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第51回 「新規市場参入企業のマーケティング戦略(2) ~先発企業が非常に強い場合~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

前回、新規市場参入企業の市場進出パターンをご説明しました。では、先発企業の非常に強い市場に新規参入する場合、市場対策、流通対策はどうしたら良いでしょうか。

先発企業が非常に強い場合の市場対策とは

1.ブランド浸透の強弱による市場細分化
先発企業のブランド浸透の強弱に応じて、いくつかの市場を分類し、重点市場を選択して市場対策を立てます。 例えば、先発企業が大市場を押さえている場合は、市場におけるブランド浸透力は非常に大きいです。 したがって、新規市場参入企業は、ブランドの固まっていない市場か、ブランドにこだわりの少ない中小市場をターゲットに進出することになります。

2.地域を限定
先発企業のブランドが全国的に強い場合、新規市場参入企業としては、他の製品において自社ブランドの強い地域などをターゲットに進出し、そこで核拠点をつくり、順次他地域に展開を図ることが有効です。 ある領域で、先発企業が独占的なシェアを獲得している場合、正面攻撃しても一夕一朝には崩せません。 このようなケースでとるべきマーケティング戦略の基本に置くのは、地域限定作戦です。
まず、自社の強い地域、社名の浸透度や販売体制の強いところに絞るのです。 先発企業やトップシェア企業は、需要が大きい市場をターゲットにするのですが、先発企業が圧倒的に強い市場に参入しようとしても、顧客に自社ブランドのなじみが薄いだけに、膨大なプロモーション費用を投入する必要があり、また、先発企業のブランド・イメージが強烈なため、その効果は小さくなります。 そのため、自社ブランド認知度が高く、販売体制や流通浸透度の高い地域に焦点を当て、足固めをするのです。

3.隣接領域市場に焦点
同じ製品領域であったとしても、先発企業が押さえている市場をさけ、その隣接市場に進出するという打ち手です。例えば、家庭用市場が、先発企業ブランドの浸透度が高くて入りこめない場合。この場合は、例えば、業務用市場から進出する、新築市場よりもリフォーム市場から進出するなど、先発企業のブランド浸透度が低い市場をターゲットに対策を打ち、その市場で成果を上げてから、先発企業がメインとする市場の攻略を目指すのです。

4.シェアと市場対策
■40%シェアと市場対策
地域を細分化し、各地域のシェアを分析して先発企業のシェアが40%以上である地域はそこへの攻撃を避けます。 市場開拓の基本原則に「40%シェアの法則」があります。これは、 a:地域を細分化して、40%地域の確保を図る、b:他社が40%前後のシェアを持っている場合は、その地域の攻略を後回しにする、というものです。 フォルクスワーゲンのカナダ市場開拓の基本原則として有名で、経験に基づく成功原理として販売戦略の基本となっている考え方です。

■分散シェアと市場対策
地域を細分化し、各社のシェアが分散している場合、例えばA社20%、B社18%、C社10%、D社7%とシェア差が少ない時は、特定の強いブランド製品がないため、市場を攻略しやすいといえます。

先発企業が非常に強い場合の流通対策とは

1.流通拠点店の確立
先発ブランドが強く、これに応じて流通体制もかなり強力に編成されている場合は、重点拠点店を設定して、そこを中心に対策を立てるやり方が有効です。消費財(最寄品)について、その有効性は、次の通りです。
 ・10%の店で全体の30%強の販売、20%の店で50%を販売している
  →扱い店数が少なくても、相当のシェアが占められる ... 販売量の集中性、もしくは、パレートの法則
 ・ある店でトップ・ブランドとして扱われているものは、その店で3位のものと比べ、販売量が4倍になる。
  →扱い店数が少なくても、トップ・ブランドを獲得すると大きなシェアが獲得できる ... トップ効果性

この拠点店設定のステップは、以下のようになります。
 (1) 末端販売店のエリア内分布のうち、消費者の購買集中が最も高い部分を拠点エリアとして選択する。
 (2) その拠点エリア内で競合している販売店の中から、諸条件を考慮しながら拠点店を選択する。
 (3) 拠点店に対するトライアル販売の説得を行い、その店でトップ・ブランドの地位を確保する。
 (4) 拠点店におけるトップ・ブランドの地位が安定化し、消費者の自然購買状態が確立されるまで、そのエリア内でプロモーションを続ける。

調味料のケースを見てみましょう。
■調味料の例
大都市市場の大手チェーン店を中心に販売拠点を設定しました。この理由には、上記のような有効性の他、
 ・大手チェーン店は、無名ブランドについても育成力を持つ
 ・大手チェーン店は、企業と共同で拡販対策が立てられる
 ・古くなった商品を回収し、良品だけのメンテナンスがしやすい
などがあります。

次に、生産財の拠点設定の例をあげます。
■火災報知器の例
A社は、新規市場参入であるため大型物件の受注が少なく、この市場でブランド認知度も低い状態でした。 この市場の中心である設計事務所、大手建設会社の中から少数を対象に、あらゆるコネクションを使って関係強化を図り、受注→実績づくりを行い、拠点を築きました。 そして、この拠点に入居する企業の何割かを自社に紹介もらい、受注できる関係にまで発展させました。

2.先発と異なるルート編成
先発に対して更に有利なルート(段階を減らしたルートなど)を見つけ出して対処していくか、自社が持っている強い関連ルートを利用し対抗していくか、などが考えられます。 様々な業界で増えているケースとして、流通(店舗)を経由せず、インターネットを活用して、直接顧客に届けるような販売ルートがこれに当たります。

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