第6回 リスクに強い基盤をつくる!〜利益と信頼性を高めるBCP・BCM〜

大谷 羊平 (おおたに ようへい) チーフ・コンサルタント
自動車、自動車部品、家電、住宅・住宅部材、アパレルなど製造業から、金融、エネルギー、ITソフトウェア、人材派遣、教育・出版社など非製造業まで、数十社の大手・中堅企業にて企業改革活動の支援を行っている。最近ではリスクマネジメントからコンプライアンス体制確立や内部統制強化の推進支援など、コーポレートガバナンスというテーマに力を入れている。

拡大するリスクマネジメントの役割

情報被害によって倒産の可能性も

リスクマネジメントは、古くから企業のもつ課題のひとつだが、近年 “災害や事故などリスク発生後の事業継続”へと、その役割は広がってきていると大谷はいう。全世界的に見たとき、大きな契機となったのは、2001年に起きたアメリカ同時多発テロだ。「当時、世界貿易センタービルには多くの企業が入っており、甚大な被害を受けたことは、誰もが知っています。しかしこのとき、テロによる人的な被害は全社から見れば部分的なものだったのに、それ以外の被害によって倒産した企業があることはあまり知られていません」その企業では、テロ以前に世界貿易センタービルで担っていた事業を別の拠点で再開することがついにできなかったという。原因は、営業情報などのさまざまな重要資料やシステムが崩壊した世界貿易センタービル内にあり、その他の拠点には業務を継続するための情報やシステムが全くなかったことにある。「以降、アメリカではテロを優先度の高いリスクとしてリスクマネジメントを行う企業が急激に増えました。世界貿易センタービルには金融関係の企業が多く影響範囲が広かったため、行政側からも企業への指導が入ったことも関係があるでしょう」
従来、リスクマネジメントは予防や発生後対応を主眼に行われていたのだが、たとえ発生時の危機を脱却できたとしても、「その後、事業を継続できなければ意味がない」ということに企業も気づいたといえる。こうして、欧米ではテロ対策をはじめとするBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定が進んでいったという。

グローバル化の進展と多様化するリスク

日本においても欧米企業との輸出入を行う企業は、敷地内への立ち入り防止措置や入退室管理など、一定の管理体制を取引先から求められる例が増えていった。しかし、国内で策定されるBCPに関しては、欧米と事情が異なる。「リスクの種類は無数にあります。そのすべてに対応することは、実質不可能でしょう。国、業務内容、企業によって重要視するリスクの種類は当然変わってきます。日本では、まず地震対策を考えなくてはなりません」企業が事業継続の重要性を実感させられた例といえば、1995年の阪神・淡路大震災が真っ先にあげられると大谷は説明する。「関西の中心部で起きた地震であったため、誰にとっても大きな衝撃でした。ひとつには、直接被害地域だけでなく物流網が寸断されてしまったことにより、さまざまな規模の企業が地震の影響を直接的・間接的に受けたということ、もうひとつは、これまで地震が少ない地方で起きた大規模災害であったということが、理由としてあげられます。いつ、どこでこうした災害が発生してもおかしくないことを、私たちは認識させられたのです」21世紀に入ってからも三陸南地震、新潟県中越地震など大型の地震が続き、企業はリスクマネジメントを意識せざるを得ない状況が続いているといえよう。 こうしたリスクは、地震やテロだけではない。アジア諸国で発生するSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome:重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザによって、日本企業が影響を受ける例は少なくない。「たとえば、鶏肉を輸入している企業はもちろん、アジアから輸入を行っている企業では、海外で鳥インフルエンザが流行すれば無関係ではいられないでしょう。グローバル化が進む以上、こうしたリスクへの備えは必須になりつつあるのです」

その企業ならではのBCPが重要

BCP策定には、コンプライアンスという点からの必要性もある。災害が発生したとき、経営者は被害の状況と復旧までの見通しを迅速に公表することを求められる。「JMACでは、これまでコンプライアンス体制の確立などの一部として、リスクマネジメントに属する部分に対応してきました。ここ数年では、さらに進んでリスクマネジメントやBCP策定そのものについてのニーズが高まっていると感じています。もともと、JMACはコンサルティングを行う際に、クライアント企業の位置づけや役割、影響度をサプライチェーン(Supply Chain:供給連鎖)から分析するという手法を採ってきました。そのため、事業を継続していくには何が必要なのか? という問いかけに対して、具体的で現実的な提案ができると自負しています」
テロに悩まされた欧米ではBCPの普及が進み、アメリカではすでに6割の企業がBCPを有しているともいわれている。「ただし、BCPは作ればよいというものではありません。リスクはいつ、どこで現実のものとなるかわからないうえ、リスクの種類も多岐にわたります。その企業ならではの優先順位を設定し、その企業の事業継続にとって最適なBCPが必要になるのです」

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