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今から「働き方」の話をしよう

第5回 「働き方を見直す」共感と目的意識を持たせる方針づくり

田中 良憲

 前回は働き方改革をはばむ課題(第3回)を解決する糸口『働き方改革の"メカニズム"』の全体像を紹介した。

 この"メカニズム"の仕掛けは、5つの部品
「1. 明確で強いトップ方針」、「2. 働き方実態の見える化」、「3. 働き方見直しノウハウづくり」、「4. ドライブとなる組織編制」、「5. 意識改革マネジメント」から成り立っている。

 これらの部品は独立しているものだが、相互に作用することでより効果を上げる大きなシステムでもある。

 働き方改革を継続して実現させている先進企業・成功企業はこのような"部品"を組み合わせて、システマチックに働き方改革を進め、成果を実現している。今回は最初の部品「明確で強いトップ方針」について、事例を交えて述べる。

働き方改革の大前提『明確で強いトップ方針』

 働き方改革を進め、経営成果に結び付けている企業は、共通して社内外に向けて「一大方針」を示していることが特徴である。いくつか紹介しよう。

【大和証券グループ】

 大和証券は、グループホームページの会社情報の欄に企業理念や経営方針と同列に「ワーク・ライフ・バランス」と項目を設定して社内外に発信しているところから、きわめて特異性がある。ワーク・ライフバランスを経営戦略の一環として捉えていることが、とくに重要な点だ。

「一人ひとりの従業員が仕事に対して生きがいを持つこと、高次元のワーク・ライフ・バランスを追求することで会社全体の生産性も上がる。お客様に提供できるものが形になりにくいビジネスだからこそ、従業員の気持ちや充実感がお客様や株主へのサービスにつながる」(東洋経済 大和証券グループ本社執行役・植原恵子氏のインタビューを引用、編集)

【カルビー】

 カルビーは2010年発足"ダイバーシティ委員会"を中心に、グループ全体でさまざまな活動を通じ、全従業員がダイバーシティの理解を深め、自ら実践できる環境・制度づくりに努めている。
 その一環で以下の『カルビーダイバーシティ宣言』を社内外に発信している。

『掘り出そう、多様性。
 育てよう、私とCalbee。
 互いの価値感を認めあい、最大限に活かしあう。
 多様性こそCalbee成長の力。
「ライフ」も「ワーク」もやめられない、とまらない』

【SCSK】

 SCSKの経営理念「夢ある未来を、共に創る」を具現化するためのコミットメント「人を大切にします」に示されているとおり、人を財産と捉えている同社は、"健康経営"を実現すべく、ワーク・ライフバランスを推進している。

 システム・インテグレーター事業が成功する重要要因は、技術革新が進んでも最後は"人"の最良のパフォーマンスにかかっていると認識しているからだ。

代表取締役会長・中井戸信英氏は自ら"健康経営推進最高責任者"を名乗り、以下のように発信している。

◎社員が心身の健康を保ち、
◎仕事にやりがいを持ち、
◎最高のパフォーマンスを発揮してこそ、
◎お客様の喜びと感動につながる最高のサービスができる

ワーク面だけでなくライフ面でも"目指す姿"を示す

 さて「働き方改革」の管理対象の1つは、"職場の長時間労働の是正"ということは間違いない。そのため、一般的には会社も組織も"働き方"というキーワードはワーク面の延長としてとらえられている。たとえば、「効率的な働き方」「場所を選ばない働き方」などが典型だ。

 しかし、われわれが個人の立場で"働き方"と耳にして想起する状態とは、会社・オフィスで働くだけではなく、もっと広い概念、たとえば「家族を大切にする働き方」「健康第一の働き方」「趣味を大切にしながら田舎で働きたい」などである。すなわち、"働き方"を自分のライフ面"生活から人生まで"で捉え、その実現性の可否はともかく、それぞれが目指す姿を想起するのではないか?
 

col_tanaka_05_01.png働き方改革を進め、経営成果に結び付けている企業の「一大方針」の大きな特徴は、ワーク面だけではなく、『働き方改革の"目指す領域"』(右図)のように社員個々人の家庭・ライフ面を対象にして、「踏み込んで、"目指す姿"、目的・状態に言及、定義している」点だ。

 ライフ面の達成状態にも踏み込んで目指す姿を提示することで、社員一人ひとりが「自分自身の生活、人生をどう過ごすか?」を自分事として捉えるきっかけを生み出すのである。そのきっかけが働き方改革への強い共感と自律的な行動を促すと考える。

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