お問い合わせ

第6回 物流ネットワーク資産の活用による共同化

 今回は物流ネットワーク資産による共同化を取り上げる。これは主に物流事業者が保有している資産・ノウハウを活用して各種物流サービスを創出し、単一企業が行うよりも安価で高品質な物流を提供することにより成立している。

物流事業者が主体となる共同物流の3つの類型

 物流事業者が主体となる共同物流には、以下のように3つの類型がある。

■中ロット積合わせ共同化

 その第一は、"中ロット積合わせ共同化"である。これは、路線便(特別積合わせ便)事業に代表されるように、複数荷主の貨物をエリア単位で集荷し、ハブ&スポーク方式でエリア単位の配送を行う事業モデルである。しかし宅配便とは異なり、付加価値の高いサービスの構築はあまり進んでいない。

■中ロット混載サービス

 第二は、路線便でカバーできない荷主のニーズに対応する、業種・商品に特化した"中ロット混載サービス"である。積み荷が限定されるので、集荷先・納品先が重複し、輸配送効率を高めることができる。

 工業用アルコール物流を本業とする日本アルコール物流(株)では、液体小口輸送事業として、危険物を含む液体物のドラム、コンテナ、缶などを1個の小口から一般貨物と同等のサービスレベルで輸送し、顧客の要望に応じて容器回収や洗浄リサイクルまでも一貫して行っている。このような事業を可能にしているのは、危険物を扱える拠点・車両・ドライバーを全国レベルで保有しているからである。

■一括複合サービス

 第三は、"一括複合サービス"である。混載サービスに加えて、荷主の抱えるさまざまな課題に対して、コンサルティング的な付加価値を提供する事業である。定温食品の(株)キューソー流通システム、電子部品のアルプス物流などが代表例である。
 センコー(株)の住宅資材物流サービスもこのような複合サービスの一例である。(株)センコーは建材メーカー約50社から受託して、住宅生産工場や施工現場へ納品している。これを支えているのが、①さまざまな搬入パターンに対応できるドライバーの現場力、②効率的な運用を促進する標準化力、③異なる事業者間をつなぐ情報システムである。
 これらの事業者は単に安価な輸送を提供するだけではなく、荷主のニーズに細かく対応し、調達・保管・加工・納品・回収までをワンストップで提供しているところに特徴がある。

 共同物流の成功要素として"標準化"があげられるが、業種が同じと言っても標準化の推進は簡単ではない。各荷主の生産工程まで踏み込んで、荷姿やコード体系まで踏み込んで変えていく企画力・指導力も必要となる。荷主に対して自社のノウハウを積極的に提供しながら、改善の先導役を泥臭く実施していることも、荷主の信頼を得ている理由であろう。
 共同集荷、共配センター運営、納品代行など、業種業態に特化した高い専門能力を保有している物流事業者はその強みを存分に発揮している。この場合、取引上の制約条件などを考慮する必要がないため、荷主企業の参画は比較的容易であり、また荷主は結果的に共同物流のネットワークに相乗りしていることになる。逆に物流事業者は、インフラの整備、質の高いサービスの継続が求められるため、事業運営のさらなる向上が必要となる。

これからの共同物流の主役は荷主から物流事業者へ

 筆者は物流のコンサルティングを始めて約25年になるが、この間の物流事業者の能力向上は非常に大きいと感じている。一方、荷主はこの間ずっと物流のアウトソーシングを志向してきた。ゆえに荷主側では評価や改善、管理のノウハウまでが失われてしまったケースが多い。今では荷主より物流システムを構築・運営する能力が優れた物流事業者が存在するようになってきている。
 物流コスト、特に輸配送コストは毎年上昇の傾向にあり、その対応策の一つそして、共同物流サービスの要求は今後さらに増大すると思われる。しかし現状ではこのようなサービスを提供できる物流事業者は決して多くない。"能力がある"ことと、"サービスを提供できる"ことは異なる。物流事業者は、事業企画力やマーケティング力の向上を図る必要がある。また機能別ではなく、包括的な業務受託・オペレーションなどのノウハウ蓄積が求められている。さらに、荷主に"共同化"を意識させないほど提供するサービスの付加価値を大きく見せられれば、より円滑な運営が可能になると考えられる。
 共同配送の取組みには、残念ながら継続的な成功例は多くない。とくに荷主が主導する共同物流の仕組みは、企業広報的な側面からプレス発表される事が多いが、ことごとく短命に終わっているのが実態である。一方、物流事業者が主導する共同物流は、彼らが"黒子"に徹する傾向にあるため、その良さが広く荷主に伝わる状況にはまだ至っていない。しかしながら、これからの共同物流の主役は荷主から物流事業者に移っていくことになると筆者は考えている。

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ