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ROEの功罪 〜ROEという指標は、すべての社員にとって必要なのか?〜

2017年9月28日

竹村 薫
経営戦略センター センター長 シニア・コンサルタント

ROEが注目される背景

jmaeceyes_takemura_01p.png ここ数年で、ROE(Return On Equity:自己資本利益率)という経営指標への注目度が飛躍的に高まりました。ROEへの注目度は、2014年のいわゆる『伊藤レポート』(持続的成長への競争力とインセンティブ 〜企業と投資家の望ましい関係構築〜)、それと前後して示された『スチュワードシップ・コード』と『コーポレートガバナンス・コード』が契機となっています。この2つは投資家側と経営側がもっとコミュニケーションをとって、企業の持続的な成長につなげることを意図して示されたものです。その中で株主重視のための重要な経営指標としてROEが示されたのです。

 以降、ROEを重要視する企業が急速に増加しました。2105年度の生命保険協会の調査結果によれば、経営目標としてROEを重視する企業は63.6%に達するとのことです(2016年4月22日 日経ビジネス)。つまり、約3分の2の企業がROEを重視していることになります。

 さらに、『伊藤レポート』で「ROEは8%が最低限の目標値」として示されたことで、この水準をクリアするためのプレッシャーも高まってきています。事実、日本企業のROEの水準は向上してきています。

 2014年度の決算では、ROEの水準が3社に1社が10%を超えたとのことです(2015年5月25日 日本経済新聞)。また、2016年度には上場企業のROEは、8.3%で改善傾向にあるとのことです(2017年3月3日 日本経済新聞)。

ROEが株主にとって重要なワケ

 ここで、ROEという指標を確認しておきしょう。

 ROEは、

ROE = 当期純利益 ÷ 純資産

で計算されますが、この計算式が持っている意味が重要となってきます。

 まず、割り算となっている点に注目しましょう。つまり、分数で表せるので分母と分子があるということになります。このように分母・分子で示される経営指標は効率性や生産性を示すことが多いようです。分母が「インプット」、分子が「アウトプット」となり、ROEも純資産からどれだけ当期純利益を生み出したか、という効率性・生産性を示す指標になります。

 そして、この計算式がなぜ株主にとって重要となるのか、を考えることがポイントです。私はいつもこのように説明しています。

  ありえない想定ですが、「今日で会社を閉鎖する」と考えてみましょう。

  そのためには、まず貸借対照表にある「資産」を売却してお金にします。

  そして、そのお金で「負債」をすべて支払います。

  すると、理屈上は「純資産」の金額が残るはずです。

  これは、誰のものとなるでしょうか?

 当然、このお金は会社の所有者である株主のものとなります。

 つまり、純資産が株主のものならば、株主は自身のお金である純資産からどれだけのアウトプットである利益が生み出されたのか、当然気になるはずです。ROEは決して新しい経営指標ではありません。ですが、株主重視の流れを受けて、このような意味を持つ経営指標に急に関心が高まった、と言うことができるでしょう。

ROEを組織に展開するには

 戦略領域でのコンサルティングをしていると、ROEに関する話題はおのずと出てきます。そして、「どうすればROEを会社全体に浸透させることができるのか?」「ROEを最重要指標として手回しするためにはどうすればよいか?」「他社はどのように取り組んでいるのか?」という話題へと進んできます。

 ROEに限らず、経営全体を示すような大きな指標は、そのままでは組織へ浸透させることはできません。その指標を分解する必要があります。

 ここで有名なデュポン式をご紹介します(下図)。これはデュポンが提唱した、ROEを3つの構成要素に分解した計算式で、ROEを組織へ展開するための糸口を探ることができる興味深い計算式です。

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 計算式で示すとこのようになるのですが、それでも直感的にはわかりにくいかもしれません。そのような方は、この3つの要素を以下のように捉えてください(下図)。

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ROEはなぜ理解しにくいのか

jmaeceyes_takemura_02p.png ここまで説明すると、ROEは株主重視という時代の要請もあって無視することのできない重要指標であること、またROEは分解・展開することによって、利益を生み出すためのヒントを探ることができる指標であること、とご理解いただけたかと思います。とくにROEの「稼ぐ」「回す」「増やす」という3つの観点は、利益を生み出すうえでの黄金式とも言えるでしょう。

 ですが、ROEはこのような特徴を持つ経営指標であるがゆえに、組織では浸透しにくい、マネジメント手法として疑問符がつくのも実際です。その理由・原因を考えていきます。



1.株主重視ということ自体へのアレルギー

 普段の業務の中で、株主のことを意識しながら働く社員の方々がどの程度いるでしょうか?

 また会社のオーナーである株主に対して、ポジティブな印象を持っている社員はどの程度いるでしょうか?

 日本は歴史的にみても、株主を軽視する傾向にありました。所有と経営の分離を目指す株式会社においては、本来ならば株主はオーナーとして非常に重要な役割を担うことになります。この点の是正という意味では、株主重視に異論は出ないでしょう。

 しかし、あまりに株主重視が行き過ぎると、その会社で働く社員にとっては、「なぜお金を出しているというだけの存在に対して、それだけ気を使って大切にしなければならないのか?」という疑問が生じるのは自然と言えます。とかく「株主」や「投資家」という言葉からはネガティブなイメージつきまといやすく、株主重視は直感的に反発心を持ってしまうのが実際のようです。

2.ROEが自身の仕事とどうつながるのかがわからない

 ROEは、現場からみるとあまりに遠い指標です。まず、普段の仕事の中で貸借対照表を意識することがどれだけあるでしょうか?

 さらには、純資産を考えることはどれだけあるでしょうか?

 純資産はあくまで資産と負債との差額概念です。つまり、本来は実在しないものであり、差額として「これくらいあるだろう」というものです。そのような抽象的な対象を分母として重要な指標と掲げられてもピンとこない、というのが実際だと思います。

 そもそも、貸借対照表の「調達」にあたる負債・純資産については、普段の仕事で接する方はごくまれと言えます。おそらく、経理・財務・総務といったごく一部の専門部署しか関わることがありません。にもかかわらず、重要指標と掲げられても、自身の仕事とどうつながるのか、直感的な理解は非常に難しいと言わざるをえません。

3.財務レバレッジに対するアレルギー

 ROEの3つの構成要素のうち「増やす」の部分は、財務的な言葉で言えば財務レバレッジと呼ばれます。これは純資産と総資産の割合を見ているもので、言葉を換えると負債(借入金)をどれだけ活用しているか、ということになります。

 この負債の活用という点が非常にやっかいです。日本人という民族的な特性なのか、原因は定かではありませんが、とにかく借入金は毛嫌いされます。現在は上場企業の約半分が無借金経営と言われていますが、借入金はできるならしたくない、避けて通りたい、という深層心理があるものと思われます。

 一方で、このような負債が少ない企業は株主や投資家からはどのように見えるのかをまとめてみました(下図)。

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 右側の企業は自己資本比率が高く、安全性の観点からは好まれます。一方で、投資対象という観点でみると、この会社に投資をしても実質的に運用できる金額は0.5しか膨れ上がりません。一方で、左側の企業をみると、たしかに安全性は劣るでしょう。しかし、負債の効果によって実質的に運用できる金額が大きくなるのです。

 このようにみると、負債を積極的に活用している企業が評価されることとなります。しかし、負債を多く抱えている企業を好む社員はどれだけいるでしょうか?

 企業で働く社員の多くは、基本的にずっとその企業で働くことを願っていると思われます。雇用に及ぶ期間は数十年です。負債という「おもし」がある状態で、超長期的な視点からの経営が果たして可能なのか、社員は疑問に感じてしまうでしょう。

ROEは全社マネジメントには不向き!?

 このように考えると、ROEという経営指標は、経営側と株主側が対話するためのツールとしては機能すると思われますが、ROEを全社的なマネジメントのツールとして展開することは不向きのような気がしてなりません。そのため、ROEという指標を全社展開することの副作用を懸念しています。重要な指標であるにもかかわらず組織には浸透されず、無視されてしまい、単に管理のための管理、無目的なマネジメントに陥ってしまう、という懸念です。

 過去にも似たような事例がありました。EVA®(Economic Value Added:経済的付加価値)が2000年前後くらいに広まりました。株主資本コストを意識した経営・マネジメントを重視し、その考えを全社的に展開していくものです。考え方としては非常に妥当性が高いものであり、数多くの企業が採用しておりましたが、現在に至っては適用している企業は少数となってしまったようです。その原因はROEで懸念されている点とほぼ同じで、直感的に理解できない、もしくは直感的に反感を持ってしまう指標に対してはネガティブになってしまうというものです。

 経営指標には、流行曲のように、生まれては消えていくものが多数あります。たとえ社会全般で普及しているような概念であってもそれを鵜呑みにせず、「当社に適用する意味は何なのか?」を突き詰めて考えていただきたいと思います。

コンサルタントプロフィール

竹村 薫

経営戦略センター センター長 シニア・コンサルタント

素材メーカーの生産技術部門エンジニアとして実務を経験した後、2002年 JMAC入社。製造業における実務経験を踏まえて、経営と現場をつなぐコンサルティング活動を得意にしている。専門テーマは、ビジョン策定・中長期経営計画策定・事業戦略・業務改革・管理会計制度など。最近はビジネスモデル革新をテーマに儲かる事業作りを目指している。参加型の中期経営計画策定に多くの実績があり、「腹に落ちた」実行度の高い計画づくりに評価をいただいている。

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