第3回 ミニマムコストを実現する購買・調達改革

客観的評価でスキルレベルを“見える”化

業務に必要な能力を定義する 標準化の第一歩

バイヤーは、具体的にどのようなスキルを身につければよいのか? それを明確にするため、JMACでは調達スキル定義書も策定する。「バイヤーに必要な知識や能力の項目を明確にしたうえで、各項目別にスキルレベルの基準を設けます。この定義書では、バイヤーが自己診断によって自分の弱点をつかんでもらえるようにします」加賀美は、一企業内だけでなく、調達業務の分野そのものに基準が存在していない現状を大きな課題としてとらえている。「2007年からスタートした購買・調達資格認定制度では、調達業務への認知度を高めることも目的としています。日本での購買・調達技術の標準化を進めることで、経営陣や他部門に調達業務の幅の広さや難しさ、必要な人材レベルを認識して欲しい、もっと認めてもらいたいと思っています」資格制度で定義された人材要件が104項目にも及ぶというこの資格試験は、経験者であっても簡単には合格はできない。だが、加賀美のもとには「よく作ってくれた」という声も届いているという。長い間、みなが必要性を感じながらも、解決にむけて形にできなかった課題だったのだ。

購買・調達部門を的確に診断する! 5段階で評価

バイヤーであれば、誰でも“最適な調達”の実現を目指し、自信を持って行動しているものだと加賀美はいう。「また、そうした自信がなければ、務まらない業務です。しかし、その自負とは別に、経営側はバイヤーがいう“最適な調達”がどの程度まで実現できているのかを評価する手段をもっていなくてはなりません」JMACでは調達革新活動を展開していく際、コンサルティングの導入段階で調達革新診断を行っている。「この診断は、調達コスト戦略診断と調達インフラ診断の2つのパートから構成されています。調達コスト戦略診断では、実際の調達データに基づく調達履歴分析や調達先水準分析を行います。調達インフラ診断では、経営幹部・バイヤーへのインタビュー、帳票やシステム調査などの実地調査を行います。前者では、高いレベルのQCDと安定供給を実現するための比較的短期の調達戦略を検討します。後者では、その調達戦略を中期的にレベルアップするための仮題と施策を検討するのです」調達インフラ診断は、30の診断項目を各5段階で評価するが、すべてに高い評価を得られる企業は少ない。「はじめは、診断の結果レベル2でしたといっても、なかなか納得はしてもらえません。しかし、なぜそのレベルに認定したのか、何が不足しているのか事例をもって説明し、理解を深めてもらいます。最後には、調達業務について体系立った解説をしてもらったのは初めてだ、といっていただけることもあります」

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調達インフラの整備から革新が始まる

より高いレベルのQCDを実現するには、調達戦略のレベルアップが必須だ。調達戦略のレベルアップは、個々のバイヤー任せでは実現することは難しく、組織的なアプローチを図ることが重要である。調達インフラとは、その組織的アプローチのための切り口である。「JMACでは、調達インフラを6つの視点から考えます。調達企画機能の強化という視点を中心に、調達組織・体制の整備、マネジメントプロセスの徹底、調達プロセスの標準化、調達情報管理の仕組み構築、調達スキル向上の仕組み構築です。この調達インフラは、企業内で購買・調達部門が複数ある場合でも、すべてに共通して適用されるべきものです」たとえば、ある企業では拠点ごとに購買・調達部門を分散設置している。購買・調達部門を集中した方がよいか、分散させた方がよいかは企業によって異なるが、そこで用いる手法は標準化されているべきである。「標準化とは、後戻りしないための歯止めであり、その一方でよりよいプロセスを構築するためには新たな試みも行います。この繰り返しで、購買・調達部門全体のレベルがベースアップし、体質が強化するのです」調達インフラは、体質強化の切り口ともいえる。

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