お問い合わせ

今こそ環境経営の推進を

第9回 ISO14001 2015年改訂はEMS改善のチャンス その1

山田 朗

 前回までは省エネを中心に書きましたが、これからは環境部門で現在もっともホットな話題であるISO14001の改訂について、2回に分けて解説してきます。

2015年改訂の意図とは

 ISO14001は企業の環境マネジメントのベースとなる仕組みです。1996年に制定され、2004年にマイナーな改訂はありましたが、今回約10年ぶりの大幅な改訂となりました。
 まず主な変更の意図を確認しておきましょう。

  1. 経営トップのリーダーシップによる経営戦略レベルの環境マネジメントになれば、その有効性がさらに向上するという観点から、企業の事業プロセスに環境マネジメントシステム(以下、EMS)を統合することを要求事項とした。
  2. 企業を取り巻く外部および内部の課題、利害関係者のニーズおよび期待を明確にし、そこから生じるリスクおよび機会を設定し、経営戦略レベルで確認し、EMSを通じて対処することが要求された。
  3. 世の中では地球規模的な環境課題として低炭素社会の構築、循環型社会の構築、自然共生社会が叫ばれるなか、それに対応するように「気候変動の緩和/適応」「持続可能な資源の利用」「生物多様性および生態系の保護」が環境課題として言及された。従来規格では「汚染の予防」のみだった。
  4. 国境を越えた調達、生産拠点の移転、アウトソースの拡大などを踏まえて、バリューチェーンおよびライフサイクル視点での環境影響を認識し、適切な管理が要求された。
  5. 従来のEMSの継続的改善(仕組みの改善)から環境パフォーマンスの継続的改善(結果の改善)に重点が置かれた。
  6. ISO9001、ISO27001など他のISOマネジメントシステムのとの統合を容易に進められるよう、規格の構成(章立て)が共通になった。 など

 要するに、従来のISO14001では経営・事業とかけ離れた小さな活動に終わってしまい、経営的に十分に役立っているとは必ずしも言えないという反省からの変更でしょう。現実的に、仕組みが重く運用が困難なのに改善が行われず形骸化したり、「紙、ゴミ、電気」の削減活動に終始して活動が停滞していたり、内部監査を行っても形式的で不適合も推奨事項も出ず改善の機会になっていなかったり、外部審査をクリアするためだけの仕組みになっていたり、EMSに関する悩み・相談は10年前からよく受けています。これを規格側から経営トップを引っ張り出し、事業とリンクしたEMSにしていくことで、企業が経営メリットを出しやすいようにしたことが大きな改訂の意図と考えたらよいでしょう。

役立つEMSにするには

 そもそもISOはマネジメントの道具なので、従来から企業側でいかようにも使える仕組みにすることができます。しかし多くの企業が要求事項に縛られ、要求事項だけをきっちり守る仕組みをつくっているケースが多いようです。役立つ仕組みにするには、要求事項そのものを同一レベルで受け入れるのではなく、会社の状況に合わせて要求事項の受け止め方に強弱を付けて、弱く受けれてもよい部分は徹底的にシンプルな仕組みにするといいでしょう。たとえば「目標管理は成果が出るようにきっちりした仕組みをつくるけど、文書管理はできるだけ手間のかからない簡素な仕組みにしよう」などです。また環境影響評価プロセスも手間をかけすぎている感がありますね。環境側面を認識することは大切ですが、それよりもどんな取組みを行うかを戦略的に決めることが大切です。要求事項の一つひとつに対して、強弱をつけるとどうなるのかを一度検討してみることをお勧めします。

 もう1つのポイントは、要求事項にないけれどやったほうが効果が出ると思われる取組みをきっちりと入れ込むことです。要求事項を受けただけの仕組みでは経営貢献面では十分でないかもしれません。今回の2015年改訂では前述のように、環境経営戦略的な検討を求めています。考えてみれば、ごく当り前のことだと思います。経営的なメリットを出すのであれば、環境の目指すべき姿は何か、環境と経営をどのように両立したらよいか、などを十分に検討することが不可欠ですよね。

 JMACでは、1998年ごろに「Eco-Ecoマネジメント」という環境貢献(Ecology)と経営貢献(Economy)を両立させるコンセプトを表明し、ISO14001のコンサルティングにも適用しています。下図は、JMACが従来から推奨しているISO14001認証取得コンサルティングの基本ステップです。

col_yamada_09_01.png

 ISO14001のシステム構築(準備期)に入る前に、環境戦略フェーズを置き、この中でクライアント企業の目指すべき環境経営の姿、それに向けた道筋を中長期環境経営計画(環境マスタープラン)として明確にすることからスタートします。役立つEMSにするには、こうした要求事項にはない部分も同時に実施する必要があるのです。

 今回の改訂の最大のポイントは、企業の内外の課題をもとに戦略的に環境取組み項目(リスクおよび機会)を決めることですが、私からすると「やっと来たか」という感じですね。

 次回は2015年改訂にどのように対応したらよいのかを考えます。



オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ