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第99回 「販売組織のあり方」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

今回は、販売組織のあり方を取り上げてみたいと思います。
販売部門に限らず、組織は決して定型的なものではなく、企業や事業の特性やそれまでの発展経緯や戦略方向などにより異なり、企業でうまくいったい組織改革が、他の企業でもうまくいくとは限りません。組織問題は、一般論では解決しきれない問題です。
販売組織は、販売戦略と連動したものでなければなりません。これから、進んでいく方向を明確にした上で、これに対応した組織を考えることが必要です。

組織づくりの進め方手順

販売組織の改革が必要になったとき、以下の手順で進めていきます。

ステップ1.幹部間の意見交換を通じた組織イメージの意思統一
ステップ2.必要機能の細部検討と組織大綱づくり
ステップ3.組織図・分掌規程・協業規定の設定
ステップ4.定着化

上記ステップのうち、特にステップ1が重要です。
組織改革が課題に上がったとき、幹部同志が時間をかけフランクに話し合うことが最も大切です。このステップでは、環境変化に対応していくため組織構造はどうあるべきかの方針を作ることを目標とします。そのため、当面の問題点を共有化するとともに、近い将来を見越して発生が想定される問題点を確認することを行います。
また、関係事業との関連も考慮して、そのような機能を強化する必要があるのかを明確にします。その上で、それぞれの機能のあり方はどうあるべきか、それぞれの機能の関係はどうあるべきかを整理します。
例えば、組織イメージづくりの段階では「事業の今後のあるべき方向づけをするには、どのような機能が必要か」「受注・生産・出荷の流れを円滑にするには、どんな機能が必要か」「それぞれの機能の本来の使命は何か」「望ましい勢力配分はどうなるか」などについて意見交換を行います。 また、組織構想づくりは、「本来の使命を果たすためには、どんな活動が必要か」「それぞれの機能間でどんな連携をすべきか」「それぞれの機能にどんな人が何名ひつようか」などについて討議します。

ステップ2の必要機能の細部検討は部分ごとに検討会を作って行うようにします。
組織の大綱づくりに際しては、人材棚卸により現有能力を十分考慮して行います。多くの企業で、組織改革=組織図の作成にすぐ取り組んでいますが、組織図による表現は最後のステップです。
課単位以上の必要機能は、幹部間の検討により決めます。そして課内の個々の仕事のあり方とその分担を検討するのは、メンバーを加えた形で行うようにします。それにより、実施移行後のメンバーひとりひとりのモチベーションが高まります。

個々人のスキル・性格など生の情報が正しく棚卸できているか

組織運営の原動力となる人材を効率的に活用するためには、押さえておくべきポイントがいくつかあります。

① インフォーマルな人脈ネットワークを形成できているかどうかが人材活用のカギ
幹部として、日頃から色々な機会を通じ、社員一人一人の考えを確認し、また、幹部の想いを伝えながら良好な関係作りを構築しておくことが組織運営のベースとなります。

② マネジャーとしての適性とスペシャリストとしての適性を噛み分けた管理職の選択を誤ってはいけない
市場が複雑化してくると、過去の経験に基づくマネジメントでは、メンバーを望ましい方向にリードしていくことは困難になってきます。その点から、マネジャー候補人材の適性を正しく把握することが組織運営の原動力となります。良き営業マン≒良き営業マネジャーを意識しながらベターな配置を行うことです。

③ 人のための仕事は作っても人のための組織は作るな
ポスト不足になってくると、横とのバランスを考えた、必要とは思えない部署や立場を設定するような組織改革は避けなければなりません。重要なことは、個々人毎にやってもらうべき仕事を明確にすることです。

④ 過去化した功労者には禄で報いよ、職位で報いるな
長年、営業の第一線で業績を上げ、大きな貢献をしてきた人には、特別賞のような形で報いることです。 過去の成功例を引きずり、やるべき仕事を曖昧にしたまま職位を与えることは、組織に混乱を生じます。

⑤ 若手起用は若手を雑用化させ、若年寄化させることではない
組織のリーダーに若手を起用することは、組織を活性化する上でも重要なことです。しかし、その狙いは、今までのやり方に固執せず、新しいチャレンジを行うエネルギーに期待する、ということであり、先輩マネジャーの雑用係を果たし、古いやり方をただ踏襲しているようでは、その狙いは崩れてしまいます。

⑥ 人に仕事がついていくことを予防せよ
優秀な営業マンや営業マネジャーは、実績のある有力顧客キーパースンと強い関係づくりができているケースが多いものです。しかし、その関係性が会社対会社のものにならず、個人対個人の関係性に留まってしまっては、会社としての財産づくりになりません。関係性を構築したことは称賛されるべきことですが、顧客の資産化を図ることが重要です。

プロジェクト組織のあり方

プロジェクト組織とは、複数機能の密接な協業を必要とするような特定テーマの遂行のため、必要な機能を持つメンバーで編成された、テーマ目的の達成時期を明示したテーマ単位の組織です。
プロジェクト組織の特性を以下に示します。

① 与えられたテーマのPLAN-DO-CHECK-ACTION-FOllOWまでの完全サイクルを遂行する意味で委員会と異なる
② 日常的・定型的な業務遂行の組織ではない
③ 組織の目的が達成された時点でチームは解散する
④ 各種の専門家のチームであり、メンバーはリーダーを除き同格で参画する
⑤ 機能組織の構成員が機能業務を持ちながらプロジェクトのマンバーになることが多い

プロジェクト組織には長所と短所があり、その点を十分踏まえて運営を行うことが重要です。
まず、長所をあげると、

① 部門中心の考え方から目的中心の考え方を基本にした仕組みで、新しいテーマへチャレンジしやすくなる。
② メンバーが相互に他の機能のやり方、考え方の理解が進み、ものをみる視点が広がる。
③ 小グループで行うため、意見調整がやりやすく、まとまりやすくなる。
④ テーマ、目的が明確であるため、メンバーがとるべき行動の方向づけがやりやすくなる。
⑤ メンバーが同格で参画することから、言いたいことが言え議論が活発になりやすい。
⑥ テーマが限定され、目的が明確であるため、メンバーの位置づけ、役割、期待がよりはっきりさせられる。
⑦ メンバーは、会社を代表して選ばれたという意識が強く、それにより責任感を持ち高い集団意識が得られる。

一方で、以下のような短所もあります。

① 機能組織の日常業務に追われてプロジェクトチームの活動がおろそかになる。
② スペシャリストであるスタッフが中心になり、ラインとの関係が薄れがちになる。
③ この組織部門の利益代表的なメンバー発言がでる。
④ リーダーと機能組織との力関係により機能組織かプロジェクト組織かいずれかに偏る恐れがある。
⑤ 日常業務が多忙になるとプロジェクト活動が立ち消えになりやすい。
⑥ プロジェクトが多すぎると打ち合わせに追われ、当初の目的を忘れ、流れに任せてしまう危険性がある。
⑦ メンバーがプロジェクト業績、機能組織業績の兼ね合いに気を取られる

創造型企業の組織構造へ転換しよう

最終意思決定者であるトップとマーケットの最前線で活動を行っている第一線の距離を近づけ、環境変化に即応した意思決定ができるように組織構造を変革しなければなりません。
顧客と良好な関係性を構築できた企業がマーケットを制するといえます。顧客から企業やブランド、商品に対する認知・信頼・安心・将来に向けた期待というロイヤリティを完全に獲得した企業が生き残るのです。そのため、マーケットの第一線で仕事をしている営業担当の機能を原点から見直すことが重要です。
「フィールド第一優先」「収集した情報の評価眼」「ゼロベース思考」「モチベーション上手」「遊び感覚」を持ったフィールドリーダーを創出し続ける組織体制へのチャレンジが求められます。

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次回は、いよいよ最終回です。経営幹部二つの仕事についてお話します。

(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)

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