第10回 イタリアで広がる日本発のメソッド! イタリアコンサルティング事情

Antonino Montanari (アントニーノ・モンタナーリ) シニア・コンサルタント
製品開発や設計の効率化のための経営診断を手がけ、VA・VRP手法による商品開発期間短縮やコストダウンの実績を持つ。また、技術KIの見える化、中長期計画・管理、プロジェクト・マネジメントまでの統合型R&D経営管理システムづくりを事業戦略から実現まで進めている。
R&D部門を担う技術者への教育の必要性を感じ、新しい視点によるプログラムの開発を得意としている。日本と協力し、イタリアの文化に合ったプログラム開発にも注力している。

JMACの技術は海を越えて 各国事情に合わせた最適な提案をめざす

ヨーロッパ最大のJMAC拠点イタリア 現地最前線のコンサルティングとは

JMAC独自の手法は、日本やアジアだけに限定されるものではない。欧米でも、その手法は現地ならではのローカライズを施しながら、企業の問題解決に威力を発揮している。こうした海外拠点はいくつもあるが、なかでももっとも大きな規模を持つのがイタリアにあるJMACミラノだ。その歴史は長く、すでに20年を越える。「JMACミラノが誕生したのは、JMACパリ設立のおよそ2年後の1988年です。最初は現地企業との合弁会社として生まれましたが、今では完全にJMAC傘下の拠点として活動しています」その業務の中心はイタリアだが、ヨーロッパに拠点を持つ国際企業、逆にイタリアに拠点を持つ国外の企業が顧客になることもあり、コンサルタントが活躍する場はヨーロッパ全土に及ぶ。モンタナーリも、過去に長期間にわたるドイツ出張のほか、フランスやギリシャでの業務経験をもつ。現在も、モンタナーリの同僚はスペインに出張しているそうだ。
約50名を擁するJMACミラノの事業部は3つ。R&D分野のコンサルティングを手がけるイノベーション事業部、物流・製造を手がけるオペレーション事業部、販売・アフターセールスなどのネットワークを支援するセールス&ディストリビューション事業部だ。そこでは、もちろんJMACの手法を使った改善改革活動などが行われている。「しかし、日本の手法をそのまま使おうとしても、なかなか成果があがるものではありません。現地に合わせて調整をしたり、違う角度からのアプローチを行ったり、さまざまな工夫をします。当然、新しい手法を開発することもあります。技術習得や向上のために、私たちが日本に研修に行くこともありますし、逆にJMACミラノへの技術支援・開拓支援のために日本から人材が送られることもあります。こうした形で技術に関する情報交換は、よく行われているといえますね」顧客となる企業からは見えない部分であるが、JMACの内部では世界各地で磨かれた手法のノウハウが頻繁にやりとりされている。これはモンタナーリのようなシニア・コンサルタントだけの話ではない。「私自身も研修・研究のために日本にやってきますが、新人のコンサルタントでも年に1〜2回は日本に来て学んでいる計算になりますね」

現場の声に応える提案を! JMACの精神が生きる

意外なことに、モンタナーリの業務経験は、ソフトウェア開発のプロジェクト・マネージャーとしてスタートしている。「ソフトウェア開発に限定した話ではありませんが、設計から製造までを行う際、個々の担当者に高い能力があったとしてもマネジメントがきちんとしていないと、完成品の安定したクオリティは維持できないのです。プロジェクトを管理しながら、その課題にずっと取組んでいました。その後、同僚がJMACミラノに転職し、『君はコンサルタントになるべきだ』と私の仕事を評価してくれて、その縁で1994年に入社しました」
現在、R&D分野へのコンサルティングをしているモンタナーリだが、入社当初はオペレーション事業部に配属されたという。「その理由は、標準的なものの見方が必要だから、ということでした。つまり物流や製造のことがわかっていないと、R&Dについても十分な提案ができないということなんですね。R&Dへの支援を適切に行うためには、製造が求めることも把握していなければならないのです」これは、国内外を問わず、JMACで見られる共通の姿勢だ。現在も、JMACミラノの新人コンサルタントには、2年間ほど、さまざまな産業・分野の経験をさせるという。「特に若いと、どういうコンサルティングをしていくのか、まだ想定できない段階です。自分の方向性を見定めて、専門性を磨くということも難しいでしょう。そのためにも、こうした経験は必要ですね」モンタナーリ自身も、入社した当初は業務内容・形態の違いにとまどい、この道を選んでよかったのかと悩んだこともあった。「いい師に巡り会えたことがプラスになりました。私が師事したJMACミラノの設立者、高達氏はR&D分野に詳しく、さらに厳しい先生でもありましたから」このときの経験をもとに、モンタナーリはJMACミラノで後進を指導しているという。

世界同時不況の影響 より広い範囲のコスト削減へ

世界同時不況は、各国に強い影響を与えている。実際、イタリア現地ではどうなっているのだろうか? 「イタリアでは、90%以上が中小企業ということもあり、大企業が倒れるというアメリカ合衆国で起きているような目立った事件はありませんね。政府の方針は、一時給付金や失業保険など被雇用者・消費者をサポートすることで購買力を喚起し、間接的に企業を助けようというものです。ただ、国民の購買力は低下しつつあると報道されているし、もともとイタリアでは貯蓄への意識が高いので、より節約と貯蓄志向が高まる雰囲気ではあります」日本と同じく、国民にとって大きな問題は住宅ローンだそうだ。
企業の状況も、じわじわと翳りを見せている。「今年(2009年)も初めのうちは、不況の影響は業界によってかなりバラツキがありました。たとえば、自動車産業や家電業界は厳しいけれども、ファッション業界ではまだそうでもないといった印象でした。けれども、この春頃からは、そうしたバラツキもなくなってきた感じがあります。大量生産を行う製造関係の企業は、やはり影響を受けやすいようですね。発注から納品までのスパンが長い工場用工作機械などの受注生産を行う企業では、まだそこまでの影響はないようですが、これからだんだんと変化が現れてくるといったところでしょうね」
モンタナーリが担当している案件は、世界同時不況より以前に始まったものもあるため、具体的なニーズとして影響を感じることはないという。「けれども、今まで以上にコスト削減の必要性には応えなくてはならないだろうと考えています。たとえば、製品の構造だけではなく、品質を維持しながらどのようにコストを削減するか、など、広い範囲でのコスト削減が課題となるでしょう」

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