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第63回 3つの改革視点 ~組織・システム・人~

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、BPRの改革構想設計について、お話しします。 特に、組織・システム・人の3改革視点から改革着眼点を抽出する発想が、ポイントとなります。

AS-ISとTO-BE

これら二つは、BPR業革やIT業界で、現状と改革後を対比する用語としてよく使用されます。 AS-IS(アズ・イズ)は現状の姿、TO-BE(ツー・ビー)はあるべき姿を意味します。 現状の姿を分析する技として、第60回でビジネス・プロセスの見える化、第62回で業務分析(業務の可視化)をご紹介しました。 あるべき姿の設計は改革構想を設計することですが、基本プロセスごとに次の点を明らかにすることが求められます。

・改革後の姿の想定
・改革目標の設定
・組織・システム・人の視点からの改革着眼点の想定

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上の表は、第60回でご紹介した、照明器具メーカーT社の法人顧客事業システムの改革構想をまとめたものです。 基本プロセスごとの改革後の姿と改革目標を、簡潔にまとめています。 その上で、改革後の姿と改革目標をどう実現するかについて、組織・システム・人の3視点から、改革着眼点を抽出しています。

改革目標の検討

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改革構想表に示す改革目標は、顧客満足と競争優位を実現する観点から検討されます。 基本プロセスごとの改革目標は、プロセスのQCDを示す指標がイメージされますが、顧客満足と競争優位の観点に基づき設定されているかどうかを確認する必要があります (上図参照)。 普段の営業活動において、顧客の声をよく聞き改革意識を持っておくこと、改革目標の競争水準を意識しておくことがポイントです。

組織・システム・人の3改革視点

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顧客志向のビジネス・プロセスに再構築するためには、目指す事業モデルを明確にしておくことが前提になりますが、上図に示す3つの改革視点から、改革構想を設計します。 事業モデルやビジネス・プロセスと言うと、情報システムによる改革ウエイトが高いイメージがありますが、決してそうではありません。

■組織面の改革とは
事業経営の機能分担の再編成を意味します。 製造業であれば、企画開発・購買・生産・営業・物流・メンテナンス・管理間接など、事業経営の機能分担の再編成によって、改革着眼点を抽出することです。 BPRは、行き過ぎた機能分担や多層化した組織を見直すことが特徴ですが、次のような改革着眼点があります。

1.細分化と統合化
  大きくなり過ぎた組織を、意味のある小回りの効く組織に細分化する。
  逆に、行き過ぎた組織の細分化を見直して統合する。

2.フラット化と多層化
  多層化した組織は、官僚的になり意思決定スピードが遅くなって、2~3階層位の組織にフラット化する。
  逆に、フラット組織を見直して有効な多層化を行う。

3.分散化と集中化
  類似機能を各拠点や各事業部に置くのか、それとも全社的に集中するのかを検討する。
  最近は、集中する方が効率的ということから、販売仕入事務の集中化、顧客コンタクトセンター(営業支援機能集約)、物流やサービスの拠点集約といった事例が多い。

4.インソーシングとアウトソーシング
  事業経営の機能・業務を自社で行うインソーシングか、または外部に委託するアウトソーシングかを検討する。自社事業にとってコア機能・業務かどうかの観点から、インソーシングとアウトソーシングを切り分けて機能編成をする着眼点である。

5.国内と海外
  製造業にある製造機能を海外で展開するか国内で行うかという視点であるが、事業戦略との関連で決まる色彩が濃い。

■システム面の改革とは
業務システムと情報システムの両面から、システム改革を行うことです。 業務システムの改革は、業務改善的なものも含めて、次のような改革着眼点があります。

1.非付加価値業務の排除
  ・過剰品質業務の排除・・・過剰なチェック・調整業務、結論の出ないだらだら会議
  ・異常停滞業務の排除・・・稟議書や企画書の承認業務、過剰な部品・仕掛品・製品の在庫
  ・過剰移動業務の排除・・・直行直帰、メールシステムの活用、TV会議の活用など

2.業務の改善・標準化とルールの明確化
  ・業務処理の改善と標準化
  ・業務処理の判断ルールの明確化

3.顧客起点からのプロセス設計
  ・顧客の意志決定プロセスや開発・生産・販売プロセスの明確化
  ・顧客の業務プロセスに関連づけて、自社の業務プロセスを再構築

4.顧客ニーズの違いに基づくパターン別プロセス設計
  ・顧客スピードニーズの例・・・標準スピードと特急スピードに分けた物流プロセス
  ・顧客仕様ニーズの例・・・標準、オプション、新規に分けた設計プロセス

5.同時並行化による業務プロセスの迅速化
  ・源流化・・・方針の共有化と計画段階での課題共有化
  ・整流化・・・業務の流れを整えて、業務処理のバラつきをなくす
  ・共有化・・・お互いの業務状況(ステイタス情報)の共有化

6.情報の共有化と活用による組織生産性の向上
  ・社内ノウハウの例・・・技術情報、業革の成功・失敗事例、提案企画書事例など
  ・マーケティング情報の例・・・顧客情報、商品情報、エリア情報など

情報システムの改革は、基幹系システムと情報系システムが対象となります。 基幹系システムは、事業経営を支える開発・購買・生産・販売・物流などの基幹業務を、対象とするシステムです。 一方、情報系システムは、メール・スケジュール・会議など日常業務の情報共有化から、技術情報・マーケティング情報の活用まで、情報系の領域が対象となるシステムです。

基幹系システムは、事業経営の諸機能を有効に連携させて、スピード・コスト・品質・生産性を改革する上で、欠かせない手段となっています。 また、事業展開のグローバル化は各社とも進めていますが、グローバルレベルでの基幹系システムの導入・活用は、各社の共通課題となっています。 基幹系システムは、情報システムありきでなく、事業戦略や業務システムの課題を明らかにして、有効なITを戦略的に活用することがポイントです。

情報系システムは、個人および組織の知的生産性を向上させる手段として欠かせません。 各社とも、類似のパッケージソフトを活用しています。 したがって、人の情報活用力が肝になることに留意してください。

■人の面の改革とは
一人ひとりの意識・行動・能力を改革することです。人の成長と活力を生み出す、BPRで言うエンパワーメントです。 事業システムは、「意識・行動・能力の変革」を伴った人が主体であることが必要です。

人の面からは、改革後の人材像を明確にして共有化することが、第一に求められます。 人は、自分を守る、変化リスクを回避する、成功体験にこだわるなど、変化に対して本能的に抵抗します。 それだけに、改革後の人材像を明確にして、一人ひとりの能力開発の方向を共有化することが、意識・行動・能力を改革する上で欠かせません。

一人ひとりの能力開発の方法は、各自の自己啓発から職場でのOJT、各種の実践研修など様々あります。 BPR業革の推進に関わった経験から、組織全体の課題解決力を向上することが重要と感じます。 課題解決力に優れた人材は必ずいますが、組織全体としては少なく、組織としての課題解決力が不足しているケースが見受けられます。

また、一人ひとりのやる気・勇気・根気を促し、組織としての改革風土を体質化するためには、トップやマネージャーの改革リーダーシップが必要です。 また、改革能力を重視する業績評価制度の導入も重要です。

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