お問い合わせ

ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社

  • 生産・ものづくり
  • ものづくり人材育成
  • 人材育成・組織開発

「ワークモチベーションアップ」を原動力に、最高益を更新し続けるKI活動

ヤマハ発動機グループの中核を担う会社の1つが、ヤマハモーターエレクトロニクスだ。世界初の電動アシスト自転車「PAS(パス)」のドライブユニットを柱に、ヤマハグループの電装品の開発、製造、販売を手掛けている。特に売り上げの約7割を占めるPASドライブユニットは、コロナ禍で人との接触を避け気軽に運動できたり、混雑を避けて移動できたりするとあって需要が急増し、欧州市場などで爆発的な伸びを見せる。だが、現場がその急速な伸びに対応するのは至難の技だ。

▲「KI活動を通じて、みんなが自律できる力が付けばますます良い会社になっていくでしょう」と笑顔で語る橘内社長

そのような中にあって、「5年前と比べると従業員一人当たりの限界利益は、1.5倍になっている」と話す橘内透社長。ヤマハモーターエレクトロニクスの生産性向上の背景にあるKI(Knowledge Intensive Staff Innovation)活動について迫ってみよう。

あらゆる社員が自発的に動く会社を目指しKI活動推進

「技術者も事務スタッフも、役職者から若手まであらゆる社員が“自発的に動く”会社になって欲しい」ーー。そんな想いを持って、KI活動を推進している橘内社長。KI活動とは、短くまとめると「マネージャー職やエンジニアなどの問題意識を見える化し、共有することで知的生産性を高める」活動のことだ。

橘内社長は2017年、ヤマハモーターエレクトロニクスに取締役として出向し、社員のワークモチベーションの低さに愕然とした。そこで取り入れたのが、KI活動。JMACチーフ・コンサルタントの星野誠は、技術部門を中心に20チーム近く支援してきた。

▲事業の柱は電動アシスト自転車「PAS(パス)」のドライブユニット

「振り返ると2015年にヤマハ発動機の材料技術部から設計・製造のエンジニアリング部署に異動し、KI活動を通じて400人超の技術者の職場を活性化するプロジェクトに携わりその効果に疑問の余地はありませんでした。“ヤマハ発動機から言われたからやる、自分が何を言ってもどうせ吸い上げてはもらえないから……”こういったわだかまりを、チームワークを力に一掃して欲しいという気持ちでKI活動をスタートしました」(橘内社長)

KI活動といった人材の変革だけでなく、体制作りも積極的に推し進めてきた。硬直化した組織をなんとかしようと部門長を総入れ替えするほどの異動を断行。加えて、昨年2021年の初めから、技術系社員をヤマハ発動機に出向させ、“降りてくる仕事”ではなく”ダイレクトにやりとりする仕事”を体験できる体制作りもしている。

需要急増のPASに対応するためのチーム力

「最初は技術系の部門からKI活動をスタートしました。当時は新規プロジェクトの立ち上げにあたり、トラブルが多く発生していたと聞いています。その中で、橘内社長(当時は統括部長)を中心として、KI活動を開始しました。技術系では、チームワークの強化や仕事の質が向上するといった成果が出たため、事務系の部門でもKI活動をスタートしました。」(人事課の広瀬さん)

▲KI活動事務局の一人として活動推進を担う人事課の広瀬さん

事務系部門でKI活動に着手した部門の1つ、PAS事業推進課ではPAS関連商品の顧客対応窓口として、受注から出荷までを担う。5年前と比べると生産出荷台数は倍以上、飛ぶ鳥をおとす勢いで需要が急増するPASに関わる仕事だ。工場で直接生産に当たる人だけでなく、その現場を支える事務方も常に忙しく、体力があり仕事が回せる誰かに業務が集中してしまう状況がある。この点は、自分の持ち場や専門性を強く意識する技術者より事務スタッフの方が顕著な場合も多いだろう。だが需要が伸びている今こそ、顧客対応の迅速化と生産性向上が必要だ。それに対応するには、誰か一人の力では太刀打ちできない。

「“自分達の仕事はこんなものだ”が常態化しているように見えました。改善する余裕がないため、改善意識も低い。日常はそれで進んでいてチームで力を合わせて仕事をしたことがないから、チームで仕事をするイメージがわかない。とはいえ、日常を見直してみると困りごとがたくさんあるといった状況でした」とKI活動を支援している、JMAC星野は当時の事務系部門の状態を振り返る。

「本音を言えばやりたくなかった」を変えたKI活動の効果

現状を変えていく意識作りや目標設定からJMAC星野の支援はスタートした。チームで戦う体制への変革、ただ開始当初は「本音を言えばやりたくない、と思っていました(笑)。生産台数が増えれば増えるほど問題も増え、人が足りない。通常業務だけで手一杯なのに、これ以上、業務時間が増えるようなことはしたくないと思っていたんです」と、課長の宮地雅也さんは当時の気持ちを率直に語る。この気持ちが徐々に変化していったのは、「昼礼」を毎日行うようにして日々の生産状況や困りごとなどを共有できる場をつくるなどのKI活動のなかで、一人ひとりのボトムアップにつながっていると実感し始めたからだ。

▲PAS事業推進課・課長の宮地さん

PAS事業推進課で若手を取りまとめるリーダーの大津佳博さんは、「工場管理に関わるシステムの知識不足が課題の1つでした。ただ、目の前の仕事に追われている方々にやり方を聞くなんて迷惑だろうと思っていたんです。それが、チーム一人ひとりが今、何をやっているのかを共有するようになって、今なら聞いても大丈夫だろうと判断することができるようになり、聞きやすくなりました」と話す。

▲PAS事業推進課・リーダーの大津さん

目標高く方針を語る橘内社長と現場との“架け橋”

2016年に発足したPAS事業推進課は、部署として新しく、20代の若手が多い。それもあって、社長から降りてくるミッションが部長、課長と降りてきて担当者に伝わる頃には、「何が目的かわからないけれど、やれと言われたからやらなければ」という状態になることが多かった。この状態では、若手にとっていちばん身近で相談しやすい存在であるはずのリーダーも機能せず、それぞれが目の前の仕事に手一杯。それが、まずはリーダーが若手の考えや意向を汲み取り、課長にも相談、部長は“チームの総意”として社長と合意形成するという流れもできるようになってきた。

実は橘内社長とJMAC星野は7年ほどの長い付き合いになる。だからこそわかる、目標高く方針を語る橘内社長の熱い思い。ここは時に、目の前の仕事でいっぱいいっぱいの現場との断絶を生んでしまう。そのため、星野は意識的に経営と現場をつなげるための場づくりを支援してきた。

▲PAS事業推進課の“日常”の様子

情報共有のメリットに気づいた「生産管理課」

KI活動を通じて、お互いの業務を把握し誰か一人に荷重がかかり過ぎないようになることで得られるメリットに気づいているのは、生産管理課も同じだ。

KI活動を始める前の生産管理課では、「何か問題が起こったらミーティングをやるが、通常は集まって会話することはなくそれぞれが自分の担当の仕事をやる」のが当たり前だった。それを、形骸化していた朝礼を廃止する一方で毎朝、昨日やったこと、今日やること、苦労していること、課題やグチなどを出し合い、吸い上げる時間にした。これを毎朝続けることで徐々に、ほかのメンバーの業務内容に興味を持つようになっていった。

▲1週間分のそれぞれの業務を付箋に書き出して会話する生産管理課メンバー(左から、角田さん、新村さん、澤入さん、大谷さん)

朝だけでなく、課内ミーティングの前には、それぞれメンバーが1週間分の業務を付箋に書き出し、「今週やったこと」「来週やること」に分けてボードに貼り付けて会話する。付箋に書き出しているのは、今日できなかったことは次の日、来週に持ち越す、担当者が休んだらその業務を別の手が空いている人がやるというように、柔軟に対応できるようにするためだ。

それぞれのやったこと、やることを見ながら課題や困りごとを抽出し、「今日の課内ミーティングで話し合うこと」を決めていくのだが、ある時、角田さんは、新村さんが毎週水曜日に4〜5時間かけてやっている業務が気になった。新村さん自身もなぜその作業が必要なのか明確な理由はわからないまま、前任者から引き継ぎの時にやるように言われたことだったのでかなりの負荷をかけながら毎週続けていたという。その場にいた、大谷さん、澤入さんもなぜその業務が必要なのかわからない。そこで、関係部署に話を聞きにいくと、かつては必要だったが新しい作業工程になってからは本質的には必要がない、もはや形骸化している業務だということがわかった。

「毎週4〜5時間分の作業時間を削減できただけでなく、新しく必要な業務を作り出し、それに対応できる余裕ができました。KI活動がなければ自分自身の残業時間を増やし、会社のためにも誰のためにもなっていないのに今も続けていたことでしょう」(新村さん)

▲それぞれの業務内容とかかる時間を付箋に記載

「一人で抱えなくていい」チーム生産管理課の誕生

角田さんは「個人商店状態でやっていた時は、自分だけが大変なんだと思っていました。グチも含めてみんなと情報共有できるようになって、みんなも大変だということがわかるし、私がやらなきゃと思っていたことも助け合ったほうがチームのため、会社のためなんだと考えるようになりました。業務効率化が進んだだけでなく、心のゆとりも生まれた気がします」と話す。

大谷さんも角田さんの言葉にうなづく。

「自分の業務を細かく書き出し、自分自身が抱えた問題や課題に対応していくだけでなくほかのメンバーのことも考えるなんて大変だと思っていました。でも、始めてみたら“やってよかった”という実感続き。かけた時間以上のものを手にしているという実感があるから、みんな続けられているんだと思います」(大谷さん)

澤入さんは、一人で抱えなくて良くなったメリットを実感しているようだ。

「個々人の課題をバラして見える化したら、チームとしての課題も見えるようになったんですよね。生産計画管理を通して生産性向上を進めるという目的は同じなのだから、個々人としてもチームとしても向かう先は同じ。そんな当然のことに、目の前の自分の仕事だけしか見えていなかった時には思い至らなかったんです。フォローし合ってチームとして最大限の力を出す、ということが大事だと気づいたら、残業時間も減り休みも取りやすくなりました」(澤入さん)

橘内社長も実際、「事務系部門全体の残業時間は減っており、数値にもKI活動による効果が見え始めています」とその効果を実感している。技術スタッフだけでなく事務スタッフの意識が変わり始め業績改善につながっているのだ。

「今となっては、KIはうちの会社になくてはならない仕事の進め方になっています。これからも変わらず、JMAC星野さんのうまくみんなをやる気にさせるファシリテートする力に期待しています」(橘内社長)
ヤマハモーターエレクトロニクスの成長の背景には、経営のかじ取りと一人ひとりのワークモチベーションアップという回り続けている両輪がある。

▲静岡県周智郡森町にあるヤマハモーターエレクトロニクス本社

関連ページ

関連コンサルティング・サービス

生産・ものづくり

生産現場の人、設備、材料、製造方法とマネジメントシステムを改善して生産性向上をはかります。生産現場は製品特性や製法により多種多様の特性を持つ複雑系です。そのため私たちは、現場でじっくり見て聞いて、フィットする特別な改善プログラムを作ることから仕事を始めます。少しだけ時間はかかりますが、そのことは現場力を高め、現場の一人ひとりが成長を感じられる魅力的な職場になることを知っているからです。

詳細を見る

事例トップ