第3回 ミニマムコストを実現する購買・調達改革

高い目標設定が購買・調達部門の躍進を可能にする

短期的な効果と長期的な効果! コストダウンは継続するもの

製品の調達コストダウンの対象には、既存品と新製品の2種類がある。近年は、新製品のコストダウンが重視されるようになってきている。「既存品の調達コストダウンでは、単年度の目標に取組みつつも、翌年度以降も継続するコストダウンへの対応が求められます。同一のバイヤーが手配業務とコストダウン業務を手がける場合、日々の手配業務に追われコストダウンにじっくり取組むのは難しいのです。そのため、手配とコストダウンは異なる担当者を置くよう勧めています。新製品コストダウンに向けては、開発購買といわれる取組みの重要性が高まっています。開発購買には、既存品コストダウンとはさらに異なるスキルが求められるため、既存品バイヤーとは異なる技術系の担当を置くことを勧める場合もあります」特に、開発購買実践のための体制整備で、技術系人材の確保を図るとなると、一部門長では対処がしにくいケースが多い。加賀美は購買・調達部門革新のポイントは、経営層にあると強調する。「経営側が、購買・調達部門の置かれた状況や求められるスキルの難度をよく理解しなければなりません。トップダウンによる“実現する”という強い意志と、難度の高い戦略を実行するために必要な体制整備することは、経営サイドで行動を起こしていただく必要があります。成功は、経営陣によって決まるといっても過言ではありません」トップが購買・調達部門の役割を認識しつつ、革新を進めることによって、開発・製造・営業など他業務のプロセスそのものを大きく変える開発購買への道筋も見えてくるのだ。

高い目標を実現しなければならないとき、組織は大きく動く

危機的状況に陥ったとき、V字回復を実現する企業がある。その背景には、取組みに対する真剣度と、目標の高さがあると加賀美は分析する。「このままでは倒産してしまうという強い危機感が、抜本的改革への原動力になります」加賀美が手がけた事例では、赤字部門が黒字に転換、現在では優良事業に成長したものもある。「その企業では、官需部門と民需部門があり、10年以上民需部門の赤字を官需部門の黒字で補う形で経営が成り立っていました。しかし、官需の予算削減の流れを受け、官需部門の利益が低下したため、民需部門の赤字が目立つようになってしまいました。そのため、民需部門の大幅な革新がスタートしました」経営陣は、3年で黒字に転換できなければ、民需部門からは撤退すると決定した。「これは購買・調達部門に留まらない、事業全体での取組みでしたが、経営陣が購買・調達部門革新を含め進捗を確認し、策定した改善案をすぐに業務に反映したことが大きく影響しました。結果、この企業では2年で黒字化を達成。その後も活動を継続されて成果も拡大し、今では官需部門を追い抜いて稼ぎ頭の事業となって頑張っています」

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バイヤーの信頼を勝ち得る! 現実的な提案と行動力

しかし、実際に、どこから着手すればいいのだろうか? と、途方に暮れているクライアントは多い。効率的に調達コストダウンを進めるには、コストダウン余地が大きなところから手がけるのが常道だが、それにはデータが整理されていなければならない。同一製品、類似製品を比較することは、初期段階で行う分析であるが、企業内では情報の整理が不十分であることが多い。「情報の整理は、簡単なようで難しいのです。これは間接材の例ですが、ボールペンひとつ取っても、購入実績データには、通称・製品名・製品番号と、ばらばらに記載されるため、全社で何をどの程度調達しているのかがすぐにはわかりません。従って、どこにコストダウンの余地があるのか、すぐに見つけることができないのです。直接材の場合、単一部門内では間接材のようなこと少ないですが、部門をまたがると似たような状況です」こうした情報整理・分析は、JMACが得意とする技術のひとつだ。またコンサルティングの現場では、経験豊かなベテランバイヤーから信頼を得られないと、革新は困難になる。実際的で、具体的な提案と手段、行動力が必要だ。「プロジェクトの初期段階ではクイックヒットプロジェクトとして、特定のモデル範囲に対して、実際にコストダウンのやり方を変えて効果を確認するプロセスを実践体験してもらいます。その際に、その部門にはどんな取組みが成功体験として有効か見極めることも重要です。このほかに、バイヤーとともにサプライヤーの現場へと赴き、現地でさまざまな改善策を提案することもあります」

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