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第67回 「業績評価を革新する(4) ~評価モデルの活用~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

計画段階で必要な2つの評価方針

前回お話ししたように、実績結果に対する評価方針が政策的・意図的に事前に明示されていれば、プランニング段階でその挑戦目標への達成確率を考慮しながら、目標選択が行なえます。 しかも、目標選択結果が、政策的・意図的に用意されている目標チャレンジ評点で、「低いばかりが能ではない」とか、「低すぎると、実績でいくら頑張っても元がとれない」といったことがわかる仕組みになっていれば、申し分ありません。

つまり、課長氏が最初に意図した「プランニング段階で、プランニングそのものを好ましい方向にコントロールする仕組み」とは、プランニングそのものの政策的・意図的評価だけでは片手落ちで、実績結果の政策的・意図的評価がプランニング段階で行なえるように、配慮されなければならないのです。 この2つの「好ましさ」を表す政策的・意図的評価を柱としてはじめて、従来方式からみれば新しい革新的業績評価と管理への道が拓けるのです。

評価モデルの使い方・活かし方

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ここまで整理すると、管理課長氏は、早速実績結果への評価係数の導入にとりかかりました。 まず、100%の達成率を1.0と考えます。 しかし、現実には過去の経験からして、誤差率を±10%考えて、1.0ゾーンは90~109%とします。 次に110%以上については、それなりの努力と頑張りを買って、10%の幅ごとに0.1ずつ加算します。 しかし、達成率は高ければ高いほどよい、とは言い切れません。 好ましいけれども、逆に計画変更ロスが生じるケースも考えられます。 したがって、150%以上の達成率をもって、加算打切り方式をとるのです。

逆に、達成率に満たない場合は、どうすればよいのでしょうか。 要するに90%未満はやはり好ましくない。 その好ましくない分だけ、ペナルティを加算する必要があります。 たとえば、80~89%は0.6、70~79%だと0.4、60~69%だと0.2というように、シビアなペナルティをとり入れるのです。

このように、好ましい程度、好ましくない程度に応じて、ボーナス点をつけたり、ペナルティを反映したりして作成されたのが、表2です。 では、この表2を使って、早速いくつかのケースを試算してみましょう。 A営業所長の業績は、目標チャレンジ率は前年比167%、達成率が80%でした。
これは、

(1) 目標チャレンジ評点 ・・・ 1.6  (表1から)
(2) 達成率評点 ・・・ 0.6  (表2から)
(3) 業績評価(貢献度) ・・・ (1)×(2)×100=96%

となり、必ずしもいい貢献をしたとは言い切れません。 頑張り不足4%ということになります。 この場合、達成率がもっと悪くて75%だとすると、表1および表2から(1.6×0.4×100=64%)となり、とんでもないということになります。 この評価結果は、理由のいかんにかかわらず、納得がいきます。 逆に、達成率が95%だったとします。この場合は、表1、表2から(1.6×1.0×100=160)で、よくやったと評価されます。 それも、通常の達成率100%で御苦労といった程度のものではありません。 並みの努力では不可能と判断された、高い目標へのチャレンジを行ない、なおかつ、それを100%達成したのですから、並み以上の評価、つまり160%に相当するというのです。 これも納得がいきます。

このように、実数%以上に、ある場合はキビシク、ある場合は過大に評価結果が示されるのです。 これは、企業が好ましいと判断した方向への協力度と達成度を、政策的・意図的に評価しようというものですから、当然の結果と言うほかありません。 A営業所長の場合では、いくら高い目標へのチャレンジで協力意欲を示そうとも(それはそれで評価されるのですが)、達成度が80%以下だと、企業の戦略目標を狂わせることになります。 したがって、大幅な減点となります。

これは、現実の社会で当然なのです。 これに対して、A営業所長が当初考えていた、自らの目標、対前年比130%の場合を検討してみましょう。 この場合、表1から目標チャレンジ評点は1.2と低くなります。 これに対して、達成率100%ならば、表2から1.0が得られ(1.2×1.0×100=120)となり、それ相応の評価が認められることになります。 これも、実務常識からすれば当然でしょう。

しかしながら、この場合、もし達成率に誤算があり、85%程度で終わったとしたら、どうなるのでしょう。 85%の達成率評点は0.6ですから(1.2×0.6×100=72)となり、その責任が問題になってきます。 つまり、目標チャレンジ率が130%程度であれば、達成率は90%以上でないと、その業績は評価されないという伏線が意図的に組み込まれていることがわかります。目標チャレンジを最高の200%にとってみましょう。前年比200%の達成は容易ではありません。 しかし、200%へのチャレンジ意欲が認められれば、それはそれなりに高評価されるべきでしょう。

表1では評点は2.5です。 A営業所の実績からすると達成率は(80÷120=67%)となり、表2から0.2が得られます。 したがって、(2.5×0.2×100=50)ということになり、とんだ喰わせものということで大問題になるでしょう。 目標チャレンジ率200%の場合では、最低70%以上の達成確率が見込めない限り、元も子もなくなってしまうことがわかります。 このように、目標チャレンジ意欲の政策的評価のみにとどまらず、実績結果への政策的評価係数法の導入を行なうことにより、「プランニング段階でのプランニングそのものを、より好ましい方向にコントロールする仕組み」が生きてくるのです。

もし、あなたが事例会社のA営業所長であれば、計画段階でどのような作戦を立てますか。 机上でシミュレーションしてみると、「プランニング段階でのプランニングのコントロール」の意図していることが何であるか、実感として理解できるのではないかと思われます。

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