第6回 「中堅企業経営課題の実践の点検」のススメ
戦略の巨人~戦略的なコラム~

前回のコラムでは、B2B企業のA社のB2C事業転換のチャレンジについて書いた。今回は後編を語る。
企業の革新は「意欲×能力×持続力」により企業カルチャーが作り変えられる。
そのため、A社のB2C進出にたいする意欲を確認するため「B2Cはやるべきかやるべきで無いかでは無く、やりたいかやりたく無いかが重要」と問うた。すると、「B2Cはやりたいです。B2Bでは企業の知名度が上がらないのでB2Cにチャレンジしたいです」という返事があった。意欲の確認が出来たところで、つぎに必要なのは能力と持続力の確認が必要である。A社の能力の一つであるSNS(Social Networking Service)には1,000人以上のサポーターと数百人の”いいね”、200名の無記名コメントがあった。
さらに、購買実績を分析すると数千円前後の商品に500名、5000円近いの商品も500名に売れている事が分かった。そこで、この500名それぞれのお客様の”いいね”と無記名コメントがどうなっているの分析をしようとしたが、残念ながらSNSはクローズされておりデータは取れない状態となっていた。SNSの好反応は一つの成功事例であったものの、それを顧客分析に活用する視点にまでは残念ながら至っていなかったのである。B2BとB2Cの仕事の考え方の違いである。
顧客分析が中途半端な中、乗り込んだ大手ネット販売では、大手だからこそのポイント還元やクーポン販促などさまざまなアプローチがあったがA社の商材とユーザー層としてはあまり魅力的には映っていなかったようである。商材の特性と商材に見合ったユーザー層の購買行動をどこまで理解してそれに見合った販促計画と戦略を立案・実施出来ているか、ここに大きな分岐点があった。
われわれJMACでは1984年に当時の副社長の菊野恒夫が「戦略を立てるとは」のコンセプトを考え、時代変化に合わせて後輩達がコンセプトを磨いて来た。そのコンセプトとは、
今回紹介したA社の事例で言うと、顧客満足はお客様が見えていない状態では設計出来ない。業務用顧客なのか個人顧客なのか、使われ方はどういったシーンで活用されているのかなど、限られたデータから顧客満足の仮説を立てる。また、競争優位は、他の競合商品との競争ポジションである。
A社はその後、残念ながらその商材では個人志向のマーケットに受け入れられた、とは言えない状況である。類似の商品も多く出てきて、後発の商材がA社よりもマーケットを席捲をしていたりもする。そして鳴り物入りで市場投入した商品はすでにレッドオーシャンとなっており、今後の事業成長としては課題は山積している。
レッドオーシャン市場ではB2Bメーカーは稼げない。B2Cランキングトップに入るメーカーのスピード対応に付いて行けないからである。たとえば、大手の日用雑貨企業では工場の操業を100%にせず、急な需要に対応するため余裕を残している。B2Bメーカーには発想がない対策で俊敏な商品開発を実践する。そのため、私はA社にレッドオーシャンで戦うのではなくブルーオーシャン市場での展開をアドバイスした。前回のコラムの最後にB2B企業のB2Cで成功しない理由を述べたが、5項目に「B2Bでの成功事例を基にした役員が自社の社員も新市場開拓を起こせるとの楽観論から、裏付けのないB2C売上目標が降りて来る」と言う言葉がある。
顧客満足と競争優位の2つだけでも有効に実現できる状態を事前に考えれば、戦略計画が明確になったはずである。今回失敗した原因は意欲はあったが、能力が不足していた点である。能力と言うのは「戦略を立てるとは」の内容を設計する能力である。設計できたら実践に繋げ、顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼が変化する中で、修正しながら自社B2C成長への持続力が実現できれば、意欲×能力×持続力の連携による企業カルチャーの変革を起こせたはずだ。
目指すべき顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼が
有効に
実現できるような状態を
事前に考え、準備しておくこと
次回のコラムではこの「能力」と言う面について説明する。
シニア・コンサルタント
36年のコンサルタントキャリアを通じ、一貫して消費財製造業、卸売業、小売業のサプライチェーン企業へのマーケティングテーマの支援を行っている。特に、食品業界の製造業支援は豊富で、ビジョン・グループ経営戦略、マーケティング戦略から営業活動への実践まで手がけ、小売の現場を知っているコンサルタントとして拡販成果に繋げている。
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