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第56回 「エリア戦略の進め方(1)~基本的な考え方~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

「マス単位」の戦略から「エリア(地域)単位」の戦略へ

多くの企業では、不特定多数のマス市場を対象に、同一の(新)商品・サービスの提供を通して、新たな顧客を獲得することにより、マーケット・シェアを伸ばし、売上を拡大する手法がとられてきました。 しかし、売上・シェアを向上させる考え方の一つとして、商品の差別化が難しく、マス市場の伸びが見通せなくなってくると、顧客を何らかの形でセグメントし、重点対応せざるをえなくなります。

顧客の集合体としてエリアを適切に把握し、その構造と購買特性に基づき細分化されるゾーンごとの内容を明確にすることによって、市場は開発されます。 マス単位からエリア(地域)単位へのマーケティングの転換により、個々の顧客実態を的確に統合整理することで、マーケットを開発する重要性が増しているのです。

エリア戦略の基本的な考え方とは

個々のエリア(地域)は、同じ性格ではないから、その特性に応じた対応を図る必要があるというのがエリア戦略の基本的な考え方です。 その最大の狙いは、エリア間の格差を踏まえ的確な対応を講じることで、エリア内でNo.1の地位を獲得することです。

「No.1」とは、企業規模の大きさではなく、エリア内マーケット・シェアの大きさを意味します。 具体的には、1位の企業はさらに頑張って「No.1維持」を目指します。 2位の企業ならば、まず1位企業の射程距離まで近づき、そして、追いつけ、追い越せです。 2位以下の戦略は、「いかにして顧客にアピールするか」です。 そのため、情報収集を強化し、差別化戦略を工夫することです。

では、No.1になるメリットを考えてみましょう。 相対的な製品力で差別化が難しい領域では、顧客の購買決定要因はそれ以外の要素が左右します。 一般的には、最も良く知られた商品、すなわちNo.1商品が買われる確率が高いのです。

エリアNo.1を目指すには、自社の営業エリアを決定し、徹底して他社に差別化した戦いを仕掛けていくことが必要になります。 商圏の変動により、特定エリアへの顧客の集中化が進むと、営業効率から言っても、投資効率から言っても、成長エリアへ注力することがより大きな成果につながります。

こうした商圏変動は絶えず起こっているということに留意しなければなりません。 固定的な営業フォーメーションではなく、変化に柔軟な対応が求められています。 しかし、現実には、多くの企業でエリア別の目標を抜きに、チャネル別の目標を設定した活動が展開されており、効率低下を招いています。

ランチェスターの法則に学ぶエリア戦略の押さえどころ

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1.商圏の二眼レフ構造
二眼レフ構造とは、2つの都市で構成されているところは、それだけ大きな商圏ができ、相乗効果が出るということです。 地域セグメント化した場合、有力拠点づくり戦略として二眼レフ構造を作ることでシェアを早く上げることができるのです。 たとえば、ある特定地域に絶対的に強い得意先があったら、同じように強い得意先をもう一軒作って、その地域を二眼レフのようにします。(上図参照)

2.商圏三点攻略法
三点攻略法では、A企業が、ある地域に進出し、その地域において占拠率No.1の地位を確保したいと考えた場合、その地域はA企業にとって最終攻略目標地域ということになります。

しかし、A企業は、最初からその地域の中心へ進出せず、最終攻略目標地域とその周辺地域をセグメントした上でA企業にとって最も有利な地域を選んで、その1点に集中攻撃をかけて、トップ・シェアを獲得します。 これが第1の点です。 次に、セグメントした地域の中でさらにもう1点を選び、ここでもトップ・シェアになるまで集中攻撃を続けます。 これが第2の点です。

さらに第1の点、第2の点とともに最終攻略目標を包囲する形で、第3の点を打ちます。 第3の点が打たれたことにより、最終攻略目標地域を囲む三角形の面積ができたら、最後に最終攻略目標地域の中心に第4の点を打つべく、3点から攻撃を開始します。(上図参照)

■点の形成 (第1の点の打ち方)
(1) 全体のエリアを代表する地域に点を打ちます。代表とは、「情報センター」としての代表であり、もうひとつは全体の「縮図」という意味での代表です。 情報センターとしての機能は、おおむね県庁所在地に集中しています。 縮図としての要素は、その地域に住んでいる人々の性格(「昔から住み着いている人々」と「他地域から転入してきた人々」の割合)によって決定されるケースが多いようです。 おおむね、他地域からの転居者の多い地域は、縮図になりにくいのです。 縮図には、もうひとつ占拠率(シェア)のパターンからみた縮図という意味もあります。
(2) 立地的にみて、供給基地としての条件を持つ地域に点を打つという考え方があります。
(3) 中心性ということに重点を置きます。

■線の形成 (第2の点の打ち方)
第1の点を打ったら(No.1が獲得できたら)、その地域がどの方向に向かって伸びているか、人口はどの方向に向かって移動しているかなど、その地域のベクトルに従って、第2の拠点づくりの対象先を決めます。
地域の成長予測をする場合、「人口は低きに流れる」「住宅地区はレジャー地域の多い方に発展する」という人口移動の法則性がヒントになります。 たとえば、北九州エリアは、小倉北区を押さえた場合、鹿児島本線沿いよりも地価の安い日豊本線沿いの方に発展の可能性があると予測できます。 レジャー地域も別府方面に集中しています。 とすれば、第2の点は大分寄りのベクトルに打つということが見えてくるのです。

■面積の形成 (第3の点の打ち方)
何を囲むのかということを、戦略として決めることが最も重要です。 たとえば、競合他社の占拠率が最大地域を囲む、市場性が最重要な地域を囲むということです。

■西側拠点説と北守南進説
西側拠点説とは、西側に点を打ち、包囲陣形を作っていった方が、日本の場合成功確率が高いという理論です。 アサヒビールが、弱小時代、まず九州、四国地域でトップ・シェアをとり、自社の地盤固めをしたという例があげられます。
一方、北守南進説というのは、まず北を攻め、トップの地盤を固めた上で、最も離れた南側エリアを攻め、そこで橋頭保を作り、徐々に北に攻め上がるという考え方です。 まず東北地方を押さえ、次に九州を押さえ、それから東に上がっていく戦略です。 アサヒビールの例で示すと、東北地域でトップ・シェアをとり、徐々に南の地域を攻略していき、最後には大市場の首都圏で攻勢をかけるのです。

3.強者と弱者のエリア戦略
強者のテリトリー戦略の特徴に、オープン・テリトリー戦略があげられます。 これは、同じ地域に複数の代理店や販売店をつくるか、あるいは、複数の販売会社をからませて、お互いに同一テリトリーの中で競合させます。 いわば、勝ち合わせ戦略のことです。 東京の代理店が九州のユーザーに売るのも自由ということです。 強者がこうした戦略をとるのは、地域内のユーザーや取引店に対するカバレッジ率を上げる事を目的にしているからです。

一方、弱者のテリトリー戦略のポイントは、地域セグメントにより、一つひとつに対して、確実にNo.1地域を作る戦略です。 地域限定主義にかえり、三点攻略の基本を小さい地域から実践し、再編成していく必要性に迫られてくるのです。 一般に占拠率が10%以下の企業は、いわゆる三点攻略が全くできておらず、市場の店しか押さえられていない構造になっています。 また、占拠率が20%くらいのところで止まっている企業は、店と点をつなぐ線は形成されているけれども面積が形成されていません。 さらに、面積が形成されていても、まだ包囲作戦が完了していない企業の占拠率は、30%前後という構造になっています。

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