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第4回 等級制度設計を通じて、社員の基本的な見方を決める

 社員の処遇を決定する人事制度の中心には等級制度がある。等級制度は、社員の段階的な成長ステップ(会社からみた段階的な人材育成目標)を示すとともに、評価の基本的な判断の視点、また給与の構造(等級別の給与水準)などを決める基となる仕組みである。等級制度を運用することによって、会社として報いたい社員を他の社員と「必要な差を付けて報いる」ことになる。そのためにも、等級制度によって「ウチの社員を見るときには、どのような視点を重視するか」を示す必要がある。
 等級制度を設計する際は、以下の2点についてとくに留意する必要がある。

等級の性格によって社員の見方の軸を示す

 1つは、等級の性格である。それが、ウチの社員に対して何をもっとも重視して処遇するかを示すことになる。社員の見方の視点には下図のように、さまざまな視点があり、どの見方も「それは間違っている」とは言えないものである。

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 現実的にはいろいろな視点から<ヒト>を捉えてマネジメントを行うことになるが、ウチの社員には基本的にはこの部分を大事にしてほしいということ(会社は何を重視して処遇するかということ)を表明しておくことで、社員の見方についての混乱を防ぐのである。

 等級の性格には、大きく能力(ヒト)と仕事(職務、役割)の2つがある。どちらを重視するかにより、以下に示すように処遇や職場の状況が発生することが考えられるので、そのことを踏まえて、どちらを軸とするかを決めなければならない(なお、両者を併用している会社もある)。

■能力を重視する職能等級制度

 能力(ヒト)を重視し、等級を意味づけた仕組みが職能等級制度(職能資格制度)である。これは等級と実際の仕事の内容を直接結び付ける考え方ではないので、ヒトを重視して実務的な役割分担、柔軟な配置転換・業務変更を行うことや成長に向けたチャレンジのためにレベルの高い仕事を担当させることなどを等級(つまり給与水準)を変えずに行うことができる。

 一方で、等級に期待する能力水準相当の仕事を遂行していないということが発生する傾向がある。基本的には等級に求められる能力水準相当の仕事を遂行することが求められるものの、身に付けた能力は急激には変化しない(下がらない)という考え方もあり、高い等級に格付いていても、それにふさわしい仕事をし続けていない場合がある。等級制度は給与構造と結び付いている(高い等級ほど高い給与水準になる)ので、人件費コントロールの視点から見ると、昇格審査の運用をいかに適正に行うかが運用の1つのポイントとなる。

■仕事に重点を置く役割等級制度

 仕事に重点を置く等級制度が職務あるいは役割等級制度である。仕事の構造(組織構造、業務体制)を構築し、そこにその仕事を遂行するのにふさわしい人を当てはめる、あるいは仕事の構造をつくるときにヒトを見て仕事をつくり出し、その仕事を担わせて、等級上もそれにふさわしい位置付けとする仕組みである。

 職能資格制度と比較し、組織体制に沿って給与の構造が決まるため、人件費コントロールは行いやすい。一方で、社員から見ると、能力向上を図ってもその能力にふさわしい仕事がなければ(つくり出せなければ)、必ずしも高い等級(給与)になることはなく、また仕事が変わると等級が変わることがありうる(低い仕事の水準になれば、等級(給与)が下がる)。この点が、これまで「昇る」こと(昇格、昇給、昇任など)を基本に置いてきた日本の人事管理の考え方とは異なるので、基本的な価値観の変更を伴う運用が求められる(本来必要がない仕事(ポスト)をつくって、そこに人を当てはめることは、この仕組みの考え方とは異なる)。

 その仕事を担うよりふさわしい社員がいたらヒトを入れ替える、上位等級に格付けされずどこかの等級で滞留する社員が多くなる、あるいは組織体制の変更によりポストがなくなった場合は等級を下げる、といったことを運用できるかどうかがカギとなる。日本では、以前に比べ会社間で人材が流動するようになったものの、「下げられるなら他の会社に行く」というよりは、1つの会社に長く勤める傾向はまだ強いため、会社の中で「下がる(下げる)」ことを想定した人事管理が必要になる。

 等級の性格を決めることは、社員の基本的な見方を示すことになり、それに沿ったウチの人事管理の基本的な方向性をどうするかを決めることである。決して世の中の傾向という理由で決めるものではない。

等級別人材定義によって等級ごとの段階的な社員の見方を示す

 もう1つは、等級別人材定義である。この点は等級の階層(数)とも関連するのであわせて考えてみる。等級制度の意味合いからすると、この2つにより「社員に求める段階的な成長ステップがわかる」ことが求められる。

 等級の階層(数)は、人事側からすると社員の成長や処遇の節目となる昇格という場面をどのくらいの期間ごとに設けるかという視点を踏まえて設定されることもあるが、あまりに短い期間で設定してしまうと階層数が多くなり、等級ごとの人材像の違いがわかりにくくなってしまう(職能資格制度上で年功的な昇格運用が行われる1つの要因)。そのため、等級の階層や等級別人材定義については「等級ごとの期待水準の違いが明らかかどうか」という視点を重視して設計したい。その際、等級別人材定義(等級基準、職能要件書など)が、直近する上下の等級の違いがわかる表現で記載されているかがポイントになる。直近する上下の等級に書かれている内容を読み比べ、異なった言葉遣いをしているキーワードに着目してみるとよい(下図)。実際、改めて確認してみると、上下の違いを表すキーワードがわかりにくい基準も多い。

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 このキーワードがその等級に期待されていることを端的に表していることになる。そのうえでキーワードを等級ごとに変えた意味を社員に丁寧に説明し、浸透させていく必要がある。人事側でいくら詳細な基準(文字量の多い基準)を作成しても、渡された社員側は目を通さないことが多いため、せめて大事なキーワードを記憶に残してもらうようにすることがポイントである。等級別人材定義を社員に浸透させることが昇格審査や評価制度の納得性の高い運用につながるのである。

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