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第95回 「マーケティング発想の風土づくり(2) ~創造力を発揮する~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

想いと知恵の見える化を

企業は人なりといわれるように、優れた人財がヒット商品を生みだし、ヒット商品は企業を発展させます。

経営トップの仕事の中で最も重要なことは、第一線の"想い""知恵"を最大限に活かし、"信頼"を基盤とするマネジメントを実践することにより、職場や仕事を個人にとっても"意味ある存在"とすることです。
このプロセスにおいても、トップの果たすべき役割は大きいのです。例えば、勤務時間の15%程度は、ルーチン業務から離れて、自分の興味のある分野に時間を使ってもよいとするルールづくりや、上司に許可を得なくても自由に新製品やサービスの開発を進める、あるいは、アイデアテーマの中身が認められれば、本格的な研究を行うための予算を計上してもらえるなど様々な仕掛けを検討・導入することなど、トップが率先してメッセージを出すことで職場や仕事を"意味ある存在"にすることができます。

有機的なチームにするためには、メンバーが、チームの仕事達成を共通の目標にできないと参加する意味はなくなります。また、チームとしての目標が理解できても、個人として自分の目標を持っていないと力が発揮できません。
そのため、チームと個人の目標を共有化するまで何度でも議論し、お互いの想いをぶつけ合うことが重要です。往々にして表面的な承認によりチームをスタートさせるよりも、意見のぶつかり合いのプロセスを踏んだチームの方がいい結果を生みます。

当然のことながら、多くの企業は、見えないが厚い部門の壁が存在し、その中から部門代表的に選抜されたメンバーによるチーム編成では、相互に不信感が強く、腹を割った議論ができないケースが多いのです。原因の一つは、部門責任者が、自部署の立場からの発言から抜けきれずにいることです。
市場の変化に対応した商品開発という目的達成に本当に必要な能力を持っているメンバーによるチームにすることが重要です。

経営者と管理職は、機能分担による分業から協業に関する責任を果たし、最適な人選と、選抜メンバーが自由に発言できる雰囲気づくりと、そこで決めたことを商品づくり政策に反映させるという宣言が必要です。
このような条件が整った時に、チームが機能し始めるのです。

共通の目標として確認ができたら、一人ひとりが持つ得意技ともいうべき力を最大限発揮できるような仕掛けづくりが大切です。目標達成活動を通し、同じタイミングでメンバーそれぞれが分担した仕事を全力で行い、汗をかくことにより組織としての独自能力を獲得できるのです。当然のことながら、最初は相互不信から色々な障害が発生するでしょう。
しかし、その障害から逃げずに、お互いの意見をぶつけ合いながらひとつひとつ障害を克服していくやり取りを通じ、相互の信頼感が生まれるのです。チームとしての成果は、構成員一人ひとりが異なる体験や考え方などを持つほど新しい創造が可能となります。

以上の取組みにより、職場における"自信と誇り"を回復し、業績の向上と"職場の活性化 "を同時達成することができるのです。

これからは、競争や戦略論でなく、「気づき」、「分かち合い」「供創(共に創造する)」といった目標を定めた経営が主体になります。「企業=作る人、顧客=使う人」という従来の発想を壊すことで、新商品のヒントが生まれるのです。
そして、従来の枠組みを捨てる勇気が新しいものを"創造する"のです。

「らしさ」の湯布院「ならしか」のはとバス

今や全国的に知られるようになった湯布院は、かつて、大分県の中でも交通の便が悪く、外に向け売り物になるようなものがないひなびた田舎の温泉地と考えられていました。
そのような状態から出発し、役場と住民が一体となって、どのような街をつくるかについて絶え間ない対話を通じ、プロセスを町民に広く共有化し、議論を尽くしました。
その取組みにおいて、湯布院で老舗旅館を経営していた二人のリーダーが大きく存在感を発揮しました。

この二人のリーダーは、学習、体験、話し合い、お酒を飲む場など色々な機会を作り、住民とふれあい、語り合いながらこれからの自分たちの街のあり方について意識合わせを行いました。そのプロセスを通じ、将来の湯布院のビジョン共有化が図られたのです。例えば、行政と観光関係者が参加して、各旅館の視察や食べ歩きを行ないました。それを通じ、各旅館関係者も、各旅館の施設やお客様対応の仕方、あるいは料理の特徴を相互理解することができ、旅館同士が連携してそれぞれの特徴を出しながら、湯布院全体でお客様を迎えるという方向に収斂していったのです。

その結果、「里山農村風景」、「ゆったりした温泉設備」「土地産物を使った食」など「湯布院らしさ」をキーワードに、ゆとりと古くていいものへの郷愁の流れを先取りし、湯布院の価値を具体化し、プレミアム観光市場の創造を図ったのです。
「ゆふいん音楽祭」や「牛喰い絶叫大会」「湯布院映画祭」などのイベントで県内外から多くの観光客が訪れ、湯布院の知名度は今や全国レベルにあります。

また、はとバスは、 1948年に発足し、高度成長期に乗り、深く考えていない企画でも日本各地や海外から多くの観光客が利用してくれました。
しかし、旅行行動パターンの変化により、団体旅行からファミリー、小グループ、個人旅行などへユーザー嗜好の変化が起こり、はとバスに乗るのはかっこ悪いという風潮さえ生まれ、ビジネス市場が縮小しました。しかし、そのような市場の変化を冷静に評価し、事業の再興を目指し、幹部と現場が一体となり、徹底したお客様第一主義の実践に取組んだのです。

例えば、「お帰り箱」システムという仕組みを導入し、バスガイドとドライバーに仕事終了後、顧客クレームを記入させ提出を義務化しました。そこに記入された内容とお客様から投稿されたご意見はがきを連動させ、社長が所轄部長責任での実行計画を指示し、具体的な内容について自ら顧客に返答しました。
また、顧客の声をどう活かすかに力点を置き、様々な取組みを導入していきました。女性の相席は女性にする、また、バス1台に約8000万円をかけ、前の席が後ろより低くどこに座っても景色が良く見える「はとまるくん」と呼ぶバスを導入するなど、きめ細かく要望への対応をしました。さらに、管理職に対しては自腹で月一回はとバス乗車を義務付けするなども行いました。
こういった様々な取組みを通じ、はとバスならできる、はとバスしかできない『ならしか』のブランド戦略を推進していきました。それにより、若い女性層など新しい顧客層の開拓につなげたのです。

従来の枠組みを捨て、会社、地域が一体となったこれら"創造"の取組みからもわかるように、創造力は、多様な経験をした人と人が「人を変え」「時を変え」「場所を変え」ぶつかり合いながら発揮されるものではないでしょうか。

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