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第1回 問題提起 CSとマーケティングが切り離されている

「マーケティング部門の役割」とは

 マーケティングとは、一言で言えば「新しい顧客を獲得し続け、顧客との関係を強め続ける、組織全体の活動」である。しかしながら、われわれのコンサルティングを通じた実感で言えば、多くの企業のマーケティング部門が一部の狭い範囲の機能にしかなっていないというのが実感である。

 本来のマーケティングとは①顧客になり得る市場・人々について深く理解し、②自社が提供できる価値を定義し磨き上げ、③最適な方法で訴求し、④最終的に価値を届けるところまで見届ける――という息の長い機能であるはず。しかし実態としては、①については旧態依然とした手法での調査止まり、②については開発部門任せ、③については代理店任せ、④については営業・店舗任せ――といった例も少なくない。これらのバランスは事業・企業により異なるが、一貫して機能発揮しているマーケティング部門は少ないと言わざるを得ない。

 企業の生命線であるマーケティング機能は、「ヨコ文字」のせいか、「製造」「販売」といったわかりやすい機能定義がないためか、役割が曖昧になり機能不全に陥っている企業が多いと認識している。

CSはマーケティングの一部である

 マーケティングの主題である「顧客との関係」という点では、1990年代から日本においても「CS」という概念が普及し定着している。このCSとマーケティングをどのような位置づけで捉えるべきだろうか。

 答えは簡単である。コトラーの言説を借りるまでもなく、CSは企業中心のマーケティングへの反省と進化の結果生まれた概念であり、さまざまなマーケティングの考え方の中の(重要な)1つである。つまり、CSはマーケティングの一部なのである。にもかかわらず多くの企業では、「CS推進部門とマーケティング部門が切り離されている」。対象は同じ顧客であるにもかかわらず、そしてCSも顧客関係強化が目的であり、マーケティングも同じであるにも関わらず、部門としては別々なケースが多い。既存顧客との関係強化と新規顧客の獲得で分けているのかと思いきや、その区分も曖昧な企業が多い。これでは企業として一体となって新旧顧客に向き合う体勢がとれていないと言わざるを得ない。

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顧客と企業の関係が大きく変わっていく

 一方で、主役である顧客については、この20年間できわめて大きく変わってきた。インターネットの普及、SNSの台頭などにより、人の購買行動はもちろん、人と企業や社会の中でのコミュニケーションのあり方は大きな変化のただ中にある。人はさまざまな情報に多面的に触れ、有機的に影響を与え合い、つながり合う。その結果として企業が「従来の方法では関与しえない"場"で人々の意思決定がなされる」ようになっていく。今まで「顧客を理解している」と自負していた企業も、知らないところで自社の商品への評価が定まり、自社からの働きかけの力が弱まっていく。

 「目新しい新商品を出そう!」「顧客の声を聞こう!」という取組みをしている企業は多いが、コンサルタントとして強く訴えているのは「従来を超える商品を生み出すなら、従来の顧客理解では足りない」ということである。とくに、いかに人や社会の変化を察知しその背景を洞察していくかが、顧客と企業の関係を自社の意図を持って再構築していくためには必要不可欠である。

今こそ、マーケティングの再構築を

 これらの認識を受けて、私のコラムで一貫して主張したいのは、「今こそ、本来の、顧客中心のマーケティングを取り戻そう」ということである。そのためには、既存顧客に精通する取組みであるCSとマーケティングは自社の中で一体にならなければならず、自社全体として一貫した機能にしていく必要がある。

 やるべきことはシンプルであある。 「①顧客になり得る市場・人々について深く理解し、②自社が提供できる価値を定義し磨き上げ、③最適な方法で訴求し、④最終的に価値を届けるところまで見届ける」ことに尽きる。

 本コラムではこれらの機能について主に①②④について「顧客洞察」と「満足開発」という枠組みで、コンサルティングの現場から実務的な情報や提案を届けする。

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※参考:CSとマーケティングが切り離された経緯

 CSとマーケティングが切り離されてきたことについては、以下のような経緯がある。日本におけるCSへの取組みが普及する火付け役は、われわれ日本能率協会グループであるが、その際に「CSはマーケティングの新しいコンセプトである」という言い方・紹介をしてこなかった。また.多くの企業がCSという概念に触れたときに、マーケティングとの位置づけについて明確な意見や疑問を持たなかったことも事実である。1990年代はバブルの末期であり、当時マーケティングというと企業起点でのプロモーション機能という面が強く、CSという顧客起点の概念とは組み合わせにくかったという事情があったのである。したがって、われわれもCSという概念を提唱するにあたり、(狭い範囲で捉えられている)マーケティングの中にCSを位置づけることを嫌った面があった。しかしながら、CSおよびマーケティングに関する理解も進んでいる昨今、改めて「CSはマーケティングの一部である」という点を再確認しておきたい。

  

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