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第9回 タイ製造拠点における人づくり③ ~マネジメントの難しさを考える~

2021年10月 7日

 本コラムでは、製造拠点のアジア展開についてタイを事例として取り上げています。アジア製造拠点の実態や今後の方向性について筆者がタイ製造拠点を支援した経験から、拠点運営を成功させるための課題や処方箋を解説していきます。第9回となる今回は、タイの製造拠点における人づくりに関連した「マネジメントの難しさ」について、人の価値観やコミュニケーションの実態を踏まえ、文化に適合するマネジメントのポイントについて説明します。

タイ製造拠点におけるコミュニケーションの実態

 タイ製造拠点で意図したマネジメントを実現するためには、超えなければならない壁がいくつかあります。最初の壁はコミュニケーションです。現地でコミュニケーションを取る方法は、直接タイ語でやり取りをする、英語を使う、通訳を活用する、などが考えられます。生産に関する専門的なやり取りは、通訳を介することが多いと思います。

 ここでは、通訳を介したコミュニケーションの難しさや価値観の違いを理解することで異文化に適合するマネジメントについて整理してみます。

通訳を介したコミュニケーションの難しさ

 製造拠点で従業員とコミュニケーションを取るには、言葉の問題は超えなければならない壁です。筆者もタイ語はまったく話せませんので、通訳との接点が増えタイ人の気質を学べたことは有益でした。一方で、長年タイに駐在してタイ語で従業員とやり取りできる経営者と接したときは、たいへんうらやましく思ったものです。

 現地の従業員とタイ語でコミュニケーションを取れることが最善ですが、もし話せなくても聞き取りができるだけでも全然違います。なぜなら、通訳を介しているとしても、その内容が正しいのかどうか、結局のところ判断できないからです。多くの企業で信頼できる通訳が必要だと感じていることでしょう。ただし、仮に信頼できる優秀な通訳がいたとしても、社内の人間なので本当の意味で本音を伝えてくれるかというと微妙なところです。ある企業では、通常は社内の通訳を使っていますが、重要事項については高い費用を払っても外部の通訳を活用してコミュニケーションを取るようにしています。通訳も従業員であり、上司には良いことを言いたいし、仲間の悪いことは言いたくないのです。
このように通訳の心情も理解したうえでコミュニケーションを取るように気をつける必要があります。個別に話すとき、大勢の中で話すときなど、場合に応じて内容にも気を使いながら通訳を上手く活用することが大切です。

 また、伝えるべきことをタイ語に翻訳した資料をつくることもよくあります。とくに日本の現場で使われる言葉は、タイ語で該当するものがない場合があり、翻訳も容易ではありません。たとえば、日本の製造現場では時間を表現する言葉として基準時間、標準時間、実績時間などが、工数を表現するものには就業工数、稼働工数、不稼働工数などがあり、多様な意味・表現があります。

 これらの時間・工数を集計して稼働率や能率を算出して現場の管理に活用するには、まず翻訳者にその意味を理解してもらい、かつタイ語に訳したときに正しい意味になっているかを確認しなければなりません(現場管理の専門用語などはタイ語にはないと心得ておいてください)。確認のために、日本語からタイ語に訳したものを再度日本語に訳してもらいます。労力はかかりますが、意味が通じない(理解できていない)部分が判明し、正しい翻訳に修正することができます。

異文化適合のために管理者としての行動を変える

 タイ人の価値観は、日本人の常識(勝手に日本人が常識と思い込んでいる)からは想像しにくい面があります。

守れない約束はしない たとえば、タイ人は約束を持ちかけられるとNoとは言わないようです。日本人は守れない約束はしないものですが、タイ人は約束をしないことが相手に失礼になるという考えを持っているからです。できない約束でも約束をし、相手も約束を守ってくれなくても怒ることはなく、当たり前と思っているのです。このことを知っていれば、管理者として従業員に働きかけるときに何を注意すべきか、一歩進んで考えることができます。本当に約束の内容がわかっているのか、約束を守る意思があるのかということを自然と確認するようになるでしょう。

 また、こちらからの質問に対して的外れの回答が延々と返ってくることもあります(決して政治家ではない)。タイ人は質問には必ず答えてくれるのです。

目的地までクルマで 以下は筆者がタイで経験したことです。クルマで目的地まで向かうときに、ドライバーがたびたびクルマを止めて道を尋ねていました。やり取りの様子から、どうも道順を教えてもらっているような雰囲気で、ドライバーも明るい顔をしてクルマに戻ってきたため、こちらも安心していました。しかし、その後一向に目的地に着かず、迷い続けてしまいしました。後でわかったのですが、聞く人聞く人で案内している道順が違っていたのです。

 そもそも、聞かれたらわからない、知らないと言わないのがタイ人気質だそうです。タイの教育では生徒が先生に対して質問をしない(できない)らしく、このスタイルで育ってきていることも影響しているのかもしれません。そのため、何か依頼すると必ずわかった(カオチャイ)と言ってくれます。もちろん、全員がそうとは限りませんが、このような振る舞いをする人が多いと思って接すると、相手の反応を理解しながらの指示やコミュニケーションがしやすくなります。

コミュニケーションの処方箋:行動の結果を予測して先手を打つ

 異文化に適合するということは相手の価値観に基づく行動を予見し、先手を打つ行動だと思います。管理行動の基本は生じる結果を予見し仮説をもとに先手を打っていくということだとすると、管理と同じような考えが適用できると考えられます。ただし、先述したように人の価値観がわからないと行動を予見できないため、タイをはじめとする海外拠点で異文化に適合した管理は難しいのです。

 管理者は日本では想定できない(しにくい)ことも想定しなければなりません。そのためには現地に入り込み現地の人の価値観を理解、体感することが大切だと思います。

 また、現地管理者に行動を促すためには、実施すべき仕事を実行できるようJD(JD:Job Description)に記載し、日々のフォロー、振り返りのサイクルを仕事に組み込んでいく必要があります。とくに人の仕事をフォローするときは、全員が同じではない、個人の性格を理解してコミュニケーションを取る、そして日本の常識が通じない(日本人が非常識!)と心得て、辛抱強く接することが重要です。この点を忘れないようにしてください。

 第9回はタイの製造拠点におけるコミュニケーションの難しさを考え、打破するための処方箋について説明してきました。次回(第10回 最終回)は本連載の区切りとして、これからのタイ製造拠点の目指すべき方向性について整理することとします。

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コンサルタントプロフィール

角田 賢司

角田 賢司

プロセス・デザイン革新センター センター長 シニア・コンサルタント

1998年 JMAC入社。IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。これまでに自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品など、多くの業種で収益向上の支援を実施してきている。支援テーマは製造部門も対象とした現場の生産性向上、品質向上をはじめとし、調達コストダウンや在庫削減など多岐にわたり、かつ複数のテーマを同時に展開、実行マネジメントの支援を行っている。現在は日本製造業のグローバル化に伴い、日本国内のみならず、日系企業のタイ製造拠点の支援として、生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を現地で実践している。海外製造拠点の支援に際しても単なる個人の指導ではなく、JMACのグローバルネットワークを活用(日本人と現地コンサルタントが連携)した組織的な支援を展開している。
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