お問い合わせ

第77回 事業評価のための管理会計

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、事業評価のための管理会計事例をご紹介します。 事業管理単位と利益概念の明確化・関連づけ、そして利益計画策定段階の意思決定がポイントとなります。

N社の管理会計上の課題とは

第75回でご紹介した食品メーカーN社は、5つの事業(SBU)を経営しています。業績評価会計である予算管理(部門別利益管理など)や原価管理は、緻密なシステムが運用されていました。しかし、事業評価会計については、事業の収益性評価による経営資源配分の意思決定の仕組みに問題がありました。

特に、中長期および短期の利益計画策定段階で、事業戦略や政策変更の意思決定に役立つ利益シミュレーションを迅速に行うシステムが望まれていました。その前提として、事業ユニット別損益、顧客別損益、エリア別損益など、多次元的に事業損益を見えるようにする事業管理が課題でした。この課題を解決するには、次の事項を推進することが必要でした。

1.経営トップ、マネージャーが事業評価会計に対する認識を深める
2.事業管理単位を明確にして体系化する
3.経営資源配分の意思決定に役立つ利益概念を明確にする
4.前出2の事業管理単位と、3の必要な利益概念の関連づけをする
5.上記1~5を踏まえて、戦略的な管理会計情報システムを導入する

事業管理単位の切り口と階層

事業管理単位を明確にして体系化することは、事業をどのような考え方で経営するかを決めることを意味します。 非常に重要なことです。 事業管理単位とは、「事業管理をする上で有効な意味のある単位」を指しますが、「戦略・政策の意思決定と実行評価をする単位」と言えるでしょう。

mg77_1.jpg

N社は、5つの戦略的商品事業(SBU)を本部組織としていますが、それぞれの事業管理単位を3つの切り口(スライシング)からブレークダウンして、階層(レイヤー)を決めました。

事業管理単位と利益概念の関連づけ

次にN社は、事業の経営資源配分の意思決定に役立つように、利益概念を明確にしました。 利益概念は標準原価の見直しが必要でしたが、事業損益(生販一体損益)を基本としました。 また、第75回にご紹介した、総原価を変動費と固定費に分解する直接原価計算による限界利益やマーケティング利益、貢献利益を導入しました。

mg77_2.jpg

その上で、上の表に示すように事業管理単位と利益概念を関連づけて、日常的な損益管理や戦略・政策変更の意思決定に活用するようにしました。

N社の成果と課題

N社は、その後事業評価会計を戦略会計として位置づけて、その情報システムを導入しました。 その結果、利益計画策定段階で、事業戦略や政策変更の意思決定に有効な利益シミュレーションを迅速に行うシステムを、手にすることができました。また、事業ユニット別損益、顧客別損益、エリア別損益など、多次元的に事業損益が見える事業管理も可能になりました。

経営トップやマネージャーは、次のような戦略や政策の変更に対する意思決定を迅速に行うために、管理会計情報を積極的に活用しました。

1.中長期戦略変更の意思決定
 ・各SBUにおけるBUミックスの戦略変更による、貢献利益の最適化
  ・・・ チャネル/顧客戦略、エリア戦略、商品戦略などの戦略変更
 ・限界利益に対する固定費の割合を見た操業度の中長期戦略(設備改廃・新設など)

2.短期政策変更の意思決定
 ・アイテム・ミックスの変更による、限界利益の最適化
 ・広告・販売促進のマーケティング・ミックスの変更による、マーケティング利益最適化
 ・短期操業度対策(生産・売上の増減対策)

N社は、管理会計によって、事業成長と収益改革の基盤となる経営管理システムを運用するようになりました。 しかし、新たな経営課題に対応するために、管理会計のレベルアップが求められています。 具体的には、管理会計における次のような課題です。

 ・環境経営に対応した環境会計の導入
 ・新商品開発力に関連した研究開発会計
 ・グループ/グローバル経営の進展に対応する、事業連結管理会計
 ・BI(ビジネス・インテリジェンス)分野のIT活用による、マーケティング管理会計
 ・国際会計基準の導入と管理会計システムとの整合    など

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ