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第93回 「新規販路開拓のポイント」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

販路開拓―これは業種・業態・規模を問わず、企業にとって常にやり続けなければならない重要課題の一つです。
どのような企業でも、今の取引先が5年後、10年後も、変化なくそのまま生き残っている保証はありません。
一般的に20~30%の取引先は入れ替わります。そのうえ、先行き不透明な時代になり、ますます現状変化要因が高まってきています。部品メーカーの中には、受注量が前年に比べ3割減や半減というようなケースさえ出てきています。このような売上減や取引先減少リスク増大に対する解決施策の一つとして販路開拓に取り組む企業が増えています。

「商品づくり」、「顧客づくり」、「売り方づくり」を同時推進せよ

しかし、販路開拓の実態を見ると、その手段はテストトライアル組織による取り組み、アンテナショップなど直営店、ネット販売チャネルづくり、金融機関チャネルなどによるマッチング、セミナー・展示会などによる顧客開拓、テレマーケティング、営業代行業者の活用など種々様々です。
多くの企業が、こうした手段を使って販路開拓にチャレンジしていますが、その大半はあまりうまくいっていないのが実情です。

理由は、目先のコト(いかに訴求ターゲットと接点を持つか)に注力するあまり、大きな構想を描かないまま進めていることにあるようです。販路開拓には、「商品づくり」「顧客づくり」「売り方づくり」3つの要素を連動させて行うことが重要です(下図)。

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「商品づくり」というと、現在のように需要の大幅な拡大が見通せない状況下で、そのような悠長なことは言ってはいられないと思う方もいるでしょうが、「商品づくり」の本質は、自社商品(サービス)の強みは何か、何を「売り」に訴求していけばよいのかを再認識することです。代表的な例が、エスエス製薬の「ハイチオールC」です。

ハイチオールCは、当初中高年の男性をメインターゲットに、二日酔いに効く薬として発売されました。その狙いどおり、商品の売れ行きは好調に推移しましたが、新たな問題も出てきました。
中高年層をメインターゲットにしている限り、それ以上の需要の拡大は難しいということでした。しかし、市場を細かく調べてみると、意外なことがわかったのです。「しみ・そばかすに効く」ということで多くの女性に飲まれていたのです。主成分L-システインは肝臓に対する解毒効果だけでなく、しみ・そばかすのもとになるメラニンの生成を抑える効果もあったのです。
そこで、同社は訴求ターゲットを従来の中高年男性から女性層にシフトし、テレビCMやパッケージも女性うけするものに変えました。更に、売り場も、従来の薬局・薬店、ドラッグストアに加え、女性が頻繁に行く化粧品店など新たな売り場を開拓したのです。

要するに、ハイチオールCという商品そのものは基本的に変えずに、その特徴(強み)の訴求ポイントを"二日酔い"から"しみ・そばかす"に捉え直したことによって、新たな売り方(テレビCM、パッケージなど)と販売チャネル(化粧品店など)を切り開くことができたのです。折からの"美白ブーム"に乗ってハイチオールCは、一躍人気商品となり、現在では類似商品が数社から発売されるほど市場全体の拡大につながったのです。

自社の強みを生かせるチャネルにアプローチせよ

このハイチオールCのケースから言えることは、まず自社商品の強みを認識し、次にそれが生かせるチャネルを見つけることです。これが販路開拓を成功に導く定石です。

例えば、大手メーカーにOEM供給している企業(A社)が、脱下請けを狙って斬新で個性的な商品(消費財)を開発したとしましょう。
この場合、最初にどのルートにアプローチをかければよいのでしょうか。量販店や百貨店がよいのか、こだわり商品の品添えの多い東急ハンズなどのショップか、あるいは直接顧客に訴求するネットを利用すべきか・・・どのルートが最も自社商品の価値を伝えられるか掘り下げることが重要です。

このプロセスは、「イノベーター」(冒険心にあふれ新しいものを進んで買う人たち)や「アーリーアダプター」(流行に敏感で自ら情報収集を行い判断する人たち)と言われる人たちは、世の中にあまり知られていない"ニッチ商品やサービス"に興味を持っているということ、そしてそのニーズを満たすチャネルはどこなのかを見つけることです。
チャネルの先には、そこを贔屓(ひいき)にする顧客が存在し、その人たちの嗜好性と自社商品・サービスの適合性を判断して行えば、販路開拓の成功率は高まるのです。

これに対し、仮に、東北地方だけで干物の生産販売を行っている企業が全国区への仕出したいと言うならば、人手とコストのことを考えると、まずはeコマースで自社ブランド(干物)を売り、そこで実績とノウハウを積んだ上で、首都圏の百貨店などに働きかけるというやり方が想定されます。
ただし、その際、百貨店のバイヤーに「この干物は、おいしいですね。他ではちょっと味わえない」と評価してもらわなければ商談はまとまりません。たとえ有力者の紹介を通じて食い込もうとしても、やはり何らかの「強み」や「優位性」がなければ難しいのです。

更に、もう一つ販路開拓で重要なポイントは、社内の「営業体制」を整備することです。
ここでは、仮に豆乳だけを製造している企業(B社)のケースを取り上げて説明しましょう。

A社は、現在量販店チャネルを中心に豆乳を販売していて、年商は5億円です。これを3年後に8億円に拡大しようと計画しています。
しかし、豆乳だけでは達成が難しいので、関連商品として新たに豆乳で作ったお菓子と豆乳を原料とした化粧品(ローションなど)の市場導入を図りたいと考えています。
この時、A社の営業マンが量販店の飲料カテゴリーバイヤーを通じて豆乳を取引していたとすると、そのチャネルから菓子カテゴリーバイヤーを紹介してもらい商談するのが一番やりやすい方法でしょう。しかし、営業マンに"新商品"を含め、導入活動を任せると、多くの場合目に見える商品の違いがない限り、既存商品(豆乳)の販売を優先します。

一般的に、このような場合は新商品展開の担当者を分けて営業活動したほうが導入成果は大きいと言えます。更に難しいのは、このケースだと豆乳を原料に作った化粧品の販路開拓です。
化粧品の場合、それまでの既存チャネル上の流通ルートと異なり、市場との接点がないからです。このような状況で考えられる手立ては、この方面に明るい人材を採用して市場への浸透を図るか、あるいは直接ターゲットするユーザー層にネットなどを通じ働きかけることでしょう。
いずれにせよ、具体的な成果が表れるまで時間がかかりことは明らかです。

既存商品の追加商品のような位置づけで商品を訴求するのは極めて難しいことを十分踏まえた上で、導入のネックを掘り下げ、粘り強く対策を立てやり続けることが重要です。

(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)

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