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プロフィット・デザイン

第1回 ほしいものは何ですか?

横山 隆史

最近、研修やセミナーでこういった質問を投げかけています。たとえば、年末に近い時期でしたら、


ボーナスが入ったら、「絶対これが欲しい!」というものはありますか?

という具合です。ほかにも、「発売が待ち遠しくて仕方がなかった製品・サービスはありますか?」「買ってみて、感動した製品・サービスは最近ありますか?」という質問も投げかけています。

ですが、ほとんどの方が「うーん...」と悩まれます。これといってほしいものがない、買ってみても感動というレベルまでには至っていない、ということがうかがえます。これはあるクライアントの方のコメントなのですが、

「いる」ものはあるが、「ほしい」ものはない

と、非常に示唆的なことをおっしゃっていました。これは私の勝手な推測なのですが、大半の消費者はこれまですでに多くのものを購買した経験があり、その製品が自分にどういったメリットをもたらしてくれるのか、推測がついてしまうのです。ですから、買ってみても使ってみても、それほどの感動は生じない、メリットが推察できるからあえて「ほしい」ものもなくなってしまう、ということではないでしょうか?

もう5年以上も前の話になるのですが、あるビール会社の方が、非常に興味深いことをおっしゃっていました(このコメントは、プロフィット・デザインを生み出すきっかけにもなりました)。

ウチのビールはうまいと思うんですよ。でも売れないんです。 「なんで?」って思ってしまいますよ。

確かにそのとおりなのです。多少の味の違いやブランド・ネーミングによる違いはあっても、総じて言えば、ビールはどれも"うまい"のです。

このような視点で日々の購買シーンを振り返ってみると、日本国内どこを見渡しても良い製品・良いサービスばかりではないでしょうか。スマートフォンの最新機種は、多少の違いはあってもどれも魅力的です。テレビをみても、どれも驚くほど美しい画像ですし、きれいなデザインです。どのスーパーに行っても、新鮮なものが見やすいレイアウトで豊富に並んでいます。それでも、「この製品は売れてるなぁ」と感じられるのは、ほんの一握りの製品・サービスに過ぎません。

先日、興味深い新聞記事を見つけました。

『スマホ普及率は53.5%(2014年3月末、総務省調べ)と、「ガラケー」と呼ばれる従来型のフィーチャーフォンを使っている人が依然として国内ユーザーの約半数に達する』(注1)という内容です。

スマートフォンはおそらく、多くの方にとって"革新的"な製品と映っているでしょう。私自身も、スマートフォンの登場は"革新的"だったと感じています。これまでの家電製品の歴史をみても、このような"革新的"な製品が登場すると、ほとんどの場合は市場にあまねく普及していく、もしくは完全に代替していく、と考えられてきました。初代のiPhoneが登場したのが2007年のことで、すでにスマートフォンの登場から7年が経過しています。しかし、依然としてユーザーの約半分は、従来型のフィーチャーフォンを使っているのです。

この事象から推察されることは、ユーザーは携帯電話がもたらすメリットをおおよそ推察できている、いくら革新的な製品であっても、自分に対するメリットがそれほど大きくないのであれば、あえて新しい製品にスイッチする必要もない、ということが考えられます。購買に習熟した、成熟社会における極めてスマートな消費行動であると言えるでしょう。

しかしこれを逆の視点(供給する企業側)から眺めてみると、いかに売ることが難しい時代に突入してしまったのか、ということでしょう。

マクロ的に見ても、企業側としては「売上」に対して、ますます自信が持てなくなってきたのではないでしょうか。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などで、経済全体としては相当なダメージを受けました。アベノミクスの効果もあって回復傾向も見られますが、2014年の消費税増税により、ここにきて足踏みも見られます。また、中長期的には少子高齢化や財政悪化、それに伴う税金・社会保障の負担増など、悲観的な見方をされる方が大半です。クライアントとディスカッションしていると「2020(にーまるにーまる)以降をどうするか?」というテーマに数多く接しています。

一方、このような状況下であっても、たくましく成長し、着実に利益を上げている企業があることも事実です。そのような企業をつぶさにみると、ひとつ言えることは「良い製品・良いサービスだけではない」ということです。つまりは、儲けるためにはもう"ひとひねり"が必要となってきている、ということが考えられます。

この連載「プロフィット・デザイン」では、儲けるための"ひとひねり"を紹介していきます。

注1:2015年1月6日 日本経済新聞

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