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第43回 「CS(Customer Satisfaction 顧客満足)の基本的考え方とこれからの方向①」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

企業の経営改革において「CS...」と言われて20年以上経過しました。上場クラスの会社では、CSの取組みをしていない会社はほとんどないといっても過言ではないと思います。この間、CSに取組んだ企業の問題点や課題を踏まえ以下の点から解説を加えてみたいと思います。

① これまでのCS活動の問題はどこにあるのか。
② なぜCSが必要なのか、これからのCSのポイントは何か。
③ CSを体質として企業の中に定着させるポイントは何か。

これまでのCS活動の問題点は?

① 売り手のロジックに立ったCS

多くのCS活動は、主要顧客を対象にアンケート調査やインタビューを行い、その結果として、「こういうことがニーズだな」と必ずしも顧客が望んでいないものを提供してしまう押しつけやお節介が目立つ取組みになっているのではないでしょうか。活動の起点が、素直に顧客の声を聞くことからではなく売り手の思いこみで進めてしまっているのです。

② CS精神が植え付けられず、形に囚われたCS

CS活動=アンケート調査というとらえ方が定着し、他社もやっているから一度やってみようと運動論に終始し、年1回の健康診断的なデータ比較をすればよいという考え方になっています。そのため、本来は、顧客の声を踏まえ改善指摘された点は腰を落ち着けた対応をしなければならないのに、単なる挨拶活動に化しているなど表面的な対応になっている企業が多いようです。また、改善活動に繋げている企業も、第一線の個別活動から脱却できず、部門連携による組織的な取り組みができていません。

③ 結果が見えない、業績に結びつかないCS

CS活動の狙いと全体像が明確に示されないまま、形骸化している取組みも多いのです。社員は成果の実感を得られず、重要顧客から指摘された不満に対しても、「それは、偏った見方だ」と真摯に向かず、やってもやらなくても同じだと思っています。CSの取組みに、より多くの時間が割かれ、目先の業績確保の足枷になっているというとらえ方をする社員も出て、行動レベルの変化につながらないのです。

なぜCSが必要なのか?

① CSこそがリピートオーダーを生む

顧客は、購入した商品やサービスに不満を持つと2度と購入せず離れていきます。大半の顧客は、自分の期待に対して提供された商品やサービスに満足した結果として継続的に購入してくれるのです。そのことにより、顧客が新しい顧客を創造してくれるのです。この論理は、マーケティングの基本的な考え方です。

② リピートの販売コストは5分の1

今のように競争が激しく需要が停滞している時代では、新規客を獲得するためのコストは莫大にかかります。一方、既存顧客に満足を与えリピート購入してもらうため対応強化を図ったとしても、新規客獲得に比べコストは少なく済み、結果として利益があがるのです。

③ CSは簡単に真似ができない差別化を生む

商品も価格も時間が経てば競合他社に追いつかれ、差がなくなります。目指す水準のCS向上は簡単ではありませんが、一度達成できると、他社は簡単には追いつけず、結果として差別化につながります。それにより業績向上につながるのです。

以上のように、なぜCSが必要なのかについてその思想が理解・共有されず、短絡的・短期的な視点でCS活動をしている企業が非常に多いのです。真のCS取組みを行うには、会社の体質を変えていかなければ行けないという視点が大事です。
そのため、トップ自らが、CSの主旨・目的をよく理解し、継続的に発信していかないと、企業体質にまで落とし込むことができないのです。

CSは、顧客の期待に対して提供された製品・サービスの質に対する評価結果

認知した製品・サービスの質は、競合他社と相対的に比較されます。そして、競合他社と自社の競争力の優劣も刻々と変化し、顧客の評価も時間が経てば変化します。顧客から相対的に評価をされていることを認識すべきです。
「今、お客さんが来ているからいいじゃないか、売上が伸びているからいいじゃないか」と安心していると、思わぬ競合先に、一気にお客さんを取られてしまいます。

例えば、音楽業界も、レコード盤からCDに置き換わりました。しかし、そのCDもWebダウンロードに市場をとられつつあります。顧客の期待そのものが常に変化をしているので、常に顧客が自社のどこに満足し、何に価値を感じているかを掴んでおくことが重要です。

CSの取組みの狙いと目標

CS取組みの狙いについて再度確認しておきたいと思います。CS活動の最終的な狙いは、企業の継続的な成長です。そのため、顧客ロイヤリティを高め、長期的利益確保を図ることが必要です。単なる顧客満足を目指すのではなく、顧客から「大変満足」評価を得ることを重視し、他社との差別化を図らなければならないのです。現状がよいからこのままでよいと捉えてしまうことは危険だということは、ほとんどの企業が認識しています。

しかし、現実は、多くの企業が現状を肯定してしまっています。いかに継続的に顧客満足度を向上し続けるかという視点がないと、CSは単なる健康診断的な取組みになってしまうのです。 プロセス成果目標として、不満を持つ顧客を最小化すること、顧客離脱ゼロ化することは最低限の目標です。リピート率向上、利益金額を増大していくためには、(顧客の期待以上の評価である)大変満足評価が得られる商品・サービスを提供していかないといけないのです。

例えば、ユニクロでスラックスを買った顧客がよかったと評価し、今度はTシャツを買ってみよう、次はダウンを買ってみようとリピート購入に繋がっていく状態を作ることです。既存顧客の満足度を高めることで、クチコミなどで新規客も増加していくのです。そのため、全ての部門が連動して取組んでいかなければなりません。店舗やコールセンターでは素晴らしい対応をしているが、配送ドライバーの対応が悪いという状態ではいけないのです。

CS活動は顧客と直接接点のある最前線部門スタッフだけでなく、全社が連携・一致団結して取り組んでいかなければならない活動なのです。(下図参照)

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