソードを御紹介したい。  

 その会社は大手電機メーカーのエピソードである。年初の挨拶で、社長自ら、老夫婦のお客様から送付された手紙を読み上げた。その内容は、自社製品のFF式暖房機が、30年以上もの長い間、何の問題もなく、その家、そして家族を暖めていることに対して、感謝の言葉が温かく記されているものであった。加えて、長年家族に貢献している暖房機のお陰で会社のファンになったとの内容も紹介されていた。これを聞いた従業員の中には、目頭が熱くなったものも少なく無かったとのことであった。また、肉筆の文面は、イントラネットにも紹介されており、社内でも話題になったようである。

 ここでのポイントは2つあると考える。1つは30年もの間、機能・性能を維持している信頼性高い製品を送り出す「ものづくりの力」「品質保証の力」があるということである。うがった見方をすると製品寿命が長すぎ(=過剰品質)、商売にならないとの見方もあるが、一般的にこのような製品の寿命は10年程度という感覚からすると、群を抜いた耐久性であり、正に「感動品質」のレベルであること。

 2つ目は経営トップが自らの言葉で、品質至上主義の思いをエピソードを交えて伝えていることである。顧客の「感動品質」を、品質をつくり込む従業員へ、感動を与えるエピソード(=事実)を交え、品質の大切さを熱く伝え、品質文化醸成の良いサイクルをドライブしているのである。少々一般論になるが、人の行動や行動の変革は「気づき」「感動」から始まると言われているが、それらを品質文化醸成のスイッチとして上手く活用されていると思う。

 この会社の場合、なぜ上記の2つポイントが上手く行われているかというと、その要因は、会社に創業以来トップ主導で「品質の基本理念」が根深く息づいていること、イコール前述のような行動を繰り返すことで暗黙の「Way」となっていることや、トップが製造業のトップとして本物の現場主義であることや、ものづくりを大切にすることが大きいと私は考える。例えば、この会社のトップは製造現場から選抜された「全社技能大会」にも時間をしっかり割いていらっしゃる。開会・競技中・表彰式・入賞者との昼食懇談会など、しっかりと現場とふれあう。見渡せば、全社技能大会自体が無くなっている会社も多く見かけるが、大切なものを残し、実際に品質をつくり込む現場を大切にすることがスタンスとして伺える。

 上述のことから、私見も含みまとめると、品質はトップ主導で「社員を気づく」品質文化を醸成していくこと、そして、最後の品質を決める「ものづくりの現場(開発~生産)」を厳しくも温かく見守るトップのスタンスが大切であることを改めて感じる。

コンサルタントプロフィール

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シニア・コンサルタント 石田 秀夫

大手自動車メーカーの生産技術部門の実務を経て、JMACに入社。ものづくり領域(開発・設計~生産技術~生産)のシームレスな改革・改善活動のコンサルティングに長年従事。生産技術リードでものづくりを変え、日本製造業の強みである「造り込み品質」や「ものづくり」の力を引き出し、企業を段違いな競争力にするコンサルティングを推進中である。近年は日本版インダストリー4.0/IoT化によるQCDダントツ化デザインや生産戦略/生産技術戦略、ものづくりグランドデザインを主要テーマにしている。

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