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第9回 社員への報い方・配慮を示す給与制度

 今回は社員への報酬について考えてみたい。人事制度の中では、社員への報酬は給与や賞与などの金銭的なものになる。給与は労働対価であり、社員が働いた分に対して会社が支給する性格のものである。一方、社員から見ると生活の基盤となる。  日本では雇用した社員には長く働いてほしい、そのために社員が生活していくうえである程度の安定感・安心感を与えたいという考え方があるので、働いた分と割り切れない部分もある。 給与は会社から見ると費用(人件費)の側面があり、可能な限り低く抑える方向で考えたいが、社員から見れば、できるだけ多くもらいたいということになり、その落し所を経営として探ることになる。給与全体としていくらの原資を取るか、その限られた資源の中で、どのように社員に配分するか(何に報いるか、どの程度生活に配慮するか)という考え方が、人事制度、とくに給与制度を通じて示されることになる。

社員の何に対して報いるかを制度に表す

 給与制度は、社員の何に対して報いているかを示す仕組みである。そのために給与体系(給与項目)を支給目的が重複しないように組み立てる必要がある。近年、給与体系は簡素化の方向で改定され、とくに諸手当が統廃合される際にこの点はかなり整理されていると思われる。  以前は、たとえば家族手当が支給されている一方で、住宅手当に家族という視点での支給基準があったり、地域手当がある一方で、住宅手当に地域区分があったりすることが見受けられた。それぞれを設定する際に理由はあったかと思うが、「この支給項目は○○のために支給する」ということをはっきりすることで、一人ひとりの仕事の内容、役割、能力などで変わるものなのか、あるいは一定の条件が同じであれば、社員の差はなく支給されるのかを区分しなければならない。社員から見て何に努力すれば、自分の給与が上がるのかを、仕組みを通じてわかるようにすることが大切である。 給与項目の中で金額的に大きな割合を占めるのが基本給である。基本給の内容自体は各社各様であるが、基本給での報い方には、水準の違いと毎年の上がり幅(昇給)という2つがある。 等級などに応じて基本的な水準自体を変える方法と(水準は大きく変わらなくても)前年度の水準よりいくらか上げる方法である。どちらをどの程度重視するかは、やっている仕事や能力のレベルの違いに報いるか、毎年の業務遂行での貢献あるいは熟練などに報いるか、という考え方で選択することになる。 また、給与制度だけでなく、等級制度との関連で高い給与水準に達するスピード感を示すことも、会社での貢献度や成長度合いに報いることを表現することになる(下図参照)。

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 水準の違いによって報いることをしくみに落とし込むときに、等級ごとの給与水準をどのように設定するかを検討する。いわゆる重複型、接続型、乖離型というパターンである。近年では等級が違えば、給与が変わることを強く示すために、接続型や乖離型の方向で検討することも多い。  一方で、ある程度重複する部分を意図的に設定する場合もある。それは会社の風土や人事管理の基本方針によるところであるが、等級間に給与差をつけることを一因として、 ・昇格が甘くなる(通常接続型や乖離型の場合は範囲給を広く設定できないため、同じ等級のままでは給与が上  がらなくなる) ・一度上位に格付けた者が固定化する(とくに役割等級の場合) ・差を付けることで職場の和の維持が難しくなるといった制度運用上の懸念を考慮するためである。

 このように、給与体系や基本給などを設計に当たり、会社の人事管理の考え方、社員の何に報いるかを再確認する必要がある。金額そのものの大きさは会社の支払い能力によるが、それをどのように社員に支払うかは会社の考え方が表れる。社員から見ればトータルでいくらもらえるかが大事だという声ももっともであるが、社員から見て「ウチの会社はこのようなことに報いてくれるのか」「こういうことを配慮してくれているのか(とくに生活補助的な要素)」ということは、丁寧に伝えることが重要である。 配慮という点では、世の中全体から見れば、生活補助的性格の手当については整理する方向で検討されている。しかし、たとえば基本給水準が相対的に低い会社が、あえて家族手当を支給することで、金額はともかく社員の生活への配慮が伝わり、ある程度の安心感を与えることもある(もちろん、費用の捻出策は練らなければならないが......)。

人事制度以外で示す社員への報酬

 これまで給与制度中心に述べてきたが、報酬については金銭的報酬とそれ以外の報酬という視点での議論がある。この議論自体は何年も前から行われているが、より丁寧に向き合わないといけないテーマであると実感している。これからの世の中を想像したときに不安定感は否めない。社員にとっても、会社の期待は高くなるが、報われていることが感じにくい、苦しい時代が到来することも想定しないといけない。 実際のところ、金銭的な報酬の原資枠は限られてくると、その中でできることも限られてくる。もちろん、そうならないように努力をすべきだが、苦しい時代を迎えても対応できるように、社員に報いるということはどういうことか、苦しい時代にも社員がウチの会社にいてくれるためには何が必要かについて、より丁寧かつ真摯に向き合わなければならない。 報酬には下図のような領域が考えられるが、この中で人事制度でできることは、評価制度や給与制度によって、社員の貢献を認め(貢献とは何か自体も議論は必要)、それに報いることになる。

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 その他の仕事そのものの内容やそれを遂行できる場づくり、また職場での存在感、環境づくりなどは人事部門以外の部門で取り組むテーマになる。そういう意味では、人事管理は人事部だけのものではなく、会社全体で取り組む領域になる。そのためにも、現在では現場と距離感のある人事部であるが(時に距離感は必要である)、人事管理の考え方などは現場にわかりやすく伝えていくことも重要になると思われる。

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