お問い合わせ

第2回 人事制度の立ち位置 〜「思い」をマネジメントに活かすには〜

人事制度改革の領域

 人事制度改革の領域は、下図のとおりである。人事制度を整備し、機能させることによって、社員への期待を示し、期待の充足度を測定し、それに応じて報い、また育成することを行う。
 ところで、人事制度にはどんな会社にも共通して適用可能な唯一の最善解がないことは前回述べた。たとえば、職能資格等級制度や役割等級制度などのフレームワークは同じに見えるが、等級の段階数、等級定義、昇降格要件などは各社に個性がある。

 社員への期待は、その会社の基本理念や過去および現在のトップ層の思い、あるいは業務の進め方へのこだわりなどにゆだねられることが多い。そのため、業種や規模が同じような会社同士であっても人事管理の考え方が同じになるとは限らない。人事制度の形は、その会社の人事管理についての「思い」に規定されるからだ。

col_hrm_0201.jpg

「思い」を制度内容に反映する

 人事管理についての「思い」を出発点として人事制度の検討が始まる。人事制度には、その「思い」を制度内容や運用の考え方を通じて社員に伝える役割がある。  「思い」とは「こういう仕事や考え方・行動をとる社員になってほしい」また「こういう社員をこれくらいの処遇にして報いる」などの会社として人事管理上、何を大事にするかを示すものである。前者ではたとえば、等級基準や評価項目名、着眼点の内容などは直接その「思い」を伝える仕組みとなる。近年、経営理念に立ち返り、そこで求めること(考え方、取組み姿勢、行動など)をいかに具体化するかを検討し、その内容を評価項目へ落とし込む動きがあることはその1つの表れといえる。また後者については、昇降格の要件件設定とその運用や給与水準(範囲給など)の設定で伝えることになる。


 人事制度を構築する立場からは、構築された制度内容には「なぜそのような仕組みにしたのか」という理由があり、それはこの「思い」に立脚したものである。その「思い」は、たとえば新人事制度の社員説明会の際には、新しい制度内容とともに「なぜこのような仕組みにしたのか」を説明する中に込められる。ところが、説明を受けた側としては新しい制度内容そのものへの関心が強く、会場を一歩出れば「思い」まで意識することはないし、日常でも意識することはほとんどない。そこが人事担当者としての踏ん張りどころであり、制度導入後もいろいろな機会に、継続的に「思い」を発信していく必要がある。

 「思い」を制度の内容にいかに反映するかが、制度構築の重要な論点となる。そして、制度に組み込まれた「思い」を社員にきちんと伝えるべきである。

人事制度と職場のマネジメント

 「思い」を浸透させるには、継続的に浸透を促す施策を打つ必要がある。「思い」の浸透のカギを握るのは、人事担当者だけでなく、主として職場のマネジャー層である。実際には、職場のマネジャー層が制度内容を理解・共有している度合いが、人事制度が定着化するうえでの壁になることがある。必要に応じて制度をつくり込む過程でマネジャー層を巻き込みながら改革を推進するなどで理解の促進策を打つが、制度導入後にも継続的に打ち手を考えていかなければならない。なぜなら、「思い」を込めた人事制度の内容が職場のマネジメントのあり方に影響を及ぼすからである。

 詳しくは別の回で触れるが、たとえば等級制度には、職能資格等級制度(能力によって社員を格付ける)と役割(あるいは職務)等級制度(役割あるいは職務の内容によって社員を格付ける)の2つの種類ある。どちらの等級制度を適用するかにより、職場で求められるマネジメント・スタイルが変わるのである。
 職能資格制度の下では、たとえば成長を期待する部下に上位等級の役割や業務を任せ、そこで上位等級相当の能力水準を確認できれば、上位等級に昇格を促すようなマネジメントが可能である。
 一方、役割(職務)等級の下では、同様の状況で上位等級相当の力量を確認できたとしても、上位等級相当の役割(職務)の仕事がなければ上位等級に格付くことができない(上位等級相当の役割(職務)を創出する発想が求められる。また、現在上位等級に格付いている社員と新たに候補になった社員を比べて、その等級によりふさわしい社員に入れ替えるという運用も必要になる)。
 そのような状況に伴い、部下の業務に取り組む気持ちも変わることが想定される。役割(職務)等級の下でも、実際に上位等級に格付けられるかどうかは別にして、結局期待されている業務実績・行動を見せていかないと等級が上がれる可能性が小さくなっていく、ということであるが...。

 つまり、職能資格制度から役割(職務)等級制度への改革を現場のマネジメントを担う上司から見れば、昇るということをある程度見せながら部下に接することができた状況から、「がんばってほしい...でも、上がれるかはわからない」という中で部下をマネジメントすることが求められるようになるのである。

 これまで述べたように、人事制度改革は会社の「思い」から現場のマネジメント・スタイルをつなぐ橋渡しの役割を担うものである(下図)。そして、人事制度をそのように捉えて解釈することで、会社のマネジメント・システムの1つとしての人事制度に「深み」と「厚み」を持たせることができるはずだ。

col_hrm_0202.jpg

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの

イノベーション人材開発のススメ

  • 第6回 イノベーション人材が育つ組織的条件とは
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ