お問い合わせ

第10回 これからのマーケティング(1) マーケティングを変革する

 これから3回にわたり、「これからのマーケティング」と題しマーケティングの変革方向をまとめ、私のコラムを終えたい。まとめとしての最初のテーマは「マーケティングそのもの」の変革である。私は25年のコンサルティング実践を通じ、多くの企業のマーケティング現場に関わってきた。コトラーが主張するマーケティングの変遷-すなわち1.0(マスマーケティング)から2.0(顧客中心・CS)、そして3.0(価値中心)-のまっただ中の現在、企業におけるマーケティング機能はどう変革されるべきか考えてみよう。

マーケティングをルーティン化させてはならない

 本コラムで再三指摘したが、多くの企業においてマーケティングは「できあがった商品をいかに売るか」という役割に偏りすぎている。本来は市場、顧客を十分に調べ、理解し、そして洞察し、自社としてどのように価値を生み出すかにコミットすべきマーケティング部門が機能不全に陥っているケースが非常に多い。

 もっとも気になるのは、「新商品が出る前の手順は...」「毎年、この時期に市場調査をして...」「ニーズ調査のためにFGIをして...」といったパターンに陥り、それぞれの業務がルーティン化してしまっていることである。マーケティングのようなきわめて創造性が求められる業務がルーティン化・手順化してしまっては、創造性が発揮されるはずもない。

表面的な変化に意味はない

 昨今、マーケティングの取組み事例でよく聞くワードが「リブランディング」や「リバイバル」である。もともと持っていたブランドや商品に新しい意味づけをし、対象顧客を定義しなおし、プロモーションのあり方を変えて賦活する考え方・取組みである。このリブランディングの事例にも2通りあると考えている。

 1つ目は「顧客と価値を環境変化に合わせて再定義し、新たな価値軸を打ち出し、ブランドを賦活化する」取組み。2つ目は「顧客も価値も実は変わらないのだが、プロモーションの仕方を変え、目新しさを打ち出す」取組みである。どちらも否定するものではないが、本来マーケティングが期待されているのは前者のはずである。行き詰まったからブランドや商品の表面すなわちプロモーションだけ替えるという「表面的リブランディング」だけでは、いずれその商品やブランドの価値はすり減ってしまう。リブランディングといえば聞こえは良いが、結局やっていることは「上っ面」「見映え」だけ変えて本質的な価値が高まっていないのである。さまざまなシンポジウムやフォーラムなどで紹介される事例に、この「表面的リブランディング」が増えている点が非常に気がかりである。

 同様の例が「コミュニケーション」という表現である。マーケティング4Pの1つであるプロモーションについて、昨今、コミュニケーションと言い換えている企業が多い。背景には、SNSの普及やスマートフォンの普及に伴うまさに顧客とのコミュニケーション手段の変化があると考えられる。この多様なコミュニケーション手段を使って、企業は何を実現しているのか。私の認識では「結局、やっていることは、旧態依然としたプロモーション」という結論である。

 プロモーションは商品の紹介であり、販売促進であり、売り込みであり、つまるところ企業側が「売る」という目的のための行為である。それをコミュニケーションと言い換えて何の意味があるのか。コミュニケーションの真価は一方的な伝達ではなく「通じ合い」である。顧客と企業が相互に理解を深めることを目指すならコミュニケーションという言葉を使う意味があるのだが、多くの企業は単にプロモーションをコミュニケーションと言い換えて悦に入っているだけではないだろうか。

マーケティングの変革とは何を変革することか

 こういったマーケティングのルーティン化や表面的な変化について問題視しているもっとも大きな理由は、マーケティング機能の低下は企業の緩やかだが確実な衰退につながると確信しているからである。企業は世の中に価値を提供し続けなければ生き残れない。そして価値に共感してくれる顧客を見つけ、育てなければ企業は存在できない。マーケティング機能の低下は企業の存在意義を揺るがすことなのである。にも関わらず、多くの企業は「マーケティングは大事だ」と言いながら、その実、マーケティングの変革に注力してこなかったのではないか。多くの企業トップは社内に向けて「創造力を発揮せよ」「新しい価値を生み出せ」「延長線上で考えるな」と強く働きかける。しかしその実、「何をどのように変えるのか」という点については具体的に示せていないことが多い。

 私は創造性、新しい価値を生み出したければ「マーケティングを変革するしかない」と考える。このマーケティングを変えるとは何を変えることだろうか。「どう変えるか」についてはこれまでも本コラムを通じて主張してきたので読み返していただきたいが、「何を変えるのか」「変革対象」について改めて整理しよう。

 マーケティングも機能であり業務である以上、変革の対象はきわめてオーソドックスに以下の3つである(下図)。

①目的
②方法
③人

col_cs_10_01.png

 この中でもっとも重要なのが目的の変革である。自社はマーケティングを通じて何を実現したいのか。既存商品を上手にPRすることなのか、新しい商品づくりやそのための顧客理解を目的とするのか、それは自社次第である。私の主張としては、ぜひ「進歩ではなく発明」を目的として明確に位置づけてほしい。わかっている価値軸・競争軸上での改善・改良だけでなく、明確に「発明」すなわち、まったく新しい価値の創出を明記してほしい。多くの企業が新しい価値を生み出すことを明確に目的と位置づけること、位置づけ直して逃げずに共有することが、世の中の発展につながると信じるからである。 次いで、方法の変革である。プロモーションをコミュニケーションと表現し直すのではなく、本当のコミュニケーションを構築する必要がある。顧客とのコミュニケーションのみならず、広く生活者全般、協業企業、ときには競合も含めた大きな枠組みでのコミュニケーションを構築する必要性が高まっている(この点は「価値共創」という観点で別途述べる)。

 そして人の変革。マーケティング部門の人は当然ながら、トップを含めた組織の隅々まで真のマーケティングマインドとスキルを獲得する必要がある。マーケティングを狭く捉えて「自分の仕事ではない」と誤解している人が非常に多く、まずはそこから変えていく必要がある。顧客のことを「わかったつもり」になっている人も多く、その慢心から正していく必要がある。トップ層も自分の経験だけから「こういうものだ」と決めつける思考習慣を捨てる必要がある。求められる知識やスキルについて整理する前に、そもそもマーケティングとは何か、自分がどう関わるべきなのか、そういった認識から変えていく必要がある。

 3つの変革対象について、どう変えていくかについてはこれまでのコラムで語った面もあるが、語り切れていない面も多い。別のコラムで筆者を変えてJMACの主張と技術を紹介していく予定である。ご期待いただきたい。

 次回はマーケティングを考えるうえでもっとも重要だと言える「価値」の変革について紹介する。

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ