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第90回 中小企業の経営改革

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、中小企業の経営改革の留意点をお話しします。中小企業の強みや弱みを認識して、経営改革に取り組むことが必要です。

人・金・技術のギャップ認識

大企業も中小企業も、財務面、事業面、管理面の3面から、統合的に経営改革を進める点は変わりません。また、製造業やサービス業の特性を把握した上で経営改革に取り組むことも変わりません。しかし、中小企業の経営改革は、人・金・技術などの経営資源力が、大企業に比べて制約されることに留意して進めることが原則です。自社の経営資源を超えた経営改革は、失敗リスクを伴います。失敗リスクを想定し、それなりの覚悟をして実行する必要があるのです。

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上の図は、問題解決の4大ギャップについて、企業規模の比較で、問題解決ギャップがどう位置づけられるかを概念的に示したものです。問題解決ギャップとは、問題解決の際、現状の保有資源とあるべき保有資源との差を意味します。中小企業は、人・金・技術(問題解決技術)のギャップが大きいことを表しています。逆に大企業は、コミュニケーションと問題解決のアプローチ技術に、ギャップがあることを示しています。

中小企業の経営改革では、問題解決力人材が社内にいるかどうかを確認することが、特に大切です。経営改革人材と言い換えてもよいかと思いますが、経営改革の推進役は人なのです。問題解決力人材は、トップ、事業ライン、スタッフの人材(陣容)の力量をみる必要があります。経営改革の意欲・知識・スキルを有する人材が揃っているかどうかを評価するわけですが、三者が全て揃っている企業は多くはありません。しかし、次のように、人材面で工夫している企業もあります。

U社のトップは、事業ラインにおいては、ほぼ生え抜きの人材を育成・配置しています。一方本社スタッフは、社外役員や金融機関など外部人材を有効に活用しています。事業成長に応じて、人材ギャップに対応してきたとのことです。

また、Y社やO社のトップは、トップの右腕というべき人材をスタッフ部門の責任者に配置しています。両社のトップは、経営管理や財務の重要性を認識しており、後継者(息子など)の参謀役としての期待から、それ相当の人材を配置しているとのことです。

金銭面では、多くの中小企業が、自己資本が少なく金融機関からの借り入れに頼る間接金融に依存しているのが実態です。ある程度の財務力がないと、積極的な投資もかないません。そこで、キャッシュの蓄積や金融機関の信用力を見て、経営改革を進めることが大切です。

ちなみに、O社は技術力に優れた優良中小企業ですが、トップは財務力の重要性を認識しています。創業期から成長期にかけて経営危機に遭遇した時に、資金不足に肝を冷やした経験があるからです。同社のトップは、技術力と財務力を、経営の両輪と認識して経営に取り組んでいます。

技術面では、特色ある固有技術を持っている、中小企業は少なくありません。しかし、固有技術だけでなく、問題解決技術につながる管理技術を保有しているかどうかを見極めることが大切です。製造業であれば、品質管理や生産管理といった、管理技術に熱心かどうかを確認することです。管理技術によって利益を生み出す能力・強みがあれば、卓越したQCDを顧客に提供することが可能です。さらに、問題解決技術そのものを組織的に保有している企業は、ワンランク上の経営改革を目指すことができます。

問題解決力の自己認識

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上図は、問題解決力から見たマネジメント力を、対策推進レベルと問題認識レベルの2つの面から、自己診断するものです。JMACのMAPS(Management & Marketing Problem Solution System)と呼ばれる、問題解決実践研修プログラムの基本講義で使用します。企業が自社マネジメント力を自己診断する時に、よく活用されています。

図に示すように、問題解決のパターンが4つあります。「魅力型」の企業もありますが、中小企業は対策アイデア先行の「衝動型」の企業が多いようです。中小企業は、身軽な組織でもあり、解決スピードの速さを重視する、というプラス面があります。一方、問題を掘り下げてから対策を立案・実行する問題解決力が、体質的に不足している面もあります。また、中小企業では、「五里霧中型」の企業もあります。いずれにしても中小企業では、基礎的な問題解決力の訓練をしながら、経営改革を進めることが重要です。

なお、大企業では、問題認識は十分されているが対策推進の手が打たれない、「有言不実行型」が見受けられます。大企業病と言えますが、問題解決のスピードをもっと意識する必要があることを意味しています。

経営スタイルの認識

中小企業の経営スタイルを認識して、経営改革を進めることも欠かせません。たとえば、中小企業では、オーナー経営が少なくありません。オーナー経営は、意思決定のスピードが速く、経営改革もスピード感をもってやることがポイントです。

また、中小企業は同族経営の特徴もあります。親子経営、兄弟経営、娘婿経営など、様々な形態があります。人情と道理が絡んだ情と理の経営を意識して、経営改革を進めることもポイントの一つになるでしょう。

さらに、グローバル化や高度情報化の対応も、中小企業の経営スタイルに影響を与えています。すべて自社の経営資源で経営を行うスタイルには、限界があります。グローバル化や情報化に強みをもつ外部の経営資源ネットワークを活用する、経営スタイルへの変更も求められます。

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