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プロフィット・デザイン

第5回 顧客を離さない 〜ロック要素〜

横山 隆史

プロフィット・デザインの検討において、もっとも重要となるのがこのロック要素の検討です。利益を持続的に生み出すためには、顧客との良好な関係を構築し、顧客から選択され続け、購入され続けなければなりません。顧客のスイッチング・コストを高め、離反を防止し、購入し続けてもらうための要素がロック要素となります。

顧客の"使い方・方法"をロックする

顧客は、ある製品・サービスをいったん利用し始めると、必ずその使い方・方法を習熟しなければなりません。そして、いったんある使い方・方法を習熟してしまうと、新たな使い方・方法に移ることをためらってしまう傾向があります。なぜなら、新たな使い方・方法を習熟するためには、これまでに習熟してきたものを捨てなければなりません。さらに、新たな使い方・方法を習熟するための手間・時間がかかってしまいます。この手間・時間は、顧客のスイッチング・コストを高め、顧客をロックする大きな要素となります。

ここで、スポーツクラブ事業を展開するコナミスポーツ&ライフが提供する「e-エグザス」というサービス事例を紹介します。このサービスでは、スポーツクラブの会員にICを組み込んだ「個人認証キー」というものを配布しています。そして、そのICに運動履歴を記録させ、健康管理に役立ててもらうというサービスを提供しています。

履歴を残す範囲はスポーツクラブ内にとどまりません。たとえば、屋外でウォーキングする際に指定された万歩計を利用すれば、そのデータも履歴として残されます。家庭内でも体重計のデータを履歴として残すことができます。そして、蓄積された履歴はインターネット上の個人ホームページで確認・管理することが可能となっています。

同社はこのサービスを通じて「クラブ・外出先・家庭の3つのシーンをつなぐ」とうたっており、まさに顧客の"健康丸抱え"していると言うことができます。このような卓越した"使い方・方法"をいったん習熟すれば、顧客はそう簡単にはスイッチできなくなります。もし個人でこれだけの管理をしようとすれば、相当な手間・時間がかかってしまうことは容易に想像できるからです。

顧客の"持ち物"をロックする

さらに顧客のロックを強固なものとするためは、顧客の"持ち物"をロックする、という視点が重要となってきます。

「e-エグザス」の場合、運動履歴に関する情報はすべてコナミが有するセンターサーバーに蓄積されますが、これが非常に重要なポイントとなっています。顧客の健康履歴に関する情報、すなわち顧客の"持ち物"はすべてコナミ側がコントロールしている、ということになるからです。

顧客にとって大切な"持ち物"である運動履歴情報が蓄積されればされるほど、他へのスイッチが難しくなってきます(事実、このサービスの利用停止と同時にデータはサーバから消去されるような仕組みになっているとのことです)。さらに、コナミとしてはこの情報を活用して顧客個々に最適な健康管理の提案を進めており、顧客との関係をますます強固にしているのです。

優れたビジネスは、顧客の"持ち物"を確実にロックしています。コマツのKOMTRAXの事例では、顧客が本来持っているはずの建設機械の稼働情報をコマツが収集しています。喜久屋の事例では、顧客の(とくに冬物)衣類をロックしています。他には、Microsoft Officeも典型例です。ワードやエクセル・パワーポイントの上に顧客の情報がどんどん蓄積されていき、ソフトを変えようという気さえ起こりません。

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ロックできる顧客の"持ち物"とは

顧客の"持ち物"を自社のコントロール下におければ、顧客はそう簡単に他へスイッチすることができなくなります。顧客にとって自己の"持ち物"は大切なものであり、スイッチすることはすなわち"持ち物"を放棄することになるからです。その"持ち物"の個別性、つまり他では代替できない固有度合いが高ければ高いほど、ロック要素として強固なものであると言うことができます。

"持ち物"として想定できるものとしては、まずは

   ヒト・モノ・カネ

です。喜久屋の事例では、衣類というモノをコントロール下においています。

次に考えられるのが、

   顧客が有している"情報"

です。コマツの事例では、顧客の稼働情報をコマツがコントロールしていると言えるでしょう。また、コナミの事例では、顧客の運動履歴を握っていると言えます。

このような情報のロックはIT化が進展した昨今、至るところで見受けられます。典型例が携帯電話です。携帯電話の中には、連絡したい相手の電話番号やメールアドレスがぎっしり詰まっています。もし携帯電話をなくしてしまったら、家族にすら連絡できなくなってしまう人も多いのではないでしょうか。このような情報の外部化、すなわち情報をロックすることは、顧客に対して高い利便性を提供する一方で、強力なロック要素として機能することになります。

さらに強いロックの対象があります。それは

   顧客が有している"関係性・つながり"

です。近年普及が著しいSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が典型的な事例です。

たとえばフェイスブックやツィッターですが、顧客相互の関係性をロックしているサービスということができます。顧客の一方がサービスを停止すると、友人・知人との関係性が絶たれたり、今後のコミュニケーションに大きな支障が生じたりする不安もあるからです。"関係性・つながり"をロックできれば、顧客にとっての第三者(知人・友人など)へ影響を及ぼすために、非常に強いスイッチング・コストとして機能することとなります。

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