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第3回 VOC(Voice Of Customer)の活用 価値ある一言を見逃さないために

「お客さまの声は宝の山」か?

「お客さまの声が大事だ」という意見は多くの企業で、さまざまなマーケティングに関わる議論の中で頻繁に耳にする。「お客さまの声=大事」はもはや誰もが信じて疑わない定説だと言える。同様定説に「お客さまの声は宝の山」というのもある。

 では、それだけ大事なのだから、多くの企業でVOCを活用し成果を挙げているのだろうと思いきや、実態は異なっている。たとえば、「自社で過去1年間でVOCから改善・改革した事例を1つ以上言えますか?」という質問に、あなたはどう答えられるだろうか。

 私が講師をしているマーケティングやCS部門の担当者向けセミナーで同様の質問をすると、自信を持って手を挙げる方は全体の12割、多いときでも34割である。まさにVOCを活用しているべき部署の方々でも「そういえばあの改善はVOC起点だったかなぁ......」という曖昧な認識が多い現状の現れであり、これでは「お客さまは宝の山」なのか? と疑わざるを得ない。

「量」の重視がVOC活用を阻んでいる

VOC活用が進まない最大の要因は、「その声は何人のお客さまが言っているの?」という思考である。この背景には、改良・改善・改革に伴う負荷や痛みがある。つまり、当事者としては「少数の意見では踏み切れない」という姿勢になりやすいのである。

 よく考えればこの姿勢は非常に危険であり、言い換えれば「多くのお客さまが不満の声をあげるまで何もしない」と言っているに等しい。その一方でこうした姿勢の企業の多くは、「他社が先に実施したら慌てて追随する」という傾向がある。VOCを本当に宝の山とし、他社に先駆けて改革する企業になるためには、この「量」偏重の思考を捨てる必要がある。

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「価値ある一言」の重視と「顧客洞察」の重要性

 

量への偏重を捨てるとはどういうことか。それは単純に、「ひとこと」「ひとり」の意見をもって改善・改革を断行することである。事実、ヒット商品開発物語や、優れた経営者の逸話には「あるお客さまの一言からいた」というエピソードが含まれることが多い。われわれの経験でも他社に先駆け、時代を先取りしてきたトップは、たった1つの声から大胆な判断を下すことも多い。

 では、どのように「価値ある一言」重視に切り替えるのか。さまざまなアプローチはありるが、根本は1つである。それは、「その声の背景を見抜き、先駆的な声もしくは氷山の一角なのか、"変わり者"の声かを見極める」ということである。いかに「面白そう」で「もしや天才?」と思うような声でも、「例外的なお客さま」や「50年後ならあり得るアイデア」では話にならない。逆に近い将来の主流になる期待、今までにない価値を実現するヒントやその兆しが現れているならば、その声は「たった一言で世の中を変える価値ある一言」なのである。

 これらを見極めるには、「その声の背景」を深く知る必要がある。このようなお客さまの声や行動の背後にある実態を見抜くことを、われわれは「顧客洞察」と呼んでおり、VOCを宝の山にするために必要不可欠な要素だと考えている。

※「顧客洞察」の基本的な考え方や活用可能な手法については次回述べる。

VOC活用のために整備すべき要素

 

VOCの背景にある生活実態や業務実態についての「顧客洞察」については次回に譲るとして、今回は「お客さまの声を宝の山にする」ための3つの要素を以下に整理しよう。

(1) 声の質と量

 一定以上の量と質のVOCを引き出して、的確に記録し社内に取り込む機能である。

(2) 本質的期待の察知力

 VOCの背景にある本質的な期待を察知する機能である。「お客さまの声をそのまま活かす+その真意・背景にある期待を見抜いて活かす」ことが求められる。

(3) 意思決定プロセス

 価値ある一言であろうが、大量の苦情であろうが、そこから「何をやるか」に変換できなければ意味がない。VOCを起点に検討し意思決定に至るプロセスが整備されていない企業は意外に多い。

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