第9回 人づくりの原点を見直す 〜経営トップが考えメッセージする人材育成のあり方〜

伊藤 晃 (いとう あきら) シニア・コンサルタント
企業独自のコア・バリューと直結した「知恵と活力を高める」人材マネジメント革新を目指している。また、“組織や制度を変えても人の意識・行動がプラスに変化しなければ革新ではない”という見方を重視し、革新活動を通じて前向きな組織学習体質を強化するためのコンサルティングを展開している。

現状の人材育成を見直す! 3つの視点

企業にとって人材育成は“本当に”重要視されているか

経済状況が深刻化するなか、企業の付加価値や基礎体力を向上させる要素として“人”に注目が集まり人材育成の重要性が高まっていると誰もがいう。だが、伊藤は「人材育成は、本当に重要視されているでしょうか?」と、その流れに一石を投じる。もちろん、人材育成をおろそかにしている企業は少ないだろう。問題はその中身だ、と伊藤は指摘する。「経営理念などで、人材育成を掲げる企業は多い。しかし、取組みの優先順位は必ずしも高くありません。 本当に重要であれば、最優先にすべきテーマのはずです」
たとえば、人材育成の課題を与えられた管理職やチームリーダーは、どれだけ部下や後輩の育成を本気で成し遂げたいと考えているか振り返ってみて欲しい、と伊藤は問う。「相手に向かって、自分は本気で育てたいと思っていると断言できるでしょうか? 実際には、人材育成よりも短期的な成果、業績の方を気に掛けているかもしれません。目前の忙しさに追われ、後回しにしてしまっていることもあるでしょう。しかし重要なら、時間がなくてもいつもそのことを考え、語っているはずです」
もし、全員が人材育成は重要なのだと確信を持って行動すれば、企業は大きく変わると伊藤は信じている。

優秀な人材は何もしなくても育つといえるだろうか

他方、“優秀な人材は、放っておいても成長する”という意見がある。伊藤は、「結果としてそうなるケースもあるが、この考え方は誤り」と主張する。現在活躍している中堅層や管理職に自分の経験を振り返ってもらうと、育てられたという実感を持たない人が意外に多い。自分は経験を通じて育ったのだから、意図的な育成は必要ない、という声を聞くこともあると伊藤はいう。「ある経験によって自分が成長したとして、そこに上司の意図や配慮があっても、育てられた側にはわからないものです。それにこの点が重要ですが、管理職の意識と行動は、無意識であっても部下の成長に影響を与えてしまう、そういう性質を本質的に持っているのです」必ず受けてしまう影響…… ならば、意識してより良い育成環境を与えていれば、もっと大きく成長するはず。伊藤は、その可能性に目を向けて欲しいという。
「育つ環境が10年後に大きな差となって表れます。たとえば日本人の英語力ですが、企業が10年前に意図的な教育機会を与えていれば、グローバル化を進める過程でもっと大きな成果につながっていたでしょう。人材育成で起きたミスは、大切な時間を失うことにつながります。取返しが付かない場合もあるのです」

人材育成で起きている空回り現象とは

人材育成の大きな問題として、教える側と学ぶ側の歯車が合っていないケースがあげられる。育成の努力をしているのに、結果として人が育たない。原因のひとつは、壊れた育成関係だと伊藤は指摘する。「ITや語学は若者のほうが得意な場合が多く、かつ“経験が改革の妨げとなる”場合もあります。こうした背景から年長者から教わることがプラスになるのかという疑問が生じています」他にも、近年広まった個人成果主義によって個人のノウハウを公開・伝授することに対する抵抗感や、中堅層と新人の年齢が大きく離れてしまい、世代間の意識ギャップが大きくなってしまったことなど、人材育成以前にコミュニケーション自体が難しくなっている現実がある。
また、価値観の多様化も問題を複雑にしている。教える側と学ぶ側それぞれが抱く思いの違いによって、育成がうまくかみ合わないのだ。たとえば、一からとことん教えようと考える人が、自分で学ぼうとする人を担当してしまったり、主体的に学んで欲しいと思う人と学習プログラムの提示を求める人が組んでしまうというミスマッチが起きてしまう。「まず“教えたい”“学びたい”という思いを共有し、お互いの意志や気持ちを確認しながらコミュニケーションを取り、育成関係を築くことが大切です」
では、これからの人材育成はどういった形を指向すればいいのだろうか。伊藤には、誰もが持つだろう疑問に対して明確な提案がある。長い間人事革新の実績を重ねてきたJMACの経験から、未来の人材育成を見据えているのだ。

ページ上部へ