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第11回 ISO14001:2015の活かし方〜事業と一体化した戦略的EMSとして活用するには〜

山田 朗

 忙しさにかまけて1年もサボってしまいました......。これからポツポツと復帰いたします。

 さて、みなさんの会社のISO14001は、すでに2015年版への対応が行われていることと思います。この1年くらい、私も数社で2015年版への対応を支援させていただきましたが、その中で2015年改訂の最大の特徴である、事業とEMSの一体化や戦略的なEMSの活用について、あらためて考えてきました。これがうまくできないとISOは価値を生まず、お荷物的存在のままです。

 しかし、事業とEMSの一体化や戦略的なEMSなどは「言うは易く行うは難し」ですよね。何よりこれは事務局マターではなく経営トップマターであるからです。経営全般の課題の中で環境経営が上位に位置づかない限り、トップが本気で事業との一体化、戦略的な環境経営を推進することは困難です。

 気候変動の「緩和策」として二酸化炭素を削減する活動は重要ですが、経営的な上位課題にはまずあがりません。それよりも気候変動リスクへの「適応策」は、さまざまなビジネスチャンスを生むこともあります。大洪水に備えた都市のインフラ整備や異常気象による農作物の収穫激減を抑える新種の開発、ドローンによる育成監視など多々あります。このように事業と気候変動への適応策を検討することで、戦略的に事業とEMSを一体化することも可能ですが、それもピントこない業種も多くあります。

「持続可能な開発目標」を参考に環境から社会へと対象を広げる

 このように「環境」が重要経営課題にあがらない業種で、事業とEMSの一体化や戦略的なEMSを実践するにはどうしたらよいのでしょうか?

 その答えの1つが、対象を「環境」だけから「社会」にまで拡大することだと感じています。事業を通じて「社会」が抱える問題・課題を解決することに対象を広げるのです。社会が抱える問題として、SDGsという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 これは国連が設定し、2016年1月1日に正式に発効された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」です。2030年までに解決すべき世界が抱える課題を17の目標(下のロゴおよび表)と169のターゲットに整理をしています。この中には直接環境に関連する循環型社会、低炭素社会、自然共生社会に相当するもの(目標12、13、14、16など)も含まれますが、それだけではなく飢餓、貧困、人権、教育などの社会課題が含まれています。これをチェックリスト的に活用することで、事業との関連の検討対象が大幅に広がります。

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目標1 あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標2 飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標4 すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、 生涯学習の機会を促進する
目標5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標6 すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
目標7 すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標8 すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
目標9 レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
目標10 国内および国家間の不平等を是正する
目標11 都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
目標12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
目標13 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標14 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
目標15 陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
目標16 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
目標17 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

出典:国際連合広報センター、SDGsを広めたい・教えたい方のための「虎の巻」



 たとえば、医療に関連する業種や食品業種では、目標2、3、4などはビジネスチャンスにできる可能性がありますね。また情報提供サービス業種では、企業のカバー範囲にもよりますが、目標3、4、5、6、8、10などは可能性があるも知れません。169のターゲットを対象にすると、より詳細な検討が可能になります。

環境に固執せずISOを活用する

 こうした検討はまさに事業拡大を図る事業戦略、研究開発戦略、マーケティング戦略などにそのまま通じるものになります。まさに最上位の経営課題になります。

 世界中で自分たちだけよければよいと近視眼的な思考の政治リーダーが増えている昨今、残念ながらわれわれの将来をそうしたリーダーに任せておくわけにはいきません。だからこそ、企業が社会課題を解決することを通じて事業を発展させていくという意識を強く持ち、率先垂範することが大切な時代だと思います。

 このように、環境に囚われず事業を通じて社会に貢献するということは、みなさんの会社の経営理念や社是などにも近い部分があるのではないでしょうか?

 これこそが経営の最大課題であり、事業とEMSの一体化や戦略的なEMSを実現することになります。

 ISOを道具として使って経営に役立てる、そのためには「環境」に固執しないことも考えてみてください。要は企業にメリットがある活用を考えることがISO14001を活かすうえで、もっとも重要なことです。EMSを単に「環境マネジメントシステム」でなく「環境・社会マネジメントシステム」として活用するという提案です。

 外部審査を気にする方も多いと思いますが、今では多くの審査機関もそれを十分わかってくれると思いますよ。もし、狭くて凝り固まった考えしか持っていない審査機関であれば、変えればよいだけのことです。



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