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イノベーション人材の成長を加速させる鍵! 知っているだけでは変わらない「習慣化」の実践知

コラム

2025.11.05

過去の課題追求と「習慣化」への到達

私はJMACに入社して以来、「技術者・研究者が、自分が本当に『やりたい』と思える仕事に従事できるようになる」ことをビジョンに活動してきた。この「やりたいこと」は単なる面白さだけでなく、誰かの役に立つ「三方よし」のアイディアである、という考えに基づいている。

入社当初の2005年頃はMOT(技術経営)が盛んで、顧客価値を実現するためのアイディア創出支援を行っていた。しかし、方法論を伝えてもアイディアが社内で潰される問題に直面し、その後、ハラスメントや心理的安全性、チームワークといったテーマでの支援が中心となった。それでも担当者は自分のやりたいテーマを諦めてしまうケースが続いたため、近年は担当者自身の内省やマインド面に向けた支援、つまり長く続けられる「自分が本当にやりたいこと」にたどり着く支援をメインで行っている。

こうした課題を追求した結果、「思考」「チーム」「個人のマインド」のすべてが重要であると実感したが、それでもなお拭えない課題は、「すぐにはできるようにならない」という点である。イノベーションを実現できる研究者を育てたいと思っても、現状維持の力が働くため、そう簡単に変わるものではない。

この課題を乗り越え、得た知識や気づきを確実に行動として結びつけ、当たり前の状態にするためのカギこそが「習慣化」だ。スポーツの肉体鍛錬が一度の指導で効果を得られないのと同様に、自ら継続して初めて変化が起こる。

イノベーションを推進するための思考習慣

イノベーションを推進できる人材として成長するために、取り組むとよい「思考習慣」が存在する。

たとえば、私が提唱している「only one構想」の中には、「『どうするか』の前に『何が起こっているか』(現実・現象を抑えるという意味)」という考え方がある。すぐに解決策を考えがちな人は、課題にぶつかるたび、あるいは人の課題を聞くたびに「何が起こっているのか」と思考を巡らす習慣を身に着けるとよいだろう。初めは意図的に行う必要があるが、慣れれば自然と脳が動くようになる。他にも「お客様のありたい姿はなんだろう」「自分はどうしたい?」「他にないか?」など、シンプルな問いを自らに投げかける習慣も有効だ。

  Only one構想 常識的で安全な構想
テーマの目的 高利益率の持続 (技術だから) (とりあえず)
アウトプットを出す
課題を目の前にしたとき なぜ?なに? どうやって?
トレンドや常識を把握したとき 常識を疑ってみる 常識に合わせようとする
大きな障害に巡り合ったとき チャンスととらえる おわりととらえる
なかなかうまく進まないとき 自分で悩み、有識者を頼る 自分で悩む、諦める
テーマの価値基準をはかるとき 顧客がどうか 上司がどうか
反対意見にあったとき 立場を理解しあおうとする 相手を非難し、正当化しようとする

JMAC研究会による発見】習慣化を成功させる5つの実践知

とはいえ、「習慣にする」のは難しい。忘れたり、面倒でサボったり、さまざまな原因で続かないことはよくある。

そこで、JMACの「イノベーション人材開発研究会」では、「どうすれば習慣化するのか」を1年以上にわたり実践研究し、いくつかの重要な点に気が付いた。これらは、習慣化を確実に成功させるための具体的なアクションプランである。

① 深い納得感を持つ(必要性の認識)

まず基本的に、自分自身が深く必要性を感じていないと続かない。短時間で決めた取り組みは、ほとんど続かない。今自分はどうなりたいのか、何が期待されていて、どんなことを乗り越えたいのか、自分の深堀りを通して納得感を得ることが必要だ。

② 自分に合った方法を選ぶ(個に合わせた取り組み)

習慣化しやすい取り組みは、個々人によって違う。トレーニングと同様に、自分一人で続けられる人もいれば、仲間と続けたり、トレーナー(伴走者)がいるから頑張れたりすることもある。自分に鞭を打った方が頑張れる人、自分を承認したら続けられる人など、自分に合ったスタイルを見極めることが重要である。

③ 定期的に振り返る

定期的に振り返りの場を持つことは、継続の重要なカギである。イノベーション人材開発研究会では、毎週金曜日に気づきを書くことで、自分の変化を確認し、やっていないことを思い出し、また他の人の様子から励ましを得ている。

④ 抽象と具体の目標を両立させる

何をやるかについて、具体的な表現と抽象的な表現を両方用意しておくと良いだろう。

具体的な目標(例:「提案書を書くときに、ワクワク要素を入れる」)は行動に移りやすい反面、機会がないと実施できない。一方で、「非常識な考え方ができるようにしたい」といった抽象的な目標を認識しておけば、「自分が面白いと思うことを考える」など、行動のチャンスが格段に増える。振り返った際にも、できた数を増やしやすくなる。

⑤ 既存の業務や生活に編み込む

習慣化の取り組みは、すでにある業務や生活の中に編み込むことが重要である。業務と直接関係がない本を読むといった行動は、やはり続かないものだ。業務や生活の中で実践できることを考えることが、継続のカギとなる。

後戻りしない成長実感、継続こそ力なり

この「習慣化」の実証実験を2年近くかけて行ってきた結果、研究会メンバーには確実な成長実感がある。たとえば私自身は、3年前より格段に「常識を疑い、斜め上のアイディアを出したり、お客様の暗黙の常識に気づく」ことができるようになった。お客様の共感を大切にしつつも、「そうですよね」を当たり前に使わず、「へえ、そうなんですか」と受け止めるように変化した。

月に12時間程度の振り返りを行いながら、2年かけてスキルアップしていくことを「地味すぎる」と感じるかもしれない。しかし、実際にかけているコストは月に2時間だけである。そして、これらの習慣化トレーニングは「知識を得ている」わけではないため、トレーニングをやめてもすぐに後戻りしないというメリットがある。その成果は今の仕事に活かされるだけでなく、イノベーションを生み出すという業務に本気で向き合ったときに発揮されるものであり、まさに一石二鳥である。

【最も重要な原則】成功するまで止めない

最後に、それでも習慣化は忘れてしまうものだ。

完璧主義の技術者や研究者は、3日坊主になったとき「課題設定が悪かった」「これでは意味がない」と考えがちだ。そこで、もっとも重要な行動原則は以下のとおりに記す。

3日坊主になったら、ただ、再開すればいいだけなのだ。これを忘れてはならない。

成功するまで止めない、がイノベーションの原則なのだから。

大﨑 真奈美

R&Dコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

技術者・研究者の企画力向上や、R&D組織革新の支援に従事している。最近は、技術者・研究者の心に火をともすことをミッションとしており、「火おこし」役として日々実践・研究をしている。2児の母。カウンセラー資格を持っている。

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